ーーー独占欲ーーー
僕は牛尾御門。
十二支高校の3年生で野球部のキャプテンをしている。 野球は面白いし、はっきり言って愛しているよ。 今年入った1年は皆それぞれ凄いから、これからはもっと楽しい野球が出来ると思う。 さっき、”野球を愛してる”といったが、僕にはもう1つ、愛するものがある。 それは、一年マネージャーであり彼女の君だ。 君とはまだ付き合い始めて長くはないが、一日を通して出来るだけ一緒にいるようにしている。 朝練と午後練は野球部で一緒だし、お昼はいつも一緒に食べている。 本当に君がマネージャーになってくれて良かったよ。 少しでも君の側にいられるからね。
「おはようございます!牛尾先輩……っ!!」
僕がグラウンドでトンボがけをしていると、君が声をかけてきた。 「やぁ、おはよう、君。」 僕もあいさつを返して微笑む。 すると、君もかわいらしい笑顔を僕に向けてくれる。 朝から君の笑顔が見れて幸せだよ。 この笑顔を見ただけで、”今日も一日頑張ろう!”と思えるからね。
「あの…、ですね、先輩……。」
「ん?何だい?」 君は何だか言いにくそうにもじもじしている。 「今日のお昼…、ちょっと用があって一緒に食べられないんですけど……。」 チラリ、と上目使いで言ってくる。 「…………。分かった……。用事があるんじゃしょうがないよ。」 僕が微笑みながら返事をすると、君は安心したような顔になった。 「本当にすいません!あの…、それじゃあ私、準備しなきゃいけないので……っ!!」 そう言って、君は向こうに走って行った。
そりゃあ、正直に言ったら嫌だよ。
付き合い始めてから今まで一度も欠かさず2人でお昼を食べてきたんだから。 でも、君を困らせたくないから。 我儘行って嫌われるのは嫌だったから……。 その時は、委員会か何かだろう、と思っていた。
お昼休みーーーーー。
僕は何となく、一人でお弁当を持って屋上に向かった。 丁度良く人がいなかったので、そこで食べることにした。 お昼も食べ終え、1人でボーーーッと空を見上げる。 5月の空は痛い程に青く晴れ渡っていた。 こんなに1人が寂しいなんてーーーーー……。 君が隣にいることに慣れ過ぎて。 それが当たり前になっていて。 僕が1人でいる事に、こんなに寂しさを覚えさせる。
「……ハァ……。」
このまま1人でボーーーッとしているのも何だし、校内でも歩こうかと思い、立ち上がる。 重い扉を開けて、僕は屋上を去った。 一旦教室に荷物を置きに行き、どこに行くでもなく廊下を歩いていた。
フッと、特に何が見たかったわけでもないが、外を見た。
その瞬間、僕の目に映ったものーーーーー。 中庭のベンチに座って、2人で楽しそうに話している君と蛇神君だったーーーーー。
『今日のお昼…、ちょっと用があって……。』
朝聞いた君の言葉が頭をよぎる。 今、僕の目に映っている事が事実ならば君の言っていた『用』というのは蛇神君に会う事なのだろう。
話している内容が聞こえる訳でもなく。
ただ、僕の存在に気付きもしないで話す2人を見つめていた。 本来なら、蛇神君のいる場所は僕がいるべき場所だ……。 僕の場所を奪わないでーーーーー。 僕以外に君の笑顔を見せないでーーーーー。 気が付けば、窓に添えていた手に力が入っていた。
こんな現実見たくないーーーーー……。
僕は、自分のクラスに走って行った。
自分の独占欲が怖かった。
自分がこんなに君を欲しているなんて知らなかった。 親友である蛇神君を恨めしく思うほどの独占欲ーーーーー。 これが、君を傷つける事はないのだろうかーーーーー……? 自分が怖くなったーーーーー……。
しかし、今日も変わらず放課後が来てーーーーー。
キャプテンである僕はクラブに出た。 グラウンドでトンボをかけていると、朝と同じく君が駆けて来た。 「牛尾先輩!今日も早いですねっ。お昼はすみませんでした……。明日からは、また一緒にお弁当食べましょうねっ!!」 何事もなかったように笑顔で話してくる君。 君のその言葉は真実を述べているのかい? 「……あぁ、そうだね……。」 お昼の事を聞こうとしたが、聞いた時に、君の口からどんな言葉が出るのかが怖くて、聞くのはやめた。
