「ねぇねぇ、くん!これから皆で枕投げするんだけど、一緒にやらない?」
あの後、何とか成績上位に入れたオイラは、他の部員と共に旅館組に入れた。 「ん?いや、今日は止めとくよ。ちょっと行くトコあるから。」 声をかけてきた兎丸に、適当に返事をして、手を振りながら立ち去る。 「えーーーっ、今からどこ行くってのさーーー!」 そんな、後ろで文句を言う兎丸を残して、オイラは旅館を後にした……。 十二支波乱活劇11 〜波乱の合宿特訓結果〜
「お〜〜〜い、猿野〜、子津〜〜〜。その他部員〜〜〜。」
は、暗い山の中を掻き分けて、野宿組がいる場所を探した。 手には、旅館で見つけて失敬して来た岡持ち。 特訓後に猿野が色々と先輩達から3球同時ノックの軟球を盗っていたのは見たが、野宿組皆で分けて足りるのかどうか不安ではあった。 「……ま、何せ皆オイラとは違う正真正銘の食べ盛りなスポーツ少年だしねぇ……。」 そんな訳で、先輩達から余った食事をもらって来た、と言う訳だ。 「え〜…っと、確かこの辺……。あ、いたいた。」 ガサガサと茂みを掻き分けながら進んでいると、少し開けた場所に出た。 「猿野ー、子津ーーー!お前ら夕飯もう食べたか?一応残りもん持ってきたけど……。」 そう言いながら、岡持ちを持ち上げると、瞬時に手の中の岡持ちは消えた。 「おぅ、サンキューな!流石はオレの弟子だ!気が利くぜ!」 爽やかな顔で岡持ちを持ちながらのたまう猿野。 「いや、いつどこで誰があんたの弟子になったよ……。」 まともなツッコミはこいつには通用しないと分かっていても、ついしてしまう。 「あ、くん。」 そこで、先に来ていた子津が顔を向けた。 「や、子津。旅館の皆は今頃枕投げしてるよ。」 そんな子津に手を振りながら、軽く言った。 「枕投げっ!?」 その言葉に反応して猿野は叫ぶ。 「ちくしょう、旅館組の奴らめ、楽しみやがって!こうなったらこっちだってな、わくわくドキドキな旅行恒例の夜のゲームおっ始めんぞ〜〜〜っ!!」 旅館組への対抗心か、猿野が急に言いだした提案に、他の部員も乗っていく。 「肝試し」や「キャンプファイヤー」、「枕投げ」などの名前が挙がるが……。 「○×トーナメント、行くぜカモッ!!」 マジック片手に、どこから出したのか分からないホワイトボードをバックに猿野が言ったのは、小学生定番の「○×ゲーム」だった。 「じゃ、オレ先攻。」 そう言って猿野はたった4つしかないマスに○印を描いた。 「ちっさっ!!マスちっさーーー!」 あまりにも馬鹿らしい程に小さいそのマス数に子津は突っ込みを入れる。 「ん〜〜〜、じゃあ、オイラここねっ。」 そんな猿野に、は赤色のマジックで×印を描き込んだ。 「って、何くん乗ってるんすかっ!?こんなのすぐ負けるじゃないっすかっ!?」 オイラの行動にも、子津は律儀に突っ込みを入れる。 「……まいりました……。」 しかし、猿野は自ら負ける場所に○印を描き込んだ。 「やったーーー!勝ったーーーっ!!」 自らの猿野の自爆に喜ぶ。 「……って、ちょ、くん!何喜んでるんすかーーーっ!?」 「いや、こういうのは気にした方が負けなんだって。」 すでにもうどこから突っ込んで良いのか分からない子津が、に詰め寄るが、はさらりとした表情で言った。 そんな、猿野の微妙なノリで盛り上がりながら、合宿2日目の夜は更けて行った……。 ーーー合宿3日目ーーー
「昨日明言した通り、本日は打の特訓を行うわけだが…、始める前に二、三話がある。」
朝6時と言うまだ早い時間に、グラウンドに集められた部員達(主に野宿組)は睡眠不足と疲労でげっそりとしながら羊谷の話を聞いていた。 (流石にあの環境で熟睡しろってのが無理かな……。) 前の方に立っている野宿組がふらふらしているのを見ながら、は思った。 (……って言うか、旅館で寝てたはずのこいつがふらふらしてるのもおかしいけど……。) そして、目の前に立っている犬飼を見る。 確か、犬飼は足の怪我があったので、医務室で寝かせてもらってたはずだ。 隣の辰羅川が一生懸命に起こそうとしている。 それにまた猿野が加わり、朝っぱらから煩い事になったが……。 そんな事は置いといて。 「これよりこの合宿の真の目的と趣旨を説明しようと思う。」
