ディスプレイの言葉・前










私は
今度、華武高校に転校する事になりました。
そんな私は、今日、その華武高校に来ています。
少し校長先生と話して、制服を受け取って、そして、少しだけ校舎の中を見て回るつもりです。
来てみると、想像していたのよりもかなり大きな学校でした。
……迷わないか心配です……。





「えっと…、確かクラスはここだよね……。」
校長先生に聞いたクラスの前に立って、中を覗く。
すでに、時間は放課後なので、教室の中に生徒はいなかった。
生徒はーーーーー。
しかし、不思議な事に、教室のある机にはパソコンが置かれていた。

何故だろう……?
はそう思いながら、つい教室に入り込む。
パソコンの置かれている机の側まで来て、覗き込む。
パソコンの画面には、細かく表のようなものに色々と書き込まれていた。

「野球…部……?」
画面の表にはその言葉が映し出されていた。
腰をかがめながら内容を少し読んでみようと、パソコンに顔を近づけた瞬間ーーーーー。



「ちょっと!何してるのさ、そこで……っ!!」
後ろから、声がかかった。
「…………っ!?」
ビクッ、として振り返ると、そこには帽子をかぶった、少し肌の黒い少年が立っていた。
「俺の大事気なMyPCに何してんのさっ!!(-"-)」
その少年はツカツカとに近寄ってくる。
「あ…あの、その……。私……!」
説明しようとするも、混乱してしまって言葉が出てこない。
「……見ない気な顔だな……。(?_?)」
少年は、の前まで来てハタとそう言った。
「あ…、あの、私今度ここに転校する事になったんです……っ!!その、っていいますっ!!」
「ふ〜〜〜ん、そうなんだ……。」
少年は、じろじろとを見ている。
「それで、あの…、教室を少し見てみようと来たらパソコンがあったので、何でかな…、と思いまして……。」
少年が黙っている隙に、ちゃんと説明しなくては、と思いは言葉を続けた。
「その、すいませんでした……!あなたの大事なパソコンだと知らずに…、でも、何も触ってないので……っ!!」
そう言って、顔を上げた瞬間ーーーーー。





パシャッ





「へ……?」
つい間抜けな声を上げてしまった。
「へへ〜〜〜ん♪写真ゲットッ!!」
目の前の少年は、ケイタイを片手ににんまりと笑った。
「へ……?あの、え……?」
が理解に悩んでいる隙に、少年は机の上のパソコンをたたみ、小脇に抱え教室を飛び出て行った。
と、少年が教室のドアから少し顔を覗かせ、一言言った。
「また会おうねっ!!」



「えっ…と、さっきのは…、写真…撮られちゃったんですよね……。」
たしか、本人の許可無く取ったら違法じゃありませんでしたっけ、というような事が混乱した頭の中を駆け巡った。



「へへっ♪いいもの見つけた……っ!!」
その少年ーー朱牡丹録ーーは、さっき撮ったの写真を見ながら、廊下を駆けて行った。










二日後ーーーーー。


ザワザワとざわめく教室に、担任の教師が入って来た。
「えーーー、今日は転校生を紹介する。」
その言葉に、今までざわついていた生徒達は言葉を止めた。
「入りなさい。」
担任が短くそう言うと、教室の扉がカラリ、と静かに開き、1人の少女が入って来た。
その少女を見た瞬間、朱牡丹録はニヤリ、と笑った。
さんだ。両親の仕事の都合でこちらに引っ越してきた。」
担任は黒板にの名前を書きながら言った。
です。よろしくお願いします。」
はそう言って、頭を下げた。
「では、あそこの席に着け。」
そう言って、教師が指さした席に向かう。
途中、何人かの生徒がの顔を覗き込んできた。
トスン、と席に着き、カバンの中のものを机に移そうとした時に、少し隣の席を見た。
「…………っ!!」
あぁ、神様、なんと言う事を……。
は心の中でそう思った。
「よろしくね、さん(^_^)♪」
そこには、ニッコリと満面の笑みを湛えた朱牡丹録がいた。





キーーンコーーンカーーンコーーーン……





一時限目が終わると、数名の生徒がの机の周りにやって来た。
「ねぇねぇ、さんって前の学校どこ?」
さんってかわいいねぇ!」
さんってどこのクラブ入るか決めた?」
転校生の定めなのか、は質問攻めにあっていた。
「えっと…その……。」
は返答に困っておろおろするばかり。
その間にも、生徒からの質問は溜まっていく。
「はい、そこーーー。さんはもう野球部に入るって決まってる気なんだからねっ!!(-"-)」


「え?」


生徒達の質問する声に混じって、しかしはっきりと聞こえる声がした。
振り返ると、録が机にひじを突きこちらの方を少し冷めた目で見ていた。
「え…っと、今何て……?」
困り果てていたは、今の言葉を聞いて、頭が真っ白になった。
「だ・か・ら!さんはもう、野球部マネージャーに決まってる気なのっ!!」
「そんな……っ!?」
事言ってませんよ……っ!!、と言おうとしたの言葉を、生徒達の言葉が遮った。
「何々っ!?もう朱牡丹君と約束したのっ!?」
「お前、いつの間にそんな約束を……っ!!」
「ずるいぞ……っ!!俺も誘おうと思ってたのに……っ!!」
「あっ…、あの、違……っ!!」
がどんなに声を張り上げても、録の言葉に驚いた生徒達には届かなかった。
「だって、俺とさんの仲だもんね〜〜〜(^_^)♪」
ニッコリと、何か含みのあるように笑って、に同意を求めるような口ぶりで録は言った。



