十二支波乱活劇5 〜意外な「彼」に波乱の予感!?〜
「凪ちゃーーーんっ!一緒にお弁当食べよっ!!」
ガラリッ、と勢い良く扉を開けたのは、。 十二支高校の一年であり、男装して野球部に入っている。 「あっ、さん。」 そして、こちらは鳥居凪。 の男装入部の事を知る、数少ない1人である。 「……っと、子…え゛〜〜〜っと、子津君。凪ちゃんに用事?」 (いけない……。つい、いつもの調子で話し掛ける所だった……。) 少し冷や汗をかきながら、凪に話しかけていた子津に声をかける。 「あっ…、いえ、用事って程の事じゃないんすけど……。ちょっとクラブの事で……。」 少し照れながら子津が言う。 と、ハタと子津はの顔を見た。 「…………?」 「えっと…、その…、さん…ですか……?」 「うん?」 「その…、ボクの事知ってたんっすね……。」 少し、不思議そうに言って来る。 (あっ、そっか……。この姿で会うのは初めてか……。) 「ボクの方はたまに鳥居さんの所に来てたのを見かけた事はあったんすけど……。」 恥ずかしそうに俯く。 「あ!ぅん、その、凪ちゃんに話し聞いてて知ってたから……っ!!」 ここで怪しまれてはいけない。 どうにかしてごまかさなければ。 「そうなんっすか……。あの、良ければ名字を教えてもらえないっすかね……?名前で呼ぶのは…ちょっと……。」 あぁ、純情少年よ……。 「うん?名前でも別に良いけど……。!だよっ!!」 「…………。さん…っすか。じゃあ、すみませんでした。お邪魔したっす!」 そう言って、子津は自分の席へ戻って行った。
「アハハ……。ちょっとびっくり……。」
少し冷や汗をかきながら、呟いた。 「そう言えば、今日は何だか嬉しそうでしたが、何かあったんですか?さん。」 ニコリ、と凪が微笑みかけた。 「あ!そうなんだ〜〜〜♪忘れてたけど…、何と、今日のオイラのお弁当はオムライスなのですっ!!」 そう言って、お弁当箱を掲げる。 「まぁ、それは良かったですねっ。オムライス好きですもんね、さん。」 凪も嬉しそうに微笑んでくれる。 「うん♪じゃ、屋上行こ!凪ちゃんっ!!」 そう言って、オイラは凪を引っ張って行った。 そんなオイラ達を、子津君が見ていたなんて知らずにーーーーー……。
「に、してもさぁ。やっぱダメだねーーー。ついついクラブの時の調子で声かけそうになっちゃったよ。」
オムライスを一口食べながら、は言った。 「……子津さん…ですか……?」 「うん。何かヤバイなぁーーー。怪しまれてないと良いけど……。ところで、凪!オイラがバレた時の罰ゲーム?…って何だか知ってる……?」 隣でお弁当箱を広げている凪に聞く。 「いえ…、羊谷監督は何も言ってませんでした……。何を考えてるのか、私には分かりませんね……。」 凪は少し、顔を曇らせて言った。 「そっかーーー……。凪も知らないか……。でも、きっとあのオヤジの考える事だから、ろくでも無い事なんだろなぁーーー……。あ゛ぁ゛…、どうしよ……。」 は頭を抱えてうずくまった。 「でも…、まだバレてはいないんでしょう……?」 そんなに、凪が聞いて来た。 「いや…、微妙だな……。司馬君に素顔見られちゃったし……。あの後、何も言って来なかったし、兎丸君も何も言って来ないから黙っててくれてるのか…、それとも、まだバレてないのか……。どちらにせよ、隠し通すのは難しそーだな……。第一、あの人数に隠し通すなんて無理だってーのっ!!そうだよ……!考えたらヘンな賭けだよ……っ!!」 少しの間、真剣に考え込んでいたは、途中から逆ギレした。 羊谷監督の文句を言いながら怪電波を送っている。 そんなを見て、凪はクスリ、と苦笑した。
(あれはーーー、ボクの思い違いっすかねぇ……。)
教室で、子津はお弁当を食べながら考えていた。 (何だか…、さんが…君に似てる気がしたんすけど……。) きっと、ただ名字が同じだけっすよね……。 そう…、きっとーーーーー……。
でも、やっぱり気になる。
教室を出る時にちらりと聞いた、「オイラ」という一人称。 女の子には珍しいのではないか……。 背丈もほぼ同じくらい…、声色も…、何処と無く似ているような……。 (……もしかしてーーーーー……っ!!)
