「ん…、あ、れ……?」
が目を覚ますと、そこには見覚えの無い天上。
(え〜〜〜っと…、何がどうなってるんだっけ……?)
まだ寝起きでぼやけた頭で事の経過を考える。
(あ、そっか……。今は合宿中だったっけ……?で…、オイラ疲れてぶっ倒れちゃったのか……。……何か情けないな……。)
そう思い、体を少し横に向ける。
「…………っ!?」
その瞬間、驚いてガバリ、と布団から起き上がった。
「……な、なな、何で隣で犬飼が寝てるんだよ……っ!?」
そう、、もといの横では、犬飼が気持ち良さそうに寝ているのである。
「なな、何が起こってるんだ……っ!?って言うか、その前にここは何処……っ!?」
布団から上半身を起こし、わたわたと混乱する


「……よぅ、ようやくお目覚めかい……?」


そんな時、背後から声が聞こえた。
「え……っ!?」
後ろを見ると、立っていたのは浴衣姿の羊谷。
「これは…、どういう事なんですか……っ!?」
ニヤリ、と独特の笑みを顔に湛えながら、羊谷はを見る。
「どういう事も何も、お前がぶっ倒れたから俺の部屋…、まぁ緊急の医務室なんだがな、で寝かしてたって訳さ。」
「…………っ。」
は、息を呑んで羊谷の顔を見つめる。
「ん?……あぁ、大丈夫だって。お前の正体はまだ誰にもバレてないぜ。安心しろ。」
その言葉を聞いた途端、は肩の力を抜く。
「あの…、オイラはどれくらい寝てたんですか……?今から野宿組に戻らないと……。」
そう言いながら、は布団から出る。
「まぁ、2〜3時間ってトコか。別に今日くらいはここで寝てても良いんだぜ?」
羊谷は煙草を銜え、火を付ける。
「いえ…、やっぱり山に戻ります。負けたのに、ここでぬくぬく寝るなんて、他の人達に悪いから。」
は、力強い瞳で言った。
「そうか…、じゃあ、ま、気を付けて行けよ。明日の練習に遅れるんじゃねぇーぞ。」










十二支波乱活劇9
〜波乱な合宿特別メニュー〜










「ふぅ…、そろそろ野宿組の皆の所に着くはずだけど……。」
宿を出たは、山の中を歩いていた。
すでに暗くなっている中では、ライトを付けても数歩先までしか見えなかった。
「まさかまた迷ったなんて事無いよね〜〜〜……。」
そう、苦笑いをしていると……。
「…………?ぁ、あれ…、何か音が……。」
少し立ち止まって耳を澄ます。



ドドドドド……ッ



何やら土を踏み固めるような音。
思い違いでなければだんだんとこちらに近付いて来ているような……。
「ま…、まさか……。」
ゴクリ、とつばを飲む。
嫌な予感が満々にする中で、は勇気を出してライトを前方の森に向けた。



「ギャアァァ〜〜〜ッ!!」



そのライトに映し出されたのは、大勢の野球部員に追い駆けられている子津の姿だった。
「何でだーーーっ!?」
あまりの恐ろしさについツッコム
「あっ、くん!に、逃げるっす……っ!!」
に気付いた子津は、目に涙を浮かべながらそう叫んだ。
しかし、その子津の声に正気に戻ったは、急いで自分のバッグを漁り始めた。
そして……。
「子津、逃げろ!」
自分の横を通り過ぎる子津にそう言うと、は遅い来る部員達の前に立ちはだかる。
くん……っ!?」
その行動に、子津は体を止めてを振り返る。
「…………っ!?」
子津はそのの姿を見て驚いた。
「お前等…、正気に、戻れーーーっ!!」
皆の前に立ちはだかったは、自分のバックから取り出した(血の付いた)バットで、妖しく目を光らせて走り来る部員達を見事に殴り殺…倒していた。
くん!や、止めるっすよ〜〜〜っ!!」
仲間達が血に染まっていく姿を見て、子津はを後ろから押さえた。
「あぁ…、大丈夫だよ、手加減しといたから☆」
子津の必死の頼みに、手を止めたは、振り向くと(楽しそうに)そう言った。