シ〜〜〜……ン



「お前らそんな仲なのかーーーっ!?」
「うっそーーー!信じらんない〜〜〜っ!!」
一瞬だけ静かになった教室は、次の瞬間には凄まじい叫びに包まれた。
もはや、生徒達はには向いておらず、録に話を聞こうとしている。
「あぅ……。」
手を伸ばしても、誰も気付いてくれない。
転校初日から大変な事になった。
一体、朱牡丹と言う人は、私をからかって、何が面白いのだろう。
すでに、の心には「朱牡丹録=苦手な人」という方程式が生まれていた。



その後も、録が言ってくれた色々な話から、すでにと録は付き合っていることになっていたり、なぜか、昔別れた幼馴染だという説が流れていたり、さらには、婚約まで約束した仲だとかいう噂まで広がっていた。





「はぁ〜〜〜……。」
今はお昼休み。
やっとの事で、教室の生徒達の質問攻め(録関係に変わったが)から逃れて、一人お昼を食べているところだ。
「まだ、転校初日なのに……。あの人は何であんな事を言ったのかなぁ〜〜〜。」
買ってきたパンも食べ終えて、膝を抱え、へにょり、と力なく呟く。
「うぅう〜〜〜、嫌だよう……。」
早く帰りたいな〜〜〜、と思いつつ、は空を見上げた。










それから数日、やはり、クラスは例の噂(?)で持ちきりだったが、ただ1つ、には嬉しい事があった。
それは、転校してきて初めて友達が出来た事だ。
名前は、大宮小春という。
小春は、が1人で誰もいない校舎裏の階段に座ってお昼を食べている時に出会った。
小春も、録との噂は知っていたが、「そんなの、ただの噂だよ。別に信じてなっかたけど。」と言った。
それは、には嬉しい言葉だった。
小春はに会っても、その話を聞いてこなかった。
二人はすぐに打ち解けて、すっかり友達になった。
それからは、にとって小春の存在が唯一の救いだった。
お昼を食べる時もいつも一緒だ。
その時間に、時々は小春にその日に溜まっていた録へのうっぷんをはらすため、話をした。



「あぅ〜〜〜、聞いてよ!小春ちゃんっ!!朱牡丹君ってば、今日なんか休み時間にいきなり後ろから抱き付いてきたんだよ……っ!?やっと少しはあの噂で騒ぐ人が減ってきたって言うのに〜〜〜っ!!」
「はいはい。ホント、あんたってば、苦労してるわねーーー。」
「苦労なんてもんじゃないよっ!!朱牡丹君は私をからかって、何が面白いって言うの……っ!?」
は何だか泣きそうな気分だった。
「あのさ…、前々から思ってたんだけど、あんた本当に朱牡丹君がの事からかってるだけって思ってるの……?」
小春は静かに尋ねた。
「え…っ、だってそれ以外に何があるの?」
は、ハタと小春の方を見て言った。
「はぁ〜〜〜。何か、今ちょっと朱牡丹君に同情しちゃったわ、私……。」
額に手をつき、溜息混じりに言う。
「えっ!?何なの……っ!?小春ちゃんは朱牡丹君をかばうの……っ!?」
信じられないという顔で、が迫ってくる。
「いや、そういうのじゃなくて……。朱牡丹君はさぁ、本気での事が好きなんだよ。きっと。」
小春の目の前まで近寄ってきたに落ち着いて言った。



ボヒュッ



「う、うぅぅうぅ嘘だぁーーーっ!!」
次の瞬間にはの顔はまるでゆで蛸のように真っ赤になった。
後ろに手をつきながら、どんどん下がって行く。
「転校してきた時に、初めて朱牡丹君に会ったって言ってたじゃない?きっとその時に一目ボレかなんかしたんでしょうね。だから、きっとにかまって欲しいんだよ。」
「そ、そ、そんな事無いよ!だって、そんな…好きとか、そういう言葉は言われた事無いもん……っ!!」
未だに赤い頬を手で押さえて、は言う。
「そりゃあ、直接は言った事は無いかもしれないけど…、あんたの話を聞いてる限りじゃ、好きって気持ち丸分かりだけど……。」
「そうなの……っ!?」
ガーーーンッ、とショックを受けた顔をする
(あんた、ホントにこれっぽっちも気付かんかったんか……。)
そんなを見て、本気で朱牡丹に同情する小春であった。