「んぁあーーーっ!!お腹いっぱいっ!!」
その頃、屋上では伸びをしていた。 「あぁ〜〜〜、やっぱオムライスはおいしいねぇ……。」 ポカポカ陽気に当たりながら、は寝転がって言った。 「ここで寝ちゃダメですよ、さん。」 今にも寝入ってしまいそうなを、凪が軽くゆする。 「う゛ぅ〜〜〜、凪ちゃん寝かせてぇーーー……。」 青空の下、心地よい陽気に睡魔に襲われる。 この時はまだ、この後に起こる波乱に気付いてはいなかった……。
「う゛ぅ゛…、やっぱりネムい……。」
あの後、無理矢理凪に起こされて、5限目の授業に出ている。 しかし、授業内容は右から左に流れていくばかりだった。 (クラブまでには眠気覚まさなくちゃ……。) 頬をペチペチと叩きながら、一生懸命に頭をたたき起こす。 (今日も牛尾先輩の特訓メニューが待ってるからな……。) 目を瞑ったり、開いたり、頭を軽く振ってみたり、は色々と試して、頭の中の睡魔を追い払おうとした。
「んああぁ〜〜〜!やっと終わった……っ!!」
何とか寝る事もなく、6限目が終わった。 後はクラブが残るのみだ。 先生が前で何かを言っている間に、いそいそと荷物の準備をする。 「じゃあ、今日はこれだけだな。解散して良いぞっ!!」 先生がそう言うと、皆一斉に立ち上がった。 友達の席に向かう者、先生に質問に行く者、そんな中をは教室のドアの方へ進んで行った。 鼻歌なんかを歌いながら、ドアを開け、靴箱に向かおうとすると、そこには子津がいた。 「……れ?子津君どーしたの?」 目を丸くして子津に聞く。 「あっ、さん。終礼終わったんすね。……ちょっと、さんに聞きたい事があったんすよ……。」 少しの間言葉を切って、子津は言った。 (……まさか……。) 嫌な予感がする。 の背中を、一筋の汗が流れた。 「あ、あのねっ、子津君!オイラ、ちょっと急いでるから……っ!!」 そう言って靴箱に向かおうとするに、子津が後ろから付いて来る。 「あのっ、靴箱に行くまでに話は終わると思うので…、ボクも一緒に行って良いっすかっ!?」 普段の子津とは思えない程に、真剣な顔で食いついてくる。 ……それだけ確信していると言う事か……。 少し横目で子津を見てから、前を向いて歩き始めた。 それを肯定と取ったのだろう、子津が横に付いて来た。 「あの…、野球部に最近すごい人が入って来たんすよ。同じ1年で…、ボクはそれまで知らなかったんすけど……。」 ……やはり、そうか……。 甘かった……。 子津には感付かれた訳だ。 子津の言葉に焦りつつも、顔は出来るだけポーカーフェイスを保っていた。 「兎丸君っていう、すごく足の速い人がいるんすけど、その人は互角か…それ以上の速さで…、捕球力もずば抜けてるんすよ。」 嬉しそうに、憧れる様に子津は言う。 「その人が…一人称が「オイラ」なんすよね……。さんと一緒っすね。しかも名字も同じで……。」 靴箱に着き、自分の靴に手を伸ばしていたが、その話が出た途端に、急いで靴を履き替え、走り出した。 「え……っ!?あっ、どうしたんすか……っ!?」 後ろで子津の声が聞こえた。 校門を出て、角を曲がる。 は、今までに無い程の全力疾走をしていた。 (ヤバイ…ヤバイ…ヤバイ……っ!!) 自分の家に着き、玄関に入り、自分の部屋に駆け上る。 こんなに早くバレるとは……。 しかも、一番思ってもみなかった人物に。 (とにかく…、黙っといてもらうようにお願いするしか……。) そう思いながら、制服を脱ぎ、ユニフォームに手をかける。 ベッドの上に用意していたスポーツバッグを肩に掛け、最後に帽子を深く被って、自分の部屋を出た。 階段を下りて、玄関に行き、ドアのノブに手を掛ける。 そこで一旦、は目を閉じて、深呼吸をした。 (大丈夫…、きっと子津君なら……。) 自分の混乱した気持ちを落ち着けて、ノブを回した。 ガチャリ
「…………っ!?」
「うわっ!!」 ドアを開けた途端に目に入ってきたのは、驚いた子津の姿だった。 「えっ!?何で君が……っ!?」 目の前の子津は、目を丸くして口をパクパクしながらオイラを見ている。 オイラの方は、口を開けたままで固まっている。 子津の頭の中では、今きっと「?」と「!」が渦を巻いているだろう。 かく言うオイラは真っ白だった。 何も考えられない、真っ白な世界……。 オイラの頭が思考能力を取り戻すまでの間、子津は「え……!」とか「何で……っ!?」とか言う言葉を言い続けていた。 ーーー思考力回復ーーー
