ディスプレイの言葉・後










『なにぃ……っ!?あんた、朱牡丹君にそんな事言ったの……っ!?』
「うん……。」
家に帰り、とにかく小春に電話した。
誰かに言わなければ、自分のした事の後悔に押しつぶされそうだったから……。
「ねぇ…、どうしよう、小春ちゃん……。私…、私、朱牡丹君を傷付けちゃったよね……。すごく傷つけちゃったよね……っ。」
ぽろぽろと、涙を流しながら小春に訴える。
「どうしたらいいのかなぁ……?」
嗚咽に口元を押さえながら、小春に問う。
『…………。どうするったって…、謝るしかないんじゃないの……?ちゃんと誤解を解いて、謝るしか……。その時言った言葉は、本心じゃないんでしょ?』
受話器の向こうから、小春の優しい声が聞こえる。
「うん……っ。あんな事、言いたくなかったの……!でも、口が勝手に動いて…、言い出したら止まらなくて…、恐くて……っ!!」
『じゃあ、早めに…、明日にでも謝んなさい……。あんたには辛いだろうけど、朱牡丹君も、きっと同じ位辛いと思うし……。』
「うん……。ありがとう、小春ちゃん……。ごめんね、こんな事まで……。」
涙を指で拭いながら言う。
『そんなのイイって。それより…、頑張りなよ……っ!!』
「うん。分かった。ホントに有り難う……っ!!」
そう言って、受話器を置いた。
明日は頑張ろう……。
どんなに辛くても……。
朱牡丹君に謝って、誤解を解かなきゃ……。










翌日、学校への道のりが、とても遠く感じた。
「会ったらすぐに言わなきゃ……。謝って…、それで……。」
昨日の夜から考えていた事を、口に出しながら歩く。
一歩一歩学校に近づくたびに、心臓が張り裂けそうになった。
校門をくぐり、教室に向かう。
その途中、何度か人の視線を感じた。
きっと、昨日のあの光景を見ていた人達だろう。
教室に入ると、すぐに自分の席についた。
朱牡丹君は、朝練でまだ来ていない。
今のうちに落ち着いておかなきゃ……。



そんな事を考えていると、時間はあっという間に過ぎた。
予鈴が鳴って、ガラリ、と扉が開かれる。
朱牡丹君が入って来た。
すたすたと、自分の席に向かって来る。
少しずつ、私に近づいて来る。
朱牡丹君が自分の席に座ったと同時に、私は声を掛けた。
「あっ、あの……っ!!」
考えたら、私から話し掛けたのは、これが初めてかもしれない。
頭の片隅でそんな事を考えながら、次の言葉を続ける。
「あ、のね…、昨日の……。」
私が昨日の事に触れようとした時、急に朱牡丹君はガタン、と席を立った。
「え……?」
その表情は、氷のように冷たかった。
いつも笑顔を絶やす事のなかった朱牡丹君とは思えないほどに……。
そのまま朱牡丹君は荷物を置いたまま教室を出て行った。

「は、はは……。何か…私かなり嫌われちゃったの、かな……。」
目頭が熱くなるのを我慢して、俯きながら呟いた。





とうとう、朱牡丹君は帰ってこないまま、授業は始まった。
「ん?朱牡丹はどうした……?荷物は…あるな。保健室か……?」
先生が、出席簿をつけながら言った。
私は…、心のどこかで朱牡丹君が帰ってこなかった事に安心感を覚えていた。
隣りあわせで授業を受けていたら、きっと今頃私の方が逃げ出しそうだったから。
その後も、ずっと朱牡丹君は授業に現れなかった。










「…………。はぁ……。」
朱牡丹録は、1人で屋上にいた。
寝転がり、空を眺める。
「後で先生にどやされる気かな〜〜〜……。」
そう言って、ズボンのポケットからケイタイを取り出す。
ボタンを押して行き、と初めて会った時の写真を表示する。
「あ〜〜〜ぁ、…俺って何してるんだろ……。」
メニュー画面から、「一件消去」を選ぶ。
一瞬迷ったが、思い切ってボタンを押した。
その瞬間に、の写真はケータイの画面から消えた。
「はぁ……。」
録は、暫くその「一件消去しました」と表示された画面を見ていた。