「じゃあ、みんなご飯作りましょう!」
「「「「オーーーッ!!」」」」
あの後、気が付いた部員達が、何故かぼこぼこになっている事を適当な理由で納得させ、皆で夕飯を作る事になった。
猿野が裸エプロン着てるように見えるのはこの際無視だ。
「外でご飯炊くのなんて久しぶりだな〜〜〜。」
そう言って、は米をとぐ。
横では、血にまみれた猿野が倒れていた。
「そうっすね〜、小学生の時のキャンプ以来っすかね?」
子津と話しながら、順調にご飯の準備は整い……。
「美味しそうに炊けたっすねぇ。」
ほかほかと湯気を上げ、美味しそうなご飯が炊き上がった。
「後はおかずだな。」
そう言った後では気づく。
「……なぁ、おかずなんて…あるのか……?」
の言葉に、それまで美味しそうなご飯を前にカレーだバーベキューだと騒いでいた他の部員も言葉を失う。


「「「「「…………。」」」」」


想像通り、出て来たのは「ごはんですか?」一瓶だった。
育ち盛り食べ盛り(?)な野球部員達。
ご飯でさえ、十分には食べられない上に「ごはんですか?」の一瓶だけ。
自然と沈黙が降りる。
何とか目の前の現実を受け入れ、「一人スプーン一杯」と言う決まりの下、寂しい夕食は終わった。










「ああぁ〜〜っ、食い足りねぇ〜〜〜っ!!」
夕飯後、猿野は叫んでいた。
そりゃあ、ご飯と海苔の分量を逆にすればそれほど腹も膨れはしないだろう。
だが、他の部員達も気持ちは同じだった。
「……しょうがないなぁ……。」
そんな部員達を見て、は一つ溜息を吐き、自分の鞄を漁り始めた。
「…………?」
そんなを見て、疑問に思う子津。
「どうしたんすか、くん?」
「ん、ちょっとねーーー。ぁ、あったあった。」
そう言って取り出したのは、非常食の定番、「カンパン」であった。
それを見た瞬間に、部員達の目が光る。
「あの監督の事だから、何か起こると思ってたんだよね〜〜〜。」
見ると、の手には3袋持たれていた。
「……欲しい……?」
満面の笑顔で聞くに、部員達は光速で首を縦に振った。
「じゃあ、順番に並んでね〜〜〜。」
公平に分けるから、と言うの言葉と共に、の前に平伏す部員達。
そんな部員の手に、は一個ずつカンパンを乗せていった。



「ありゃ?」



配り始めて何往復目かに、は声を上げた。
「ん〜〜〜、3個残っちゃったや。」
そう言って、袋を掲げる。
確かにそこには3個のカンパンが残されていた。
だが、ここにいるのは20名近く。
どう考えたって、上手く分け合えるとは思えなかった。
自然と、部員達の間で火花が散る。
「ん〜〜、この3つどうしよっかな〜〜〜?オイラは別にお腹空いてないし〜〜〜。誰に上げよっかな〜〜〜?」
3つのカンパンを手に取り、明らかに楽しそうに、部員達の方を見る。
「欲しい?」
至極楽しそうに。
その言葉に、必死になって首を縦に振る部員達。
まるで、獲物を目の前にした猛獣のように目を光らし、の手に持たれたカンパンを、今にも奪い取りそうだった。
「じゃあ、自分で取って来てね♪」
笑顔でそう言うと、は急にそのカンパンを森の中へ投げ入れた。
すると、まるでそれが合図であったかのように部員(猛獣)達は森の中へ駆け込む。
足を掛けたり、蹴倒したり、凄い叫び声を上げながら森の中へ入って行く。
「……ふぅ……。」
そんな部員達を見ながら、は息を吐いた。
「ぁ…あの……っ。」
すると、背後から声が掛かる。
「ん?あぁ、子津か。」
くるりと振り返ると、そこには一人残った子津がいた。
「その、カンパン有難うっす!美味しかったっす……っ。」
子津はニコリと笑うとそう言った。
「ちょいちょい。」
そんな子津をは手招きした。
「…………?」
不思議に思いながらも、近寄る。
「手、出して。」
そう言われて手を出すと……。
「ハイ。」
渡されたのは、カンパン3つ。
先程、部員達が森の中に探しに行った物だ。
「えっ、これって……っ!?」
ビックリする子津に、は少し苦笑して言った。
「あれは、石だよ。適当な石投げたの。子津には色々とお世話になってるから、上げる!」
ニッコリと笑われ、少しドギマギしつつも、子津はカンパンの乗っている手をに突き出した。
「ぃえ…、その、貰えないっすよ!くんだって、そんなに食べて無いのに……っ!!」
「いやさ、ホントオイラそんなにお腹空いてないしさ。何たって、君達とは違うから。」
そう言って、子津の手を押し返す。
「でも……。」
それでもなお、申し訳なさそうな目をする子津に。
「……分かったよ。じゃあ、1つだけ貰うよ。あとの2つは子津に上げる。」
がそう言うと、暫く考えた末に、子津も折れたらしい。
少し困ったように笑って、「分かったっす。」と言った。

