「では…、子津さんには男装している事がばれてしまったわけですね……。」
「うん……。ゴメン、凪ちゃん……。」 十二支波乱活劇6 〜波乱の次にまた波乱〜
今、と凪は屋上にいた。
お昼ご飯を食べ終わって、昨日の事ーー子津にが男装していることがばれた事ーーを話しているところだ。 「一応、黙っておいてくれるよう頼んでおいたんだけど……。」 は頬をかきながら言う。 「きっと子津さんなら大丈夫ですよ!」 凪は笑顔で言う。 「ん〜〜〜、黙っててくれるとかは大丈夫だろうけど…、ただ気になるのが、子津君って、すぐに顔に出るんだよね〜〜〜。」 はそう言ってハァ、と1つ溜息をつく。 「もしもそれで猿野にでもバレたら、一瞬で男装してるって事が皆にばれちゃうよぉ〜〜〜っ!!」 それが、只1つ心配している事である。 「あと、ちゃんと今まで通り男扱いするように言っといたけど、それもど〜も不安だしなぁ……。」 ますます、長い溜息をつきながらが言う。 「子津さんは…優しいですからね……。」 そんなを見ながら、凪は苦笑した。
『ん……?ぁ、オレ寝てたのKa……。今って何時間目だっKe……?』
うっすらとまぶたを開けると、そこに広がるのは真っ青に広がった空。 『あぁ、そっか、屋上Ka……。』 いつもの昼寝場所、屋上の貯水タンクの横。 たしか、日本史の授業がウザくて、三時間目に抜けてきたんだっけっか……。 『猪里、怒ってるだろうNa。』
「……、子津……がばれ……。」
「……。ゴメン、……。」 『ん?何Da……?』
「……黙っておいて…頼んで……。」
「……子津さん…大丈夫ですよ!」 『凪の声……っ!?凪も屋上に来てるのKa。子津の話……?もう1人の声は…どこかで……?』
「……黙っててくれる……、気になる…顔に出る……。」
「……、猿野…バレたら、一瞬で男装してるって事が皆にばれちゃうよぉ〜〜〜っ!!」
「…………っ!?」
やっと、頭がさえてきて、耳が慣れてきて、はっきりと聞き取れた。 「男装」と言う言葉、そして、この声ーーーーー。 「……っ!?」 ガバッ、と起き上がる。 そして、屋上を見下ろした。 「……ぅげ……っ!!」 その瞬間、さっきの虎鉄の声を聞いて視線を上げたと目が合う。 「何で虎鉄先輩が……っ!?」 の顔には、焦りで冷や汗が流れていた。 「お前が、なんだよNa……っ。さっきの話は本当Ka……?」 梯子を降りて、の目の前まで来た。 「な、ななな、な何の話でしょう……?」 は、一生懸命平常心を取り戻そうと勤めた。 「オレはこの耳でハッキリ聞いたZe。「男装してるのがバレる」ってNa。」 ずずい、とに近寄りながら言う。 「お、おおオイラに聞かれても…、ねぇ、凪ちゃんっ、そんな話してたっけ……?」 周りから見れば、動揺している事は一目瞭然だが、それでも頑張って話を凪に振る。 「えっ、えぇ…と、その、私は何も……。」 凪も、急に振られて言葉に詰まる。 「ふ〜〜〜ん。そういう事なのKa……。」 そんな2人を見ながら、虎鉄は楽しそうな顔をした。 「つまりは、はあんたの男装だった、と。どうりで、身長も低いし、体も細いわけDa。」 虎鉄は、をジロジロと見ながら言う。 「で、それが子津にバレたって話だRo?」 「ぅぐ……っ。」 すらすらと、今までの会話の内容を言われて、言い返せない。
「…………。」
暫くそのまま虎鉄を睨んでいたは、急にガクリと肩を落とした。 そして、 「……泣いて、良いですか……?」 滝のような涙を流しながら、凪に言った……。
「で、単刀直入に言いますが、虎鉄先輩はこの事を皆にばらす気ですか……?」
真剣な顔で、虎鉄の表情を窺ってくる。 そんなを面白そうに虎鉄は見ている。 「ん?別にオレはばらさねぇZe。がオレと付き合ってくれれ、ば……っ!?」 ゴス……ッ!!