「ぅえうぅ〜〜〜。こんな日に、こんな宿題出さなくても良いじゃない……。」
は、図書室で呻いていた。
今日、日本史の授業で宿題が出されたからだ。
しかも、その宿題の量がすごかった。
日本史の先生は、歴史大好き人間で、時間さえあれば、自分の思うがままに歴史について話し続けるような先生である。
その先生が出した宿題は、歴史上の有名な人物ーー徳川や足利などーーの家系図の穴埋め、と言うものだった。
しかし、穴埋めと言っても、ほとんどが穴あきだと言っていい。
膨大な量の穴とにらめっこしながら、は泣きそうな気分だった。
朝の録の反応が、かなりのショックを与えていた。
図書室で、資料を見ながらやろうと思ったのだが、まったく作業は進まない。
「はぁ〜〜〜…、借りて帰ろっかな……。」
そう言っては、重い頭を持ち上げて、本をたたんだ。










「むぅう〜〜〜っ。何も、こんなに出さなくても良いじゃん……。」
その頃、録は教室で呻いていた。
屋上から教室に荷物を取りに行こうとした時に、運悪く担任に見つかってしまいどやされたのだ。
そして、サボった罰として、例の歴史の宿題を「本日中」に提出するように、と言われたのだ。
まぁ、資料になりそうな本は何冊か貸してくれたが、それでもこの量は、調べていては日が暮れてしまう。
「へへ……っ。俺が一々調べると思ってる気なのかね〜〜〜っ。」
そう言って、録は鞄から自分のノートパソコンを取り出した。
そして、ポケットからケイタイを出し、接続する。
「こういうのは、ネットで調べた方が早いんだよね〜〜〜♪」
録は、ニヤリ、と笑って検索を掛け始めた。





「…………。……よっしと!コレで最後だ……っ!!」
丁度良いサイトを発見して、ほぼそのサイトを見て写して終わった。
時計を見ると、五時前ーーーーー。
今から野球部に行っても、あんまり練習出来ないし、どっちにしろどやされるんだからゆっくり行こう。
そう思って、録は宿題を手に立ち上がった。










「はぁ〜〜〜、結構遅くなっちゃったな……。」
は、教室の前を通りながら呟いた。
あれから、他に何冊か資料になりそうな本を探し、借りて図書室を出たところ、結構な時間が経っていたのである。
「……あれ……?」
通り際に教室を覗いて、は歩みを止めた。
窓から差し込む夕焼けに朱色に染まる教室の中で、ある机の上に、ノートパソコンが置かれていた。
そう、朱牡丹録の席に……。
「朱牡丹君、戻って来たんだ……。」
ポツリ、と呟いた後、教室に録がいないことを確かめて、ゆっくりと入る。
見ると、パソコンの電源はまだついたままだった。
「…………。」
暫く、そのパソコンのディスプレイを見つめたまま、は考えていた。


朱牡丹君に謝りたい。
でも、言葉で言おうとしても、避けられる。
じゃあ、パソコンに打ち込めば……。


そんな考えが浮かび、人のパソコンを勝手に使うのは少し気が引けたが、思い切って、ワードを起動させた。
ゆっくりと、一文字一文字打ち込む。
自分がした事への後悔の気持ち。
録への、謝罪の言葉。

そしてーーー、自分の本当の気持ちーーーー……。





たった数行の文を打ち込んでいただけなのに、何故か何時間も経ったような気がした。
最後に、もう一度文章を確認する。
……大丈夫、伝えたい事は、全て書いた……。
そう思い、教室を出ようとした時ーーーーー。





「何してるのさ、そこで。」
背後から、録の声がした。
「…………っ!?」
出る声も無いほどに驚いて、教室の扉の方を振り向く。
「人のパソコン勝手に触って、何してんの?」
冷ややかな、録の声。
その声に、の体も凍りついた。
身動きが取れない。
この場を動く事が出来ない。
「…………。」
そんなに、録が近付いてきた。
目の前まで来て、の後ろのパソコンを覗き込もうとする。
「ぁっ、だ、駄目……っ!!」
は咄嗟にパソコンの画面を隠そうとしたが、録に先にひょいと取り上げられた。
「……ふ〜〜〜ん……。」
パソコンの画面、の打ち込んだ文字をまじまじと見て、録は呟いた。
「あ、あの、本当はこんな事はしたくなかったんだけど、その、朱牡丹君は私の事避けてるみたいだし、それはその…、当たり前かもしれないけど…、これは他に手段が無いと思ったからで、…悪気があったわけじゃ、ないの……。」
未だにまじまじとパソコンを見ている録に、は顔を俯けて言った。
「これって本当?」
急に、録が言った。
「ここに書いてあるのって、ホントにさんが思ってる事?」
「……っうん!本当に、そう思ってるよっ、昨日は本当にごめんなさい……っ!!」
やっと、録が自分の言葉を受け取ってくれたと思い、は両手を膝に揃えて頭を下げた。
そして、ゆっくりと頭を上げた瞬間ーーーーー。



