十二支波乱活劇8 〜縄+シャベル+クロスカントリー=波乱!?〜
「あの〜〜〜……。」
「…………。」 「…………。」
「もしもし〜〜〜……。」
「…………。」 「…………。」
「オイラを挟んでそんなに重い雰囲気で沈黙しないでくれますか〜〜〜……?」
今の状況を説明しよう。 オイラは、このクロスカントリーを犬飼・猿野ペアと共にやる事となった。 そして、今山の中を歩いているわけだが…、どういう訳か、オイラを挟んで両脇を歩いている2人は一向に口を開く気配すら見せずに、黙々と歩き続けているのだ。 それだけならば良いのだが、2人が互いに出している殺気が直接オイラにブチ当たって居心地の悪い事と言ったら。 今にも胃に穴が開きそうなくらいだ。 何だか今にも走って逃げ出したい気分である。 そんな事を1人考えていると、気付かぬうちに歩調が早くなってしまっていたらしい。 気が付けば周りに猿野たちはおらず、1人になっていた。 「あ…、ヤベ……。」 1人で宿に着いても失格になってしまうこのクロスカントリー。 嫌でもあの2人と一緒にたどり着かねばならないのに。 「あの2人何処行ったんだ……?」 周りを見回したり、足元に茂る草を掻き分け探してみても、中々2人が見つからない。 「オイラそんなに突っ走っちゃったのかな〜〜〜……。」 ガサガサと、とにかく2人を探していると……。 「うぱぁあぁぁぁ〜〜〜っ!!」 奇声が聞こえた……。
「あの明らかに人外な声は猿野……っ!?」
声の聞こえた方向を頼りに探すと、途中でバッタリと子津・辰羅川ペアに遭遇した。 「んにゃ?どうしたの、2人とも……。」 「あ、くん…、その、ボク達は猿野くん達が心配で……。」 子津が少し焦りながら説明する。 やはり、あの奇声を聞きつけたのだろう。 「オイラもちょっとはぐれちゃったんだよね…、さっきの奇声はこっちの方からだったけど……。」 そう言いながら、草を掻き分け開けた場所に出ると……。 ギィィン……ッ!! 何故か、猿野と犬飼が盾と剣を持ち、バトルしていた……。
「何で戦ってんだよ……っ!!」
ついノリで突っ込んでしまったが、もう遅い。 猿野と犬飼は、殺気立った目でこちらを振り返った。 (……やばいかも……。) そう思ったと同時に、猿野達は色々と叫びながらオイラ達を追い駆け始めた。 「何すんだコンチクショーーーっ!!猿野!後で覚えてやがれ……っ!!」 オイラは走りながら思いっきりの大声でそう叫んだ……。
あれから、2人の意識が現実世界に帰ってくるまで追いかけっこを続けていたせいで、皆もうバテバテだった。
その上に、猿野のお前の腹には何か仕込んであるんじゃないか、と言うような腹の音のため(?)、休憩タイムを取る事にした。
「あぁ〜〜〜、もう、お前らのせいでもうお腹空いちゃったじゃないか!」
ブー、と頬を膨らませながら、自分の鞄を開ける。 「えぇ〜〜〜と、何か食べるものはあったっけな……。」 ごそごそと、鞄の中をあさりながら呟く。 隣で何やらガサゴソやっている猿野の鞄は自称「魔法の鞄」らしい。 何だか、嫌な予感がバンバンするほどに、膨れている。 「おやつとかいっぱいっすか!?」 子津がそう言った瞬間、猿野の鞄から、怪しい人影ーーもとい、変なおじさん(まんまやん。)が現れた。 「誰これ……。」 「いや〜〜〜!知るか〜〜〜っ!!」 猿野も予想していなかったのか、震えた声で聞いてくる。 そんな猿野の言葉に、子津が悲鳴を上げて逃げる。 ゴス……ッ!!
