その日はいつにも増してじめじめと暑い日だった。



頬からたらりと一雫の汗が流れた。
それからぽとりと膝に落ちてズボンを濡らす。

「う゛っ………!?」

その微かな感触に別紅飴理はうめくように声を上げた。
しかしその原因を突き止めると、「ふう。」と小さく息を吐いて、また体勢を立て直す。

飴理はのどがからからと渇くのを感じた。
けれどそんなものには動じることなくまっすぐと前を見据える。
思わず目線を逸らしたくなる、目の前の光景。
けれどこのまま逃げるわけには行かない。

飴理は覚悟を決めた。
そして誰に了解を取るわけでもなく、自分に言い聞かせるように軽くうなずくと、ゆっくりとその歩を進め。






そして…






「うおありゃああああああああ!!!」






大きなかけ声と共に、手に持ったメガネの模様のついたスリッパを、勢いよく地面に向かって振り下ろした。

ガサガサガサガサッ…!!!

「はっ…!取り逃がしたかっ!!」

振り下ろしたスリッパを上げる間もなく、そのすぐ横から黒い素早い物体が嫌な動きで飛び出した。
そしてその黒い物体はまるで飴理をあざ笑うかのように、余裕な様子で頭部の触覚と思われる部分を揺らしながら駆けて行く。
そう、この黒い物体は、言わずもがな…アレである。

「よくなくない、よくなくな〜〜〜〜〜〜い!!」

醜いものが大嫌いで、きれい好きの飴理の部屋。
こんなものが現れるはずは無かった。無かったのに…
このじめじめのせいであろうか。遂にこのような事態が起こってしまった。

本当は目を逸らしたい。醜いものを見つめていたくはない。

しかし…!

このままアレと一緒に生活を共にするのはもっとごめんだ。
何とかして退治しなければ。
飴理は自分の中に宿る勇気を振り絞り、スリッパを手に戦っていた。

そしてさらに。
飴理には戦わなければならない理由があった。

へのプレゼントを、汚すわけには…いかない!!!」

そう決意する飴理の目の先には、小綺麗に片づけられた机の上に乗せられている小さな箱が1つ。
なにやらメッセージカードもついている。

への誕生日プレゼントを、アレなんかのために…それは絶対に、よくなくなーーーい!!!」

そう。これは飴理の恋人への誕生日プレゼントなのだ。
音瓶高校、美☆メガネ人コンクール男子の部、女子の部でそれぞれ優勝した飴理と
2人が恋に落ちるのにそう時間は掛からなかった。
そんな2人が恋人になって初めて迎えるの誕生日。
1週間ほど前から約束して、今日2人で近所の少し洒落た店で誕生日パーティを開くことにしていた。
そして当然持っていくはずのプレゼント。

が…!

飴理がそれを持っていくのを防ぐかのように、アレは飴理の机の周りを行ったり来たり。
極めつけには、机の上に上ろうとする気配すら見受けられるものだから置いていくことも出来ず。
飴理は時間が迫り来ることに焦りを感じながらも、果敢に戦いを挑んでいたのだ。

「醜いものは、大嫌いだ…大嫌いだけれど…ここで逃げ出すわけには行かない…!」

そう、へのプレゼントを守り奪還することが出来るのは彼しかいないのだ。

「私は決して逃げない!」

そうはっきりと断言して、飴理は再びスリッパを構えた。
…その瞬間。

「ひっ!!!」

足下にいたはずのアレは、嫌な羽音を起てて、なぜか空中に浮かんでいた…

「ぎゃっ!!」

迫り来る恐怖。
飴理は今度こそ逃げ出しそうになった。

「やっぱり…よくなくない…いくら私でも、アレは…」

敵は飴理にとって酷く強大だった。
しかし…

「はっ!!!そうだ…私は負けるわけには…いかないんだ…!」

ふと逸らしかけた目の中に、へのプレゼントが入ると、飴理は再び勇気を取り戻した。
そして手に力を込め、スリッパを構えると、腹の底からこう叫んだ。

「メガネカーブ!!!!!!!」

飴理の投げたスリッパは、これまでの彼の投手人生で最高クラスと言えるのではないかと思えるほど綺麗なカーブを描いて、敵の元へと向かっていった。
そして見事スリッパは標的に命中した。
その威力はまさに神業、すでに敵に生命の輝きはなかった。

「ふ、ふふ………よくなくな〜い!?よくなくな〜〜〜い!?」

勝利の余韻に浸る飴理。
飴理にとって怖いものは、もうここには存在しなかった。
飴理は自分の成した偉大な功績に自画自賛しながら、奪還に成功したプレゼントをしっかりと胸に抱いた。

「まだ走れば間に合う…!」

飴理は自分のベッドの上にある時計を見ると、約束の時間まで後20分ほどあることを確認した。
あの店までならこれだけあれば十分だろう。

、待っていてくれ…!」

飴理はそう呟き、胸を張って自宅を出発した。

しかし彼は気づいていなかった。
じめじめによる障害はこれでけだはなかったことを…
部屋にあった時計が、実は敵との対戦の途中に時を刻むのを止めていたことを…!

、果たして喜んでくれるだろうか。」

勝利の笑みを浮かべ、完全に浮かれている飴理。
彼の本当の悲劇は、実はこれから始まるのだ………




あとがき
……………では。



って待て!(汗)
ぎゃ、もうお待たせした挙句がこれで本当にスミマセン;瀬高あゆさです。
1月頃アンケートいただきましたよね…
本当に何ヶ月お待たせしたのか(汗汗汗)
無い智恵を振り絞ったんですが、とても笑えるようなものではない品に…
ど、どこでどう間違えてしまったんでしょう(涙)
その上美しくない話で…
もしご気分悪くされてしまったなら本当に申し訳ありませんっ…!!
(なんかもうギャグが強めというよりバカが強めになってしまって…汗)

それでは…いらないことこの上ないかと思われますが…
ハム猫さんに捧げさせていただきます。
本当にくだらなくてスミマセン;
こんな奴ですがこれからもよろしくしてやっていただければ光栄です。


瀬高あゆさ


☆ ☆ ☆ ☆

瀬高あゆささんに頂いた別紅ドリでした!
いや、もう…別紅さん素敵過ぎですよ……っ!!
この時ほど「メガネカーブ」がカッコ良く思えたのは初めてです。(笑)
しっかりとスリッパもメガネ柄ですし。
ゴキ○リに勝って、勝利の余韻に浸る別紅さんが大好きです♪
そして、ヒロインとの出会い(?)、「美☆メガネ人コンクール」……。
これは、見事ツボにヒットしましたよ……。
素敵すぎだっ、あゆささん……っ!!

アンケートの回答に、本当にドリを書いていただけるとは知らずに、
軽い気持ちで「別紅さん」と書いてしまったんですが、こんなに素敵なものを頂けるとは……っ!!(感涙)
自分だったら書けません。(待て。)
色々と困らせてしまったようで、すみませんでした……。(反省。)
あぁ、本当にもう、何回も同じ事しか言ってませんが、本当に本当に素敵別紅ドリを有り難うございました……っ!!


ハム猫小判




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