監督のその言葉に、辺りが静まる。
すでに誰もがこの合宿が「ゆかいな合宿」では無い事を身に染みる思いで感じてはいたが、真の目的とは何なのか。 その思いに、各部員は監督の言葉を待った。
この合宿での特訓メニューは、各部員の能力を再度確認するためのもの。
監督の説明はそうだった。
「どうしてこんなまわりくどい事をするのか、理由はひとつ……。」
そう言うと、監督は一度言葉を切った。 くわえていた煙草を手に取る。 「お前らを完全実力至上主義のもと2軍に分けるからだ。」
「2つに……っ!?」
その言葉に、部員の中から驚きの声が上がる。 「そう…ただし、1軍2軍ではない。その名も…雄軍・賊軍だ。」 1軍にあたる雄軍は実力上位20名の精鋭部隊。 そして、夏の大会のメンバーはその雄軍の中から選出する。 その説明に、誰もが言葉を失った。
余りにも今更の説明。
すでに殆どの特訓を終えた後。 最後の一つ、打の特訓で今までの評価を塗り変える事が出来るのか。 3年はもとより、部員全体から反対の声が飛ぶ。
(雄軍・賊軍、か……。)
そんな中、は一人離れて冷や汗を流していた。 (全体から見たら、結構出来てた方だとは思うんだけどな〜〜〜……。20人、か……。かなり厳しいふるいだな……。) 各々、思う所はあれど、兎に角最後の特訓の時が来た。
「第4メニュー・打の特訓は…マシンバッティングだ。」
羊谷監督は、マシンの横に立ち、説明する。 球は全部で10球。 その中でいくつ打ち返せるかで結果が出る。 最初に名前を呼ばれたのは子津だった。 「頑張れ、子津……!」 グラウンドへ向かう子津に、は声をかけた。 「は、はい、頑張るっす……!」 その声に、ぎこちなく笑って見せながら、子津はマシンの前に立った。 この場にいる誰もが思っている事。 ”この試験は何が何でも合格しなければ” その思いを胸に、子津はバットを握り締めた。 「では、いくぞ。」
監督のその言葉に、周りの部員は息を呑む。
一体どんな球が飛んでくるのか……。 そう思い、マシンを見つめていると……。 ズドオォン……ッ!!
凄い音を立てて、その剛速球はミットの中へ突っ込んだ。
「な……っ!?」 見ていた誰もが言葉を失う。 「悪いな、このマシンは球速を145kmからセットしてるんだ。」 部員達の反応を見て、監督は一言そう言った。 「そ、そんな……!」 グラウンドに立つ子津は絶句する。 そんな剛速球を目で追えるはずが無い。 「2球目。」 監督のその言葉に、子津は兎に角打たなければ、とバットを振った。 しかし…、今度飛んできたのはスローカーブ。 子津のバットは、球に触れる事も無く空振りした。 「そ…そんな、てっきり次も145kmの速球が来るかと……。」 すでに息も切れている子津は、バットに寄りかかり呟いた。 「オイオイ、何言ってやがる。次どんな球が来るか分かってちゃ誰だって打てんだろ。」 監督はそう言うと、ニヤリと笑った。 「第4メニューは、イレギュラースピードマシンバッティング。」 球速70kmから145kmに加え、球種も様々。 そうなると、予測が出来ない分、多くの部員達がこの特訓に泣かされる事となった。
(兎に角……。)
そんな中、まだ順番の回って来ていないは、バッターボックスの斜め後ろにいた。 (予測が出来ない分、このマシンの球に慣れなきゃいけない……。) そう思い、はずっと、球を目で追っていた。 球速の緩急は勿論、球種までいれると、外で見るのでは感覚が違う。 少しでも近くで、少しでもボックスに立った時と同じ感覚で慣れるしかない。 は、そう結論を出した。 何度と無く球を目で追いながら、カーブ、ストレート、スロー…色々な球を見て、感覚を覚える。 自分の身体の中のリズム、鼓動、全ての感覚で球を計る。 スローカーブは何拍目で曲がるのか、ストレートはどの感覚で振れば当たりそうか……。 見ている間にも虎鉄先輩が7球当てていたが、先輩も「体で感じる」と言っていた。 (このやり方は間違ってはいないはずだ……!) はそう思いながら、とうとう自分の番を迎えた。