遠くで、猿野達の奇怪な声が響く中、平和な夜は過ぎて行った……。










ーーー次の日ーーー





「皆の衆おはよー。ウォームアップは済ませたか?」
静かな山の中にあるグラウンドに、羊谷監督の声が響いた。
「二日目のメニューは守備の特訓だ。これより”3球同時ノック”を始める。」
監督のその説明に、部員達がざわめく。
(3球同時ノックって言ったらあれだよな。入部試験でやった……。)
がそう考えていると、
「前回と同じと受け取られちゃー困るな。」
バットを片手に羊谷監督が口を開いた。
「今回使用する球は、土色をしている。」
準備された球を見ると、言う通り土色に汚れている。
どう違うのかはやってみりゃ分かる、と最初に立った明神に向けて、監督は3球の球を打った。
(軟球とか見分けるの面倒だし、今回も全部取れば良いよな〜〜〜?)
そう思いながら、如何程のものかと、外野で見ていたは次の瞬間目を疑った。


球が…消えた。


球が地面に付くまでは目で追えた。
それなのに、次の瞬間、目は球を捉える事が出来なかった。
「…………っ!?」
一生懸命目を擦る
隣の子津も同じように驚いていた。
辰羅川の説明を聞いても、それに対する対策なんて思い浮かばない。
とにかく、自分の番が回って来るまでに、慣れなければ。
そう思い、は目を凝らすように球を追い続けた。



そんな中。



「オオ、マジかよ!」
「あの1年やりやがるっ!!」
1年他、2・3年までもが手を焼いている中、司馬が初めて3球全てをキャッチした。
「司馬…、相変わらず凄いな……。」
外野に帰って来た司馬に声をかける子津と辰羅川を見ながら、はポツリと呟いた。
自分は、無事に取れるのだろうか……。
少しは出来るつもりでいたが、今の司馬を見ると、自分など足元にも及ばないような気がしてきた。
心臓が高鳴りだす。
逃げ出したい気持ちでいっぱいだ。

その時ーーーーー……。





「見てNa。」
虎鉄が呟いた言葉が耳に聞こえた。
見ると、グランドに立っているのは蛇神尊。
あまり喋らず、いつも物静かなせいであまり今まで関わった事が無いけれど、只者ではない雰囲気を持っているとは思っていた。
思っていたが…、実際その考えは次の瞬間にはかなり上回る形で証明された。
司馬でさえ、両手片足を使っていたのに、蛇神は片手で…グローブに3つの球を収めていた。





「蛇神さんは…自在に時を刻む……。」
そう呟いた虎鉄の言葉が、耳から離れなかった。
















〜〜〜後書き〜〜〜

ハム猫・「あっはっはっはっは(壊)、長らくお待たせし過ぎました、男装(逆ハー)弟9話でございます。」

子津・「……ほんっと…、ほったらかしだったっすね……。」

ハム猫・「いやぁ、ホントにねぇ。大変申し訳御座いませんでした……。しかも、久しぶりに書いたら書き方忘れてましたよ。主人公の性格がーーー。」

子津・「くんがだんだん暴走してる気がするんすけど……。」

ハム猫・「そうだね☆何だか最強なキャラになってきてますね。本当は、お風呂覗いてる猿野達も蹴散らしてもらいたかったんですが、そうするとさんの休む間が無くなっちゃうので……。」

子津・「これでやっと真面目に合宿が始められるんすね。」

ハム猫・「真面目には行かないだろうけどね☆()を付けていると言っても一応逆ハーのくせに絡みも何もありゃしない。どうにかならないものか……。」

子津・「まぁ、元々管理人がギャグ人間だから無理っすよね……。」

ハム猫・「何その諦め切ったような目は……っ!?」

子津・「ぇ、いえ、何も……。」

ハム猫・「これでも一番リード(?)してるのは子津ッチューじゃないかーーー。」

子津・「そ、そんな事無いっすよ……っ!!それよりも、早く続き書いて下さいよね!こんなのでも楽しみにしてくれてる方がいるんすからっ!!」

ハム猫・「はーい。分かりました〜〜〜。とにかく、最終回まで後ちょっとかと思ったら意外とまだあったので、何かネタを考えておきます!」

子津・「それでは、読んでくれて有難う御座いました!頑張って管理人見張っておくっすから、これからも宜しくっす!」



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