「おめーが女だって事はもう俺にはバレてっからな。」
タバコの煙をフーーー、と吹き出しながら羊谷は言った。 「え゛……っ!?」 瞬間的にバッ、と凪の方を見るが、凪は困った顔で首をフルフルと振っていた。 「……何でだ……。」 少し警戒体勢に入ってしまう。 「そりゃー、その細っこい体とか、声とか、顔つきとか……。色々あるけどな。まっ、ようは経験だ、経験。」 「何の経験だ……っ!!」 フハハ、と笑う羊谷に、またもやツッコミを入れる。 「で、だ……。」 そんなツッコミも無視して羊谷が言う。 「女と分かったからって”やめろ”なんて言わねぇ。しかし、だ。もしも野球部のヤロー共に女だとバレた時には…、覚悟しといてもらうぞ。」 羊谷の表情に、一瞬ゾッ、とする。 「な…、何が……。」 怖々と聞く。 「ん?まー、よーするに罰ゲームみたいなもんがあると思ってくれたらいい。……あ、違うか……?まぁ、とにかくこれはゲームだ。お前が無事に女だとバレずに続けていられたらお前の勝ち。逆に、ヤロー共にお前が女だとバレたら俺の勝ちってやつだ。」 そう言って、また羊谷は、あの嫌なニヤリとした笑いをした。 十二支波乱活劇3 〜波乱を乗り越え初部活〜 キーーンコーーンカーーンコーーン
昨日は色々あったが、今日が初・練習日だ。
ユニフォームは昨日牛尾先輩にもらった。 高鳴る胸をおさえて、は凪に一言言った。 「じゃあ、先に行っててね。」 「ハイ。」 凪はニッコリと笑う。 そしてーーー、は思い切りのダッシュで校門を出た。
つまり、こういう事である。
の家は、十二支高校から徒歩30秒の所ーーつまり、学校を出て角を曲がればすぐそこーーにある。 さすがに男子部員と一緒にユニフォームに着替える訳にもいかず、だからと言ってマネージャー達と一緒に着替える訳にもいかず……。 だから、一旦””として家に帰って、家でユニフォームに着替え、””としてクラブに向かう、という事にしたのだ。 ただし、人目をかなり気にしなければいけないが。
のダッシュ力で何とかクラブ開始には間に合った。
周りを見ると、皆トンボがけをしていたので、自分もトンボを手に取り、グラウンドを整え始めた。 「あっ、君だーーー!」 一生懸命トンボがけをしていると、兎丸の声が耳に入って来た。 「あっ……。」 顔を上げると、兎丸が駆け寄って来ていた。 「あ…、えと…兎丸…だっけ?」 の元へ来た兎丸に聞いた。 「うん!ぼくは兎丸比乃だよ!それで、こっちは司馬葵君っ!!」 いつの間にか兎丸の隣にいた司馬を指差す。 司馬は少し顔を赤くして手を差し出した。 しばらくそれを見ていたは、それが握手を求められているのだと気付き、急いで手を出した。 「あ…っ、ども……。」 軽く手を握る。 「シバ君はねーーー、照れ屋さんだからほとんど喋らないの。」 兎丸が隣で補足説明をしている。 手を離すと、司馬はニコリ、と笑った。
「おーーーい!集合ーーーっ!!」
兎丸達と話していると、向こうの方で羊谷監督の声がした。 周りを見ると、すでに整地は終わっていた。 は、急いでトンボを近くのフェンスに立て掛け、兎丸達と集合場所へ急いだ。
「あーーー、皆昨日の事でもう知ってると思うが、今日から1人部員が増える。」
今、は並んでいる部員達を前に、羊谷の隣にいた。 「ほれ、挨拶でもしろ。」 そう言って、羊谷はの両肩を掴み、前に出した。 「です……。よろしくお願いします。」 はゆっくりとお辞儀をした。 「まっ、昨日のでこいつの力は大体見たと思うが…、てめーら、頑張んねーとこいつに抜かされるぞ。」 未だにの両肩に手を置いている羊谷はニヤリ、と笑った。 「じゃあ、練習始めろっ!!」 その言葉と同時に、のお尻に何かが触れ……。 ゴスッ……!! ドサッ……
「「「「…………。」」」」
目の前に並んでいる部員達は、不思議そうな、一部恐ろしそうな目でを見た。 今さっきの音は、羊谷がのお尻をまた触ったので、正義の鉄槌(肘鉄)をが加え、羊谷がグラウンドに倒れ込んだ音だった。 しかし、のすばやい行動に気付いた者は少なく半分以上の部員は何が起きたのか分からない、と言う顔をしていた。 「何やってるんですか?(こんなおやじは置いといて)さぁ、練習を始めましょう!」 は、目深にかぶった帽子の上からでも分かる程、ニッコリと笑った。
「君ーーー!一緒に練習しよーーーっ!!」
がグラウンドで柔軟体操(?)をしていると、兎丸が声をかけて来た。 「あぁ、いいよ。」 一緒のポジションだしね。 はそう思い、兎丸に聞いた。 「まず何する?」 「ん〜〜〜、とねぇ……。まずは走ろうよ!準備運動ついでにっ!!」 兎丸は嬉しそうに言った。 「よっし、OK!じゃあ、行くか。」 そう言って、と兎丸は走り出した。