その次の瞬間に、森の中に凄まじく低い音が響いた。
皆がびっくりして振り返ると、猿野の鞄から出ていた変なおじさんは血まみれになりながら猿野の鞄の上に横たわっていた。 「え……?」 子津が、理解不能、という顔をする。 猿野達も同じらしく、周りをキョロキョロと窺うとーーーーー……。
「ん?どうしたんだ?」
そこには、ニッコリと微笑みながら血まみれのバットを持つがいた……。 「「「「…………っ!?」」」」 子津達は声も出ないほどに絶句している。 その間には、その血まみれのバットをいそいそとしまいだした。(しまえるのか?) 「ほら、ボーーーっとしてっと、休憩時間終わるぞ。」 そう言って、はカロリーメイトを食べ出した。 ここで、の鞄は「異次元鞄」と言う異名を持つ事になった……。
「さて、腹ごしらえもしたし、そろそろ行きましょうか。」
「そっすね。」 その言葉と共に、5人は再び歩き出した。 猿野、犬飼、そしてオイラは、地図とコンパスを持った子津と辰羅川の後ろをテクテクとついて行っていた。 ーーーーーが。
「……っちょ、犬飼!大丈夫なのか……っ!?」
「何見てんだ。とりあえずテメーらは先行ってろ……。」 犬飼が、木の根元の窪みに足を取られてしまったのである。 「先行くったって3人じゃなきゃゴールできねーんだよ!」 「そうだよ!それより、足は平気なのかっ!?」 今までのクロスカントリーで大量に汗はかいているものの、それとは違う、冷や汗のようなものがあるように見えた。 心なしか、顔が苦痛に歪んでいるように思える。 「こいつぁいよいよヤバイぜ。」 猿野が空を仰ぐ。 「暗くなってきやがった……。」 も空を見上げる。 木々の間から覗く空は、濃紺の星空になりつつあった。 「本当だ…、早く宿に着かないと大変な事になる……。」 「ったくテメー、犬ッコロのせいだぞ!何すっころんでるんだ!どうしたよ、あんよでもくじいたか?おんぶでもしてあげまちょーかっ!?」 切れた猿野が犬飼に突っかかる。 「ぐだぐだうるせーーー。とりあえず、次騒いだらぶっ殺す。」 そんな猿野の言葉を軽く受け流しながら、犬飼ははまっていた足を抜いた。 立ち上がり、ズボンの土を払う。 「そんなに山に帰ってこれて嬉しいか?猿だけに。」 いつもの嫌味も言えるようだ。 しかしーーーーー……。
「本当に、足大丈夫なのか?」
が、犬飼の腕を掴んで言う。 「……大丈夫だ。問題無い……。」 犬飼は、の手を振り解きながら言った。 「嘘だ!それなら、オイラの目を見て言えよ!お前、無理してるだろっ!!」 そんな犬飼に、が再び手を伸ばすとーーーーー。 バシ……ッ!!
「大丈夫だと言ってるだろっ!!」
「…………っ!?」 犬飼が、の手を叩いた。 ギロリ、とを睨むと、スタスタと歩き出す。 「っな…、何なんだよ、その言い方は……っ!!そんな事言って、後で倒れても助けてやんないからなっ!!」 は、どんどん先へ行く犬飼の背中に叫んだ。 犬飼は言葉を返さない。 「全く…、人の心配も知らないで……っ。行くぞ!猿野……っ!!」 一人黙々と先を行く犬飼を見て、は猿野の腕を引っ張り歩き出した。
それから暫く歩き、周りも本格的に暗くなって来た頃……。
「くそ〜〜〜、どこなんだここは!」 地図を持った猿野が、凄まじい腹の音を響かせながら言う。 「もしかして…、オイラ達本格的に迷った…のか……?」 この山の中で疲労困憊な中、その上遭難などと言う最悪なケースにだけはなって欲しくなかったのだが。 「オイ犬!何か食糧持ってねぇのかよっ!?」 猿野は、空腹の限界らしく、とうとう自分の鞄の中をあさり始めた。
「…………。」
