十二支波乱活劇4
〜波乱波乱の大爆走〜










「231…、232…、233…、234…、235……って、もーーダメーーーっ!!」
は、手にしていたトンボを地面に落とした。
「でも、始めたばかりにしてはすごいじゃないか。本当は半分も出来ないと思ってたけどね。」
ハハ、と笑いながらも隣で未だにトンボ素振りをしている牛尾。
「いや、何かムキになってやっちゃったんすけど……。もう、腕1mmも上がりませんよ……。ってことで、後のメニューはいいですか?」
地面にヘタリ込んで、腕をダラリとさせながら、しかし最後は笑顔で尋ねる。
「いいや。ちゃんとやらなきゃ駄目だよ♪」
こちらも負けんばかりの笑顔で答えてくる。
「「…………。」」
しばらくそのままの笑顔で2人共見合わせたままだったが……。
「さぁ、ほらちゃんと次のをやらなきゃ。」
「いやぁだぁぁーーーっ!!全身筋肉痛ーーーっ!!」
牛尾は、の襟首を掴み、ズルズルと引っ張って行く。
後には、の空しい叫びが響いた。










「あ゛ぁ゛あ゛……。もぅ、ここ連日体中痛くて死にそーだ……。」
今はやっとあのスパルタ牛尾先輩に休憩を許され、ベンチで休んでいる所だ。
「本当に大変ですね……。」
隣にいた鳥居凪が苦笑して言った。
「大変どころじゃないよ……。このままじゃ、オイラ死んじゃうかも…って言っても、自分から言い出した事だしな。文句たれても始まんないか。」
側に凪しかいないから出来る会話。
は、男装して野球部に入った。
それを知るのは、この凪と(変態)羊谷監督だけだ。
「でも、無理だけはしないで下さいね。」
そう言って、凪が微笑みかけたその時ーーーーー……。
「凪すわぁ〜〜〜んっ!!」
来た。
「また来たのか…あいつ……。」
猿野天国が、バックに花を背負いながら駆けて来た。
「ぅをっ!?何でお前がここにいるんだよっ!?」
ベンチまで来て、やっとの存在に気付く。
「あのな。お前今まで気付いてなかったのか……。」
目深に被った帽子の下から、冷たい視線を送る。
「俺の目には凪さん以外は映んねぇからなっ!!」
何故か自信満々に言う猿野。
「あのさ……。」
そんな猿野に声をかける。
「あん?」
「凪ならもういないけど……。」
そう言って、猿野の背後を指差す。
「何……っ!?」
猿野がバッ、と後ろを向くと、タオルを手に走っていく凪が見えた。
その先にはーーー何故か勝ち誇ったような虎鉄の姿があったーーーーー……。



勝者ーーー虎鉄。



「あ゛ーーー…、まぁ、残念だったな。」
目の前でガックリとうな垂れる猿野の背中をポンポンと叩く。
「でも、どうしたんだ?いつもなら、即行で走って行って虎鉄先輩とケンカ始めるのに。」
隣に座っている猿野に問う。
「ん?あぁ…、まぁ、今日はちょっと色々とお前に……。」





ガ……ッ!!





猿野が言葉を言い終える前に防御に入った。
猿野の手が、帽子に伸びたのだ。
「お…お前……!何……っ!?」
ギリギリと猿野の腕を押し返しながら言う。
「もーーー。お猿の兄ちゃん、もっと上手くやってよねーーー。」
一体何が……っ!?、と思っていると、兎丸が現れた。
「兎丸……っ!?」
「ヤッホーーー♪」
そちらに目をやると、ニコリ、と兎丸は笑って手を上げた。
君がどうしても帽子を取ってくれないから、僕達強行手段に出ようと思って♪」
「サラリと恐ろしい事言うなぁ……っ!!」
力を抜くと帽子を取られるので、手の力は入れたまま叫ぶ。
(チッ……!しかし…、2人で来られるとさすがにキツイかな……。ここは一先ず……。)





ーーーーー逃げるっ!!





パッ、と猿野の腕を放し、ベンチから駆け出した。
「あーーー!待ってよ君ーーーっ!!」
(まずは、どこかに隠れなきゃ……っ!!)
追いかけてくる兎丸(VR使用)から逃れながら、とにかく隠れる場所を探した。










「ハァ…ハァ…ハァ……。」
(牛尾先輩の特訓の後にこんなに走って……。死にそうだ……。)
只今オイラは女マネの準備室(つまりは更衣室)裏にいる。
決して覗きとかではなくて、(ってかオイラは女だ……っ!!)兎丸比乃から逃れるため。
何だって人の帽子をそんなに気にするんだ……っ!?
自分だって被ってんのに……っ!!(何かが違う。)
帽子取ったら、さすがに女顔なんです、じゃすまないし……。
一気にもろバレだ……。
ここは、戦争を起こしてでも守らなきゃ……。(何を。)