「そう言えば、まだ君皆の事知らないよね。」
走りながら、兎丸が急に言った。 「ん?あぁ……。そーいや、まだ全然知らないな……。」 兎丸と並んで走りながら言う。 「じゃあ、今ぼくが軽く皆の事紹介しとくね!ん〜〜〜と……。」 そう言って、兎丸は視線をキョロキョロと泳がせた。 「あ、いた!あの、グラウンドの真ん中らへんで埋められてるのがお猿の兄ちゃん。猿野天国って言うんだよ!」 兎丸は指差しながら言った。 確かに、グラウンドに埋められている……。 首から上だけを出して……。 「それで、その隣でオロオロしてるのが子津君。子津忠之介。あと〜〜〜…、あそこの色黒の人が犬飼冥君。もみあげの人が辰羅川信二君。…………。」
「ねぇ、そういえばさぁ。初めて見た時から思ってたんだけど、何でそんなに目深に帽子かぶってんの?」
今は、兎丸の部員紹介も終わり、走っている途中で司馬も巻き込んでトラック3周目を走っている。 「……何で聞くんだ……?」 隣の兎丸に問いかける。 ちなみに、司馬は達の一歩後ろを走っている。 「気になるから♪」 笑顔で兎丸は答えた。 「じゃあ、こっちも聞くけど、兎丸は何で帽子かぶってんだ?」 こちらもニッコリと、笑って返した。 「え?ぼくのこの帽子……?これは…、まぁ、お洒落だよ。」 「じゃあ、オイラもお洒落♪」 兎丸の返答を聞いて、満面の笑みで切り返した。 「あっ、ずるい!それ答えになってないよーーーっ!!」 帽子取ってみてよーーー!と言ってくる兎丸を、少しペースを上げて引き離して行く。 それに合わせて、兎丸もスピードを上げる。 外目からは、全力疾走に近い二人(カーチェイス並み)を、おろおろと急いで追いかける司馬、と言う面白い図になっていた。
「ハァ…、ハァ…、ハァ……。」
兎丸と最後は競争のようなものになっていたので、走り終えた頃には、さすがに息が上がっていた。 屈伸運動をしながら息を整えていると、足元に影が落ちた。 「…………?」 顔を上げると、そこには笑顔がまぶしい牛尾先輩が立っていた。 「やぁ。さすがに疲れたかい?見てたけど、昨日よりもタイムが上がってそうだったね。」 そう言いながら、一枚の紙を渡された。 「ん?」 その紙を見ると、一番上に大きめの文字で、「The☆牛尾御門の特別特訓メニュー」と書かれていた。 そして、その下には、「腕立て150」「腹筋200」「トンボ素振り400」……等々、気の遠くなりそうな程のメニューが書かれていた。 「あの、すいません。そこはかとなく聞きたくない気はするんですけど…、コレ何ですか……?」 死にそうな顔で聞く。 「ん?今日からこれをするんだよ。」 「こんなんやってたら、日が暮れますよっ!!」 「慣れたら、少しずつ増やしていくからね♪」 の本気のツッコミもサラリとかわし、牛尾は輝かんばかりの笑顔で言ってのけた。
何だか、輝くばかりの牛尾の笑顔に中てられて、又、少し入部した事を後悔して、特訓メニューを手に灰になる。
はこれからどうなるのか……っ!? ーーー続くーーー 〜〜〜後書き〜〜〜 ハム猫・「お待たせしました。男装(逆ハー)第3話です。」 羊谷・「すでに、逆ハーに(カッコ)が付いてるな……。」 ハム猫・「いや、もう、期待するのが悲しくなって来たので。」 羊谷・「にしても、どんどん無茶苦茶な点が多い話になって来たな……。」 ハム猫・「そっすね。大体、男装物って学校に通う時点で男として通ってるのが多いんですけど、うちのは部活中だけっすからねぇ……。朝練とか、どうやって着替えてるんだとかツッコんじゃ嫌ですよ。」 羊谷・「墓穴掘ってどうするよ。」 ハム猫・「そこらへんは、あなた方のすばらしい想像力で考えて下さい!…ってことで、これ以後その事には触れません。ちなみに、腕立てや腹筋の回数はうちの学校の演劇部さんの筋トレを参考にさせていただきました。なので、本当に野球部がどのくらいやってるのかは知りませんが、テキトーに当てはめておいてください。」 羊谷・「ところで…、俺の扱いひどくねぇか……?」 ハム猫・「ハイ。もぅ、1日1セクハラ、みたいな感じで。1日1回はさんに沈められるのを覚悟しといて下さい。」 羊谷・「ひでぇ話だ……。老体には響くんだぜ?あれ……。」 ハム猫・「それでは、やっと部活が始まりました!これから他の方々も出して行きたいと思っていますので、今後ともよろしくお願いしますっ!!」 |