一週間の合宿である。 (あの監督からして、)何が起こるか分からない合宿である。 それなのに…、猿野の鞄から出される物は、はっきり言って合宿に関係無い物ばかりであった。 「猿野…、お前そんな物ばっか詰めて来たのか……?」 宴会用の衣装やら、変装用のかつらやら、盗撮用のカメラやら、挙句の果てにはこち亀全巻まで。 「前々から分かってたけど、お前馬鹿だろ!大馬鹿だっ、ウルトラ馬鹿だっ、ハイパー馬鹿だ……っ!!」 鞄の中身をどんどん出していく猿野に指を突きつけ、は言う。 「うるせーーー!テメーらも絶対関係ない物入れて来てるだろっ!!見せてみやがれ……っ!!」 「ちょ……っ!?」 そう叫んだと思うと、猿野はの鞄を取り上げる。 そして、中をごそごそとあさり始めた。 「ん〜〜〜、さって、くんは一体どんな物を持ってきてるのかな〜〜〜♪」 ホクホクとした表情で楽しげに鞄をあさっていた猿野の顔が一瞬にして凍った。 「……これは…、一体何なんだ……?」 そう言って猿野が取り出した物、それは縄とシャベルだった。 「んぁ?それは縄とシャベルだろ。」 「いや、それは分かってるんだが、何でこんな物持って来るんだよ……。」 を怯えた目で見る猿野。 「あぁ、それは猿野を縛っとく縄と、猿野を埋めるためのシャベルだよ。」 猿野の問いに、はにっこり、あっさりと返した。 「んなモン持ってくるなよっ!!」 の返答に突っ込みつつ、突き出すように鞄を返す。 「そんな馬鹿な物持ってきてるのはお前ぐらいだって。なぁ、犬飼?」 「…………。」 話を振られて、頷こうとした犬飼の動きが止まった。 「……どした、犬飼……?」 すると、犬飼はつと、自分の鞄を見下ろす。 「野球に関係ねぇもんは何も無いが…、まぁ、強いてあげるならこれぐらいか……。」 そう言ってごそごそと犬飼が取り出した物…、それはゴルゴ13ーーーーー……。 「……っお前も馬鹿だーーーっ!!」 は、地面に並べられた長編漫画のコミックスを見て叫んだーーーーー……。
「子津・辰羅川コンビがブービーか……。意外っちゃー、意外だな。」
達がそんな事を繰り広げている間に、子津達はやっと旅館に辿り着いていた。 「あ…あの、猿野くんと犬飼くん、それとくんはっ!?」 旅館の前で待っていた羊谷に、辰羅川が聞いた。 「戻ってきてないな。ゴールしてないのは奴らだけだ。」 「「えっ!!」」 羊谷の言葉に、2人は絶句する。 3人とはぐれた時、先にゴールしているというわずかな可能性に懸けて下山したのに……。 「もう一度猿野くんに電話してみるっす!」 そう言って子津が携帯を取り出すが、今まで何度掛けても繋がらなかった。 また無理なのだろうか…、そう思っていると、何とか電話が繋がった。 雑音に混じって、猿野の声が聞こえる。 「あっ、猿野くん!今まで電話どうしたんっすかっ!?今どこっすかっ!?」 子津が捲くし立てる。 『分からん…、あたりが暗くて……。』 山中で電波状況が良くないせいだろう、猿野の言葉も途切れて聞こえる。 『それより…犬飼のクソやろーがぶった…て……。』 「えっ!?」 聞き逃すまいと耳を澄ませていた子津に、嫌な予感が走る。 途切れ途切れに聞こえた猿野の言葉ーーーーー……。 それから想像すると、かなりヤバイ状態だろう事が分かる。 「はっ!?犬飼くんがどうしたんすかっ!?もしもし、猿野くん!」 詳しく事を聞こうかと思った所で、電話は切れた。 「猿野くん達に一体何が……。」 携帯電話を握り締め、子津が言う。 隣にいる辰羅川の顔も強張っている。 「まいったねこりゃ…、アクシデント発生か……。」 緊迫した空気の中で、羊谷が髪をかき上げた。 凪が心配そうに駆け寄って来る。 「待ってろ。