そんな事を思いながら、息を整えているとーーーーー……。

ポン

肩に何かが触れた。
体を強張らせて振り返ると、そこにはーーーーー……。





(忘れてた……。)





猿野天国がいた。



「へへ!追い詰めたぜ……っ!!」
肩に置いている手に力を込めて、猿野は笑った。
「お前…、何でここが……っ!?」
「あぁ、ここならいつも来てっからな。」
「こんの変態が……っ!!」
サラリと答える猿野に、ツッコミ(鳩尾突き)を食らわす。
「おふぅ……っ!!」
その瞬間、くず折れる猿野。
「あ…、つい……。」
目の前に倒れている猿野をどうしようか考え……。





とりあえず、埋めた。





この前見た時の様に、ちゃんと首だけを出して。










そうこうしていると、先程の声を聞きつけたのか、こちらに駆け寄る足音が聞こえてきた。
「チ!ここもダメか……っ!!」
そう思って、猿野を置いて逃げ出そうとした時ーーーーー……。



「何なんだよ、コレェえぇェ……っ!?」



目にしたのは…、野球部軍団だった。(報道部含む。)

兎丸を先頭に、大勢の野球部員がダンゴのようになって追い駆けて来る。(後ろの方で息絶えて行く者あり。)
「な…、何で…あんなに…いるんだ……っ!!」
走りながらも、その数の異様さにツッコム。
「しかも…っ、蛇神先輩まで……っ!!」
泣きたい思いでは言った。
そう、兎丸の左後ろには、ちゃっかりと蛇神がついていた。
……しかも、開眼で……。





今では、1対数十人でグラウンドを走り回っている。
そのうちに脱落者も増えて来た。





「もーーー!君観念して帽子取ってよーーーっ!!」
「嫌だ!ってか、何でお前ら息切れてないんだ……っ!?」
兎丸の言葉に、首だけで後ろを向いて答える。
「そーーーだ!素顔がブサイクだからって、んな帽子で隠すなっ!!世はすでにブ男の時代だっ!!」
「テメーと一緒にすんなっ!!……って、何で猿野がいるんだよ……っ!?」
先程、しっかりきっちり埋めて来たはずの猿野が、ちゃっかりと軍団に混ざっていた。
「「「「「待てーーーっ!!」」」」」
「待てと言われて待つ奴がいるかーーーっ!!」
(……と、口では言っても、正直キツクなって来たな……。やっぱり、あの牛尾先輩の特訓のせいだ……っ!!)
などと、心の中でぼやきながら、涙をこらえて走っているとーーーーー……。










ドンッ!!


ファサ……。



「あ゛……。」
「「「「「あ゛ーーーっ!!」」」」」





今、目の前には司馬葵。
今、オイラの帽子はグラウンドの上。



つまりーーーーー……。
司馬とぶつかった時に、帽子が脱げた訳で……。
一つにくくって帽子の中に隠していた髪の毛も下りて来た。





「ぁ…、あ゛……。」
オイラは何故か司馬の顔を凝視していた。
司馬は…、よくは分からないが、困ったような…、何か言いたいような顔をしていた。

「…………っ!!」
次の瞬間、オイラは我に返り、急いで顔を隠しながら帽子を拾い、グイと被り直した。
その時に、急な事に固まっていた兎丸達も我に返り、追い駆けて来る。
「後よろしく……っ!!」
オイラは、司馬の横を走り抜ける時に、一言そう言った。
司馬はオロオロしていたが、どうにか皆を止めようとしてくれたみたいだ。
その間に、オイラは逃げ切る事が出来た。



司馬葵。
彼の口が堅い事を願うばかりであるーーーーー。










〜〜〜後日〜〜〜
オイラを追い掛け回した野球部軍団の面々には、グラウンドを荒らした、という事で牛尾先輩からキッツイ筋トレメニューのプレゼントがされ、「追い駆け禁止令」も出された、と言う……。














〜〜〜後書き〜〜〜

ハム猫・「男装(逆ハー)第4話、お届けいたしました!」

猿野・「何か、コレもうすでに夢のかけらもねぇな……。」

ハム猫・「言うな……。それ以上……。」

猿野・「にしても、今回オレの扱いひどくないか……?」

ハム猫・「あはは、何言ってるんですか、普通ですよ、普通。(棒読み)しかし、今回は珍しく羊谷監督が出てませんね……。でもきっとどこかで一発食らってますね。」

猿野・「ったく。今回は追い駆け回し損だぜ!……でも、司馬は見た訳だよな……?」

ハム猫・「そーですねぇ……。はっきりぽっきり見たでしょうね。……さて…、気づいたんでしょうかねぇ……。」

猿野・「……こえーぞお前……。まっ、何かどんどん野球と関係無い話になって行ってるけど、よければ次も読んでやってくれなっ!!」



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