その瞬間に、虎鉄の鳩尾に見事にの拳がクリーンヒットした。
「あ、すみません。いつもの癖で。」 サラリ、と言うの瞳は笑ってはいなかった。 「グッ、ガハ……ッ!!じょ、冗談だっTe……。」 虎鉄は、未だ握られているの拳を見て、顔色を変えた。 「では、何だかもうハッキリ言って完璧にばれてるみたいなんで腹割って話しますが、私は羊谷監督と賭けをしてるんです。私が男装して入部している事がばれなければ私の勝ち。ばれたら監督の勝ち。私が負けた場合は何だか知りませんが、あの(変態)監督が考える事ですからきっと恐ろしいに違いない罰ゲームがあります。と、言う訳で、今この時からこの事は他言無用でお願いします。もしもばらすなんて事があったら……。」 そう言って、は拳をスッ…、と上げる。 「わっ、分かった、分かっTa……!約束する、言わねぇYo……っ!!」 また、の拳が再来しないうちに虎鉄は言葉を続けた。 「何が何でもあの(変態)監督に負ける訳にはいかないんです!そんな事になるなら、ばれた相手を脅して口を封じるしか……。」 立て続けに連続で2人に(しかも自分のミスのせいで)ばれたせいか、怖い事を口走る。 「あちゃーーー、何か怪しい事口走ってるZe。」 そんなを、遠巻きに見守る虎鉄。 「よほどショックだったんでしょうね……。」 隣に立っていた凪が苦笑して言う。 「ところで凪。の本名って何てんDa?」 1人怪しく気合を入れているをよそに、虎鉄はいつもの如く凪に近寄った。 「えっ…、あ、さん、といいます。」 「へ〜〜〜、ちゃん、Ka……。」 虎鉄は、そんなを見ながら、面白そうな顔をした。 その日の練習終了後ーーーーー……。
「あ〜〜〜、今日も一日おつとめごくろーーー。」
最後に部員全員が集まっていた。 移動式黒板の前で、羊谷が腕を組んでいる。 「一年も練習の方、大分慣れてきた様だな。」 そう言って、羊谷はニヤリ、と笑った。 「そこでだ…、いつもいつも練習ではつまんねぇだろうから、これより始まるG・Wの一週間で合宿なるものをどどーんと決行しようと思う。」 監督がその言葉を言った瞬間、部員にざわめきが起こる。 皆、監督の提案の裏に何かあるのではないか、と疑っていた。 「……合…、宿……。」 その単語には固まる。 そんな間に行き先は「伊豆」だと言う事が発表され、部員達の監督への警戒心は少し薄れかけていた。
その時ーーーーー……。
「待て……っ!!」 は叫んだ。 「油断するな!こいつの考える事だっ、きっと、いや絶対に裏に罠があるっ!!甘い文句で油断させるのは騙しの常用手段だぞ……っ!!」 ビシッ、と羊谷を指差し、部員の視線が集まる中力説する。 「……お前な……。そんっっっなにオレは信用ならんか……。」 に指を指され、冷や汗を垂らす羊谷。 「あーーー、何かあそこの馬鹿が変な事わめき散らしてるが、気にするな。正真正銘の”ゆかいな合宿”だ。」 1人息を荒らげてるを無視して、羊谷は部員に向かって言う。 部員も、この時ばかりは監督の甘い言葉を信じていた。 「それともお前…、自信が無いのか……?」 急に羊谷がの眼を見て言った。 「…………ッ!!」 そんな羊谷の言い方に、カチン、と来た。 「なっ、んな事無い……っ!!べ、別に合宿ぐらいどーって事無いさ……っ!!」 つい、そんな言葉に勢い付いて返してしまったが、もう遅い。 「よーーーっし、じゃあ、そう言う事だからな。集合時間に遅れるんじゃねぇぞ。」 監督の言葉と共に解散していく部員達。 後には、1人拳を握り締めたままのが残っていた。 「あ〜〜〜ぁ、オレは知らねぇZe。一日中、飯も風呂も寝るのも一緒で、ばれずに済むのKa?チャン。」 「その名前で呼ぶなっ……!!」 フハッ、と我に返ると、背後に虎鉄が立っていた。 「……ぁ、虎鉄先輩……。」 いたんですか、と言う顔で、虎鉄を見る。 「早くもピンチなんじゃねぇのKa?」 ニヤニヤと、面白そうに言う虎鉄にムッとしながら、 「そ、そんな事無いですよ!……この合宿、絶対に誰にもばれずにやり抜いてやるっ!!」 「へぇ〜〜〜、たいした自信だNa。でも、まっ、何かあったらオレに言えYo。助けてやるZe☆」 そう言い残して、虎鉄は去って行った。 「……何としても、この合宿……。」 誰もいなくなったグラウンドで1人、両拳を握り締めては決心した。 ーーー何としても、生き抜いてやる……っ!!ーーー