「じゃあ、行くぞ、1球目。」
その言葉と共に出た球。 1球目は145kmのストレートだった。 「…………っ!!」 やはり、後ろから見るのとボックスに立つのとでは全然違う……。 1球目、はバットを振る事も出来なかった。 「……駄目だ…、慣らさなきゃ……っ。」 悔しそうに唇を噛みながらも、はその後、2球を見送った。 が、その後は感覚を取り戻し、残り7球の内、6球を当てる事が出来た。 「…、6球か……。一年の中ではまぁまぁだな。」 監督がそう呟きながら結果を書き記す中、はボックスを離れた。 この結果が、その後のふるい分けにどう響くか……。 (どうにか雄軍に入っていれば良いけど……っ。) そう思いながら、は打の特訓が終わるのを待っていた。
「では、これより待ちに待った雄軍のメンバーを発表する。」
部員達が緊張の面持ちで見つめる中、監督は雄軍メンバー20名の名前を呼び上げ始めた。 (何とか入ってますように……っ!!)
ここにいる皆が心の中で思っているであろう事を、も願っていた。
一人一人名前が呼ばれる度に、希望が消えて行く。 だんだんとメンバーも最後の方になり……。 「以上20名。」
監督のその言葉がグラウンドに響いた。
「え…あの監督、1年はっ!?1年がまだ呼ばれてませんが……っ!!」 雄軍として呼ばれた20名を前に、残された者達は監督に叫ぶ。 「これで全員だ……。1年で雄軍に入れるレベルの者は一人としていねーな。」 しかし、監督はそんな悲痛な叫びにも冷たく返した。 「そ…そんな……っ!?」 その言葉に、はショックを受ける。 自分から見ても、特訓の結果はそれなりに出してきたつもりだし、雄軍に選ばれた中には自分と同じくらいの結果の人もいた。 どうして…どうして自分が選ばれないのか……。 目の前が真っ暗になる気持ちでいると、周りの部員他が抗議し始めた。 口々に文句を言う。 そんな部員達が煩くなった監督は、簡単な説明をした。 雄軍20名の内枠は、各ポジションのランキング上位2名。 そして、ピッチャーは上位4名が選ばれる。 「つまり、テメーらは上位2名にすら入ってねぇのよ。ピッチャーなら4番目にも入ってねぇんだわ。」 さも簡単だ、と言うように、監督は説明を終わらせた。 だがしかし、ここで引き下がる訳にはいかない。 すかさず辰羅川が反論をした。 「お言葉ですが、その条件ですと2週間前の格付では4名がそこに該当していたはずですがっ!?」 「そりゃ2週間前のハナシだろ。」 しかし、そんな辰羅川の言葉にも羊谷は耳を貸さない。 「お前らはしょせん、中学生レベルだったのよ。」 そう言うと、バッサリと切り捨てた。 その上に、1年の各欠点を次々に上げ、皆の意気を消沈させて行く。 「中学では通用したかもしれないが、高校は違う。では、この2週間ではっきりした今現在のランキングを発表しよう……。」 その言葉と共に、マネージャー達がホワイトボードを持ってくる。 そこには、各ポジション別のランキング表が張られていた。 (オイラは……っ。) 皆が皆、自分の名前を探す。 「…………っ!?」 名前は見つかった。 だが、しかし、その場所は……。 「セカンド4位……っ!?」 目の前の事が信じられない。 「これで分かっただろう。身の程ってもんが……。」 皆が衝撃を受けている中、静かに監督は言った。 「なぁ、何でオイラが4位なんだよ……っ!!」 しかし、そんな監督には食いついた。 前に進み出て、抗議する。 「オイラ、特訓の成果だって結構上げてただろっ!?なのに、何で雄軍に入れない上に4位なんだよ……!」 そんなを、羊谷は冷たい目で見る。 (やっぱり…、やっぱり女だからなのか……っ!?