パシャッ



「……へ……?」
そこにいたのは、いつもの録だった。
にんまりと、嬉しそうに笑っている。
「やったね!写真ゲットッ!!」
初めて会った時のように、携帯で写真を撮られた。
「いやぁ〜〜〜、最初に撮ったヤツ、消しちゃってさ。でも、これで良かったっ、さんの新しい写真撮れたもんね♪」
嬉しそうに、先程撮った写真を保存する。
「いぇ…、その、あの、これはどういう……?」
またも、の頭は混乱状態だ。
一体、この録の変わり様は何なのだろうか……?
今まで怒っていたはずなのに……。
「……朱牡丹君、怒ってたんじゃないの……?」
目の前でにんまりと笑っている録に声を掛ける。
「……まぁ、怒ってたけど…、考えたら、それは俺が悪かった気だしね……。」
すると、つと唇を尖らせて、録は言った。
「はっきりと言ってなかったのはやっぱり良くなかったと思うし…、まぁ、さんがここまで鈍かったとは思ってなかったからね。」
には意味の分からない言葉を一人ぶつぶつと言っている録。
そんな録に、疑問符を浮かべる
「……って、事で。俺宣言するからね!」
「え……っ!?」
録がニヤリ、と笑いそう言った瞬間ーーーーー……。





チュッ……





本当に小さく、微かな音が教室に響いた。
「ぁっ…、ぁ、あ……っ!?」
は音のした場所、自分の頬を手で押さえる。
「俺、絶対さんを俺のものにするから!覚悟しといてねっ!!」
顔を真っ赤にしながら口をぱくぱくとさせているを楽しそうに見て、録はそう言った。
「じゃあね、さん!また明日……っ!!」
録は、机の上にあったノートパソコンを折りたたむと、脇に抱えて教室を駆け出した。
「ぃ…、今のって……っ!?しゅ、朱牡丹君が…、私に……っ!?」
録が去った後も、教室で一人混乱状態の
今さっきの出来事を思い出して、ますます赤面していく。
と、ペタリ…、と床に座り込んでしまった。
「どうしよう…、腰抜けた……。」
床に顔を向け呟く。
「本当に…、朱牡丹君は、私の事を……。」
以前小春が言っていた言葉を思い出す。
半分は信じていなかったが…、今の事を考えると本当なのだろう。
「これから…、どうしよう……。」
誰もいない教室で一人、肩を落とす
「あんな事されたら、明日から普通に顔見れないよぉ……。」
いつまでも冷めない頬に手をやり、は天井を仰いだ。
(でも…、何でだろ……。今、私って嫌な気持ちしてない…よね……?)
ドキドキと、未だ早鐘を打つ心で考える。
(これって…、もしかして私も……?)





この後、がマネージャーとして野球部に入部届けを出しに行く日が来たかは、また別の話ーーーーー……。














〜〜〜後書き〜〜〜

ハム猫・「ハイ!やっとこ終わりました、録ドリームっ!!」

朱牡丹・「あぁ〜、もう、長かったな〜〜〜。もっと早く仕上げてよね!(-"-)」

ハム猫・「アッハハ☆耳が痛いね♪」

朱牡丹・「しかも、後編でも俺あんまし良い思いしてなさ気だし……。(-_-)」

ハム猫・「〜〜〜〜♪」

朱牡丹・「鼻歌歌ってないで!もう良いから、作品について何か言ったらっ!!」

ハム猫・「えーーー…っと。ゴメンナサイ。」

朱牡丹・「それだけ……っ!?(@_@)」

ハム猫・「いや、何かもうネタがね……。最後強制終了っぽいですし……。しかも、もう録の口調と顔文字無視しまくりですし……。あは、あはは……。(壊)」

朱牡丹・「これから、俺さんとラブラブになれる気なの〜〜〜っ!?(-"-)」

ハム猫・「それは、皆様の想像次第ってことで!」

朱牡丹・「……あっそ……。じゃあ、こんな話最後まで読んでくれてアリガトね!今度はさ…、2人で一緒に写真撮ろうね……っ!!」



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