「たっだいまーーーっ!!あっ、お母さん!今度のG・Wは野球部の合宿で伊豆に行くから……っ!!」
は、勢い良く扉を開けると、一直線にリビングにやって来た。 「えぇっ!?い、伊豆って、急に……。、大丈夫なの?あなた女の子なのよ?」 夕飯の支度をしていた母は、その手を止めての元に来た。 「大丈夫だって。絶対ばれないようにするから!(これ以上は……。)それに、凪ちゃん達もいるし。」 ニコリ、と笑って答えるに、母は苦い表情をした。 「あんたは…まったく……。昔から何を言っても聞かない子だったわね……。まぁ、そりゃ人数が多い分には怪我した時とかの心配は少ないけど…、ちゃんと気をつけるのよ。これ以上、母さんの心配を増やさないでちょうだいよ。」 「は〜〜〜い。」 母の言葉に、片手を上げながら返事をする。 「まったく…、母さんは心配性だなぁ……。」 「あっ、景二兄さん、帰ってたんだ……っ!!」 その時、後ろから声が聞こえたので振り向くと、そこにはの兄、景二が立っていた。 「お帰り、。野球部、頑張ってるみたいだな。」 の頭に手を置きながら言う景二。 「うん!景二兄さんもありがとね、制服貸してくれてっ。」 「あはは、もう卒業したから着ないしな。でも、あれにはでかいだろ?」 「ん、まぁね。景二兄さん大きいもん。」 ポンポンと、頭を撫でられながらは嬉しそうにしていた。 「でも、一応言っておくが気をつけろよ。お前は女で、部員の奴らは男だ。それは変わらない。もしも何かやばい事になったら、急所蹴って逃げろよ♪」 ニッコリと微笑みながら、景二はに言った。 「ちょっと、景二、変な事教えない!」 そんな会話を聞いていた母が、すかさず一言を投げた。 「あはは〜〜〜、まぁ、とにかくはなりに頑張れよ。さてと、夕飯だっ!!」
「んっと〜〜〜、これとこれはここに入れて…っと。」
その夜、早速は荷物の用意をしていた。 女だとばれないようにするためには、荷物の入れ方から注意をしなければならない。 「下着とかは一番下に入れなきゃだもんね……。」 猿野(とか)に荷物あさられたらたまったもんじゃない。 少しでも可能性がある事には、ちゃんと対策をとっておかなければ。 「あ…、もしもの時のために非常食とかも入れといた方が良いよね。何せ、あの監督が考える合宿だし、猿野達もいるし……。」 そんな事を考えながら、『明日、学校帰りに必要なものを買って来よう。』と、決めた。 〜〜〜そんなこんなで、合宿当日。(早っ!!)〜〜〜
「ぅあーーー、荷物詰めすぎたかなぁ……。」
早朝、まだはっきりと冴えていない頭では言った。 集合時間の5時。 十二支高校校門前に部員達は集まっていた。 只1人を除いてーーーーー……。
「君!猿野君がまだ来てないっす……っ!!」
「ん?あぁ、子津か。いいんじゃない、あいつくらい置いて行っても。」 ファ〜、と欠伸をしながら応える。 「そ…、そんな……っ。ボク、ちょっと見てくるっすっ!!」 「子津は真面目君だねぇ……。」 いってらっしゃ〜〜〜い、と手を振りながら、は言った。
その後、子津がマジに道草食ってた猿野を発見して来て、やっとバスは出発した。
景色を見てはしゃぐ兎丸をよそ目に見ながら、は、少しうとうととして来た。 この合宿で、今まで以上に波乱が巻き起ころうとは、もこの時は考えてはいなかった……。 〜〜〜後書き〜〜〜 ハム猫・「ハイ、全然野球に触れられずにここまで来た男装(逆ハー)第6話、いかがでしたでしょう?」 虎鉄・「いかがも何も…、内容が全然無いZe……。」 ハム猫・「うわーぉ。痛いツッコミはやめて下さい、虎鉄先輩。こうでもしなきゃ話進まないんですよ。」 虎鉄・「ってか、ばらし方が手抜きだな、オイ。」 ハム猫・「聞こえない〜〜〜♪」 虎鉄・「しかも、やっと合宿ネタかYo……。今更だが、この話、原作とリンクしてたんだNa。」 ハム猫・「は〜〜〜い、そうだったんですよーーー。ってか、今回のキーポイントはやっぱりお兄さんですよ!景二さんですねっ。長男なのに、「景二」。そしてあだ名は刑事<デカ>です。名前が「けいじ」だから。只それだけのために、お兄さんの名前を景二にしました。」 虎鉄・「そこは関係無いだRo……。」 ハム猫・「何だか、合宿入っても、野球ネタが出ない気がそこはかとなくしますが、よろしければ終わりまでお付き合い下さい♪」 虎鉄・「じゃあな、次の話で会おうZe!」 |