元々、どんなに頑張っても皆と同じ位置には立てないのか……っ!?) そう思うと、涙が出てきそうだった。 そんな悔しそうなを見て、羊谷は口を開いた。 「……お前…、本気でそれ言ってるのか……?」 とても冷たい言葉。 その言葉に、は一瞬血の気が引いた。 「分からねぇなら言ってやろう。……確かに、お前の結果は良かった。だが、しかしだ。ただ単に結果だけを見るか、その結果の内容を見るか、だ。」 「…………っ!?」 一言一言ゆっくり喋る監督の言葉に、疑問に思う。 周囲の部員達も、成り行きを見守っている。 「お前は…、投げる事も捕る事も打つ事も出来る。だが、基本的な欠点がある……。肩だ。」 そう言って、ゆっくりとの肩を指差す。 「か、肩……っ。」 「そうだ。牛尾にも言われただろう。肩が駄目なら、球を投げても、打っても、飛ばねぇ。表面的に何でも出来るようでも、結果が出せないんじゃ意味がねぇんだ。牛尾のメニューこなしてたようだが…、付け焼刃では無理だ。もっと、じっくり筋肉付けていかねぇとな。」 は、聞きながら目の前が暗くなって行くようだった。 体が重く、冷たくなっていく。 自分の思い上がりが恥ずかしくて…、逃げ出したい気持ちだった。 「ま、これで分かったなら今回は諦めて、秋季でも目指してもらおうかね。」 これで話は終わったか…、と言う風に羊谷は言った。 が……。
「異議を申し立てます。」
辰羅川が手を上げて申し出た。 「おそれながら、この1年ランキングには何か不当なものを感じざるを得ませんね。入部試験での結果が当てにならないのであれば、今回の結果も同様と考えます。先程のくんの件に関しても…、肩の問題は重要ですが、彼の結果は只でさえ目を見張る物があります。技術面でカバー出来る問題を、そうまでして切り捨てるのにも疑問を感じます……。」 「辰羅川……。」 辰羅川の言葉に、は顔を上げる。 「直接ぶつかってみた訳でもないのに、一体その判定基準はどれ程のものやら。……納得致しかねます。」 辰羅川がそう言い終ると、他の部員達も口々に叫び出す。 それは止む事は無く、ますます激しくなる一方。 その様子を見ていた雄軍の2・3年達は、1年のその態度に反対に頼もしささえ感じ、微笑んでいた。 そんな周囲の反応を見て、頭の痛ませていた羊谷はとうとう一つの決断をした。 「あ゛〜〜〜、分かった分かった。仕方ねぇな、じゃ、こうしようじゃねーか……。」 額に手を当て、溜息を吐きつつ発言する。 「2・3連合軍VS1年。ガチンコ直接対決で白黒はっきりつけてみるか……?」 その、監督の言葉で。 この合宿最後の波乱が、幕を開けた……。 〜〜〜後書き〜〜〜 ハム猫・「あっはは、今回も全くキャラとの絡みが無い上に無茶苦茶なこじ付けで進ませた男装連載11話でした!」 辰羅川・「……逆ハーが抜けてますよ……っ!?」 ハム猫・「いや、もう間違えだから、アレ。消去の方向で。」 辰羅川・「そ、そんな……!」 ハム猫・「うん、考えたらね、今回も本当に絡みが無くて。ヒロインの野球部奮闘話になっておりまするな。友情で良いじゃん?」 辰羅川・「友情にもなっていない部分が多々ある気が致しますが……。しかも、また今回も細かい所を削った書き方で……。」 ハム猫・「こっちだって、野球知識無い中どう切り抜けるか無理矢理頭絞ってるんだぃ!ぅわん、もう二度と野球連載なんて書くもんかーーーっ!!(泣)」 辰羅川・「泣かれましても困ります。あなたにはこの連載を無事に終わらせて頂かなければならないのですから。」 ハム猫・「……それだけはするけどね……。」 辰羅川・「まぁ、もうそこに終わりが見えて来てますから。今後は少しでも絡みを入れる事を頭に置きながら書く事ですね。」 ハム猫・「どぐふぁーーーっ!!き、効いたぜ、その一言……っ!!」 辰羅川・「…………。と、まぁ今は管理人が喋れる状態ではないので私が締めを……。本当に夢の欠片も無いような話になってしまって申し訳ありません……。次の話がもう少しでもマシになる事を祈って…、宜しければまた覘きに来て下さいね。」 |