「……っごめん……っ!!」
頭が働き出したオイラが最初に言った言葉はそれだった。 「え……っ!?」 オイラの言葉にまた驚く子津。 「ど…、どうしたんすか……っ!?」 目の前で頭を下げているに、おろおろする。 「この事は…、オイラが男装してるって事は、秘密にしといて……っ!!」 とにかく、その時のオイラの頭には、「秘密を守ってもらう」という事しか無かった。 それだけを、求めたせいでーーーーー……。
「え゛…っ、だ、男装…って……っ!?」
明らかに動揺した声で子津が答えた。 「いっ、一体どういう事なんすかっ!?君……っ!!」 そして、未だに頭を下げたままのの肩に手を置いて、頭を上げさせた。 「……え……。だって…、その事を言いに来たんだろ……?」 子津を真正面から見つめながら、が言う。 「あの…、ボクにも分かる様に説明してくれないっすか……?」 真剣な目で聞いて来る子津。 「いや…、だから…、オイラは本当はじゃなくて、……。」 今度はこっちが分からない、と言う感じで、もといは間の抜けた声で答えた。 「……ぇっ…、え、ええ゛ーーーっ!?」 その時の子津の驚いた顔は、それまでの、どのツッコミ顔よりもすごかった……。
「つ…つまり…、君はさん…なんっすよ、ね……。」
「そーいうコト。」 今では、帽子も取って、素顔を見せている。 真実を全て明らかにした今でも、子津は信じられない、という顔をしている。 「子津君はその事に気付いたんじゃなかったの?オイラはそう思って焦ったのに……。」 「いえ…、ボクは、その…、君とさんが…双子なのかな…って……。」 「は……?」 控えめに言って来る子津に、間の抜けた声を出す。 「名字も同じだったし…、身長も声も似てたし…、何より、一人称が同じなのは一緒にいて移ったからかなって……。」 少し恥ずかしそうに、子津は言う。 「……そこまで分かったなら、普通はまず同一人物説を疑わない?」 は呆れたように言った。 「……っでも……っ!!すごいっすね!女の子なのにあんなにすごいなんて……っ!!ボク感動したっすよ……っ!!」 子津は、急に目を輝かせて言った。 「……自分でも良く付いて行けてるよ、って思う所はあるけどネ……。ってコトで、この事は他言無用だかんねっ!!今まで通り、オイラを男として扱ってよねっ!!」 何だか微妙に不安が残るが、子津に念を押す。 「オイラが女だってバレたら、羊谷監督に何されるか分かったもんじゃないから……。」 「ハイ!分かったっすよっ!!誰にも言わないっす!……でも、さんも無理はしないで下さいね。しんどくなったり、困った事が出来たらボクに言って下さいよっ!!」 そんなに、子津もまた念を押して来た。 「うんっ。子津君は優しいね!でも大丈夫だよ。子津君が秘密を守ってさえいてくれれば、後は何とか上手くやれるからっ!!」 はそう言って、子津に満面の笑みを向けた。 「そ…っ、そうっすか……っ!!」 「じゃっ、長話になっちゃったけど、そろそろクラブ行かなきゃヤバイねっ!!」 の笑顔に、子津は少し頬を赤らめたが、それには気付かずに、はキュッと帽子を深く被り直し、駆け出した。 「あっ、待って下さいっすーーーっ!!」 そんなの後を、子津はあわてて追い駆けた。 〜〜〜後書き〜〜〜 ハム猫・「大変長らくお待たせいたしました!男装(逆ハー)第5話、いかがでしたでしょうか……?」 子津・「それにしても…驚いたっす……。君がさんだったなんて……。ボクも負けてられないっすね!」 ハム猫・「頑張ってさんの秘密を守って下さいね。何だか君、すっごく顔に出そうですが。」 子津・「え゛っ!?そんな事ないっすよ……っ!!ちゃんと秘密は守るっすっ!!猿野君なんかにバレたら一体どうなるやら……。」 ハム猫・「ところで、さんが家を出た時に子津君がいたのは、追い駆けて来たからですので……。」 子津・「「」っていう表札が見えたから、ここなのかなって思ったんすよ。あの時はほんとびっくりしたっす……。」 ハム猫・「さて、一体ヒロインの秘密は、あと誰にバレてしまうんでしょうか?それとも、無事に終わりを迎えられるのかっ!?こうご期待っ!!(ほどほどに。)」 |