「ま、ああ見えても朱牡丹君って良い人だよ?結構人気もあるし。野球やってるところはかっこいいって言われてるし。……今度見に言ってみたら?野球部。」
混乱気味のをなだめながら、優しく小春が言う。
「ううぅぅう〜〜〜、でもでも、今更言われても、もう苦手意識がしっかりみっちり染み付いちゃってるし〜〜〜……。」
は頭を抱えてうずくまっている。
「そんな事言わないのっ!!良い所を探すのも大事な事だよ。まずは、その苦手意識を少しでも取り除きなさい。」
そう言って、小春はの頭にポン、と手を載せた。










「うぅぅううぅ〜〜〜……。」
今は放課後、はフェンスに張り付いている。
なぜかと言うと、あの後小春に「今日の帰りに絶対に野球部を見に行く事」と何度も何度も念を押されたからである。
「野球って…私何も知らないし……。」
そう言いながらも、一応小春と約束したのでグラウンドの方をじーーーっと睨むように見ていた。
しかし…、小春の言った事は確かだったらしい。
野球部を見に来ている女生徒は沢山いた。
キャーキャー言っている中に、録の名前も入っているようだった。
何だかその人だかりが恐くて、少し離れた所では見ていた。
「はぁ〜〜〜……。」
グラウンドでは、どうやら各ポジション別に練習が行われているらしい。
大勢の部員の中から、録を見つけ出すのは簡単だった。
結構目立つ格好をしているからだ。
他にも、見ていると色々とすごい格好の人たちがいたが……。


相変わらず、隣にいる女生徒達はキャーキャーと声援を送っている。
そんな時、その声援に答えるように、録がこちらの方を振り返った。
その瞬間、録との目が合ったーーーーー。
(やばいーーーーー……。)
こんな所で、また厄介な事を言われたら……。
そう思って、逃げ出そうと思ったその瞬間ーーーーー。


さ〜〜〜んっ!!!(^_^)」
録が手を振りながら、こちらに走って来た。
それと同時に、隣の女生徒達がこちらを振り返る。
その視線と、野球部員達の視線に射すくめられて、身動きが出来ないでいるうちに、録はフェンス越しにまでやって来ていた。
「嬉しいなぁ〜〜〜♪(^_^)もしかして、俺の事見に来てくれた気っ!?」
「えっ…、あの……。」
頭の中で、小春の言葉がぐるぐると渦を巻きながらよみがえって来る。
何かを言わなければ、苦手だと思うから駄目なのだ、と思うが回りの視線に言葉が出てこない。
「録、その子、誰……?」
私があたふたしていると、朱牡丹君の後ろから、長いマフラーをした人が来た。
「ん?あぁ、白春か。この子はねぇ、さん。」
「あぁ、あの噂の゛……。」
その言葉と共に、辺りにざわめきが走った。


突き刺さる視線ーーーーー。
囁かれる言葉ーーーーー。


とうとう、の心は限界の達した。





「止めて下さい……っ!!」
の言葉がそのざわめきを破った。
「そんな…、勝手に人のこと色々言わないで下さい……っ!!」
俯いて、スカートを強く握り締めて言う。
「朱牡丹君は…、私をからかって楽しいかもしれませんが、私は迷惑なんです……っ!!」
頭が熱い。
目の前がくらくらする。
周りの視線が突き刺さるほどに痛い。
しかし、一度口を出た言葉は止まる事を知らなかった。
「もう、こんなの沢山です……っ!!もうやめて下さい……っ!!」
そう言って、は駆け出した。
駆け出す時に、チラリと見えた録の顔は、とても切なそうだった。





「…………っ!!」
走って走って、とにかく走った。
誰もいない場所へ、誰にも見られない場所へ。
何故か、走りながら頬を涙が伝った。
心が痛んだ。
これは、朱牡丹君を傷付けた罰だろうか?


「もう、学校来たくないなぁ……。」
めちゃくちゃに走って、気が付けば、いつもお昼を食べている校舎裏まで来ていた。
涙は、流れるままに頬を伝わせた。
しゃがみ込んで、今、自分がしてきた事ーーー取り返しのつかない事を強く悔やんでいた。















〜〜〜後書き〜〜〜

ハム猫・「ハイ〜、録ん(ろっくん、と読む。)ドリーム前編でした〜〜〜。屑桐先輩押しのけて、前後編だよこの野郎!」

朱牡丹・「あはは、そんなの言われたって、俺のせいじゃないし〜〜〜。」

ハム猫・「そうですけどね。ちなみに、コレきっと今まで書いた中で一番長くなりそうですね〜〜〜。」

朱牡丹・「やった!それって結構すご気じゃないっ!?(^_^)」

ハム猫・「そうかもね〜〜〜。」

朱牡丹・「でも、何でこんなに内容暗いんだよぅ〜〜〜。(-"-)俺、さんに嫌われた気じゃんか!」

ハム猫・「ま、後半ではハッピーエンドになりますから(多分)良いじゃないですか♪」

朱牡丹・「今!今(多分)って入った……っ!!」

ハム猫・「録の顔文字が少なく、おかしいのは目を瞑ってやって下さい〜〜〜。元々、顔文字使わない奴なんで、どういう意味なのかあまり分からないんですよ……。」

朱牡丹・「んじゃ、無事に終わるのか心配だけど、気になったら後半もヨロシクっ!!(^^♪」



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