オレが責任をもって何とかしてやる。」 そう言って、羊谷は上着を羽織った。 それから、念のために消防団にも連絡をし、3人の捜索に乗り出した。 この事は、旅館内の他の部員にも伝えられ、騒ぎになり、休憩していた部員達も心配して旅館前まで出て来ていた。 「オイ、誰か来るぞ!一人だ……っ!!」 「監督かっ!?」 捜索が始まってから暫くして、旅館前にいた部員が声を上げた。 皆、暗闇の中目を凝らしてその人影を見る。 「やっぱり見つからなかったのか……っ。まさか、ガケから落ちたとか……。」 「縁起でもねぇ事言うなよ!」 一歩一歩近づいてくるその人影を見ながら、最悪の考えが頭を過ぎる。 しかしーーーーー……。
「勝手に人を、殺すんじゃ…ねぇ……。」
「猿野さん!」 戻って来たのは、犬飼を負ぶった猿野。 「まさか犬飼くんをおぶってここまでっ!?」 「このバカが足くじいて途中でへばりやがってよっ。」 そして……。 「ってか…、皆オイラを…無視する、なよ……。」 その後ろから足を引きずるようにやって来たのは。 「さんっ!!」 「誰か…、コレ、取って……。」 見るとは、右肩に自分のバッグ、左肩に犬飼のバッグ、そして首に猿野のバッグをかけていた。 「何でオイラが…、こんな長編マニア達の鞄なんか…持たなきゃいけないんだ……っ。」 はもう限界らしく、足元がフラフラしている。 頭も朦朧としてきて、目の前が霞んで来た時ーーーーー……。 「よっ…と。ホントにこりゃ重てぇNa。」 「一体何が入ってるっちゃかね……?」 途端に、体が軽くなった。 「……あ…、虎鉄先輩に、猪里先輩……。」 鞄を取ってくれたのは、虎鉄と猪里であった。 「大変だったNa。お前は怪我とかしてないのKa?」 「ぁ…、ハイ、オイラは大丈夫です……。」 一気に体が軽くなって、フラフラしていた足元が、浮く感じがして。 「……ぁりゃ……?」 「ぉっと……っ。」 ポスッ。
は、猪里の方に倒れ込んでいた。
「大丈夫っちゃかっ!?もうフラフラばい!部屋で休まにゃっ!!」 猪里はを支えて言う。 「……でも…、オイラは野宿組みだし……。」 力も出ず、猪里に支えられるままなは、小さな声で言った。 「そんなんで野宿なんてしたら大変な事になるたい!監督に言っちゃるけん、部屋で休みーーー。」 「でも……。」 なおも言葉を続けようとするを、虎鉄の言葉が遮った。 「ここは素直になっとけYo。自分でも分かってんだRo?」 確かに、もうフラフラで歩けそうには無い。 「……はい……。」 そう言うと、の意識は静かに薄れて行った。 〜〜〜後書き〜〜〜 ハム猫・「はい〜、何だかんだで男装(逆ハー)ドリ、第8話でございます。」 猪里・「なんや、長く続いとるねーーー。」 ハム猫・「そうですね……。当初はここまで長くなるとは思ってませんでしたが。」 猪里・「俺もやっと登場したばい。」 ハム猫・「あっは、そうですね〜〜〜。最初はさんが倒れ込むのは虎鉄先輩だったんですが、猪里先輩との絡みが無かったんで急遽猪里先輩に……。」 猪里・「そうやったん?危なかったと〜〜〜……。」 ハム猫・「すでにさんの口調を打つ時に、女だという事を考えないようになりましたよ。男らしくなって行ってます。すみません……。」 猪里・「何の話なん?」 ハム猫・「ふはっ、そうか、あなたはまだ知らない事でしたね!ま、さっきのは聞かなかった事に……。」 猪里・「…………?まぁ…、いいっちゃけど……。」 ハム猫・「それでは、猪里先輩っ、しめ頼みますっ!!」 猪里・「えっと…、やっと俺も出て来れたけん、次も見てやってくれたら嬉しいっちゃ!……でも、あんまし期待はしない方が良いっちゃよ?」 |