クラブ中も、君はいつもと変わった様子はなく、いつも通りにマネージャーの仕事をこなしていた。
「じゃー、今日はこれまでだ。解散っ!!」
羊谷監督のその言葉と共に、部員達は散って行った。
着替えを終えて、マネージャー準備室に向かう。
丁度出てきた鳥居君に声をかけた。 「君は…、いるかな……?」 「えっ、あの、さんなら買う物があるとかで先に帰りましたけど……。」 少し困ったように鳥居君が言う。 「そうか……。ありがとう、すまないね、呼び止めて。」 そう言って、僕は1人で校門に向かった。
正直、半分がっかりして、半分ホッとした。
一緒に帰っていたとしても、何を話したら良いのか分からなかっただろうし……。 そんな事を思いながら校門を出ると、前方に蛇神君を見つけた。 その瞬間、脳裏に浮かぶあの映像ーーーーー……。 一瞬体の芯が拒絶を示したが、意を決して、僕は蛇神君の方に駆けて行った。
「蛇神君っ!!」
名前を呼ぶと、彼は振り向いた。 「…………?何だ、牛尾……。」 僕はしばらく黙り込んでいたが、ずっと気になっていたことを聞いた。 「昼休みに…、君と何を話していたんだい……?」 その瞬間、蛇神君の顔が少し険しくなった。 「……それは…、言えぬ……。」 たった、その一言が返ってきた。 「…………!なぜだい……っ!?やましいことが無いならば言えるはずだろ……っ!?……それとも…、僕に知られては困ることでもあるのかい……っ!?」 「……そうとも言えるな……。言えば殿が困る……。そして、また主にも良くない事だ……。」 それを聞いて、一気に血の気が引いた。 自然と地面の方を向く。 「蛇神君……。君は…、君の事が好きなのかい……?」 「…………?何を言っている…、我は……。」 気が付けば、僕は踵を返して走り出していた。
君を信じていない訳ではない。
でも、僕に秘密で蛇神君に会って、しかも、あんなに楽しそうに話をしていたんじゃ…、最悪の場合を考えるな、という方が無理というものだよ。
僕は…、”いい先輩”でいようと一生懸命頑張ってきた。
君を傷つけないように…、君に嫌われないように……。 しかし、それが君には不満だったのかもしれない。 気付かないところで嫌な事をしていたのかもしれない。
明日、君本人に聞いてみよう……。
もし…、もし最悪の返答が帰ってきたら、僕は身を引こう……。 それが、君のためなら……。
次の日ーーーーー。
僕がいつも通り、皆より早めに学校に行くと、グラウンドのベンチには君がいた。
「…………っ!?君……!どうしたんだい……っ!?」
微笑んでいる彼女の下へ駆け寄る。 「へへ…っ、他に人がいない時に渡したかったから……!」 とても嬉しそうに笑っている君は後ろ手に何か持っているようだった。 「…………?」 彼女は、後ろに隠していたものを僕に差し出した。 「お誕生日おめでとうございます!先輩……っ!!」 僕は思考が停止して、しばらく現状がつかめなかった。 「え…、あ……。今日は…、僕の誕生日か……。」 「何言ってるんですか!さっ、先輩!開けてみて下さいっ!!」 そう言って、プレゼントの箱を僕の手に渡した。 「う…、うん……。」 ガサガサと包み紙をはがして行き、中の箱のふたを開ける……。 中に入っていたのは、アンティーク調のオルゴール付きの小物入れだった。 「それですねぇ…、ちょっと女の子っぽいかなぁ〜と思ったんですけど、お店に入ってすぐに目に付いて……。色々見て回ったんですけど、”これしかない!”って思ったんで、それにしたんです……。」 嬉しそうに説明する君を、未だに全てのことが掴みきれていない僕はただ見つめていた。 「えっ…と、あの、それじゃあ、昨日蛇神君と話していたのは……。」 自然と口をついて出た。 「えっ……っ!?見てたんですか……っ!?ぁう〜〜〜、恥ずかしいなぁ……。本当は私、今日が先輩の誕生日っていう事、最近まで知らなくて…、で、何を買ったら良いのか分からなかったんで、牛尾先輩と仲のいい蛇神先輩に相談にのってもらってたんですよ〜〜〜……。」 ”すみません……。”と謝ってくる君。
『言えば殿が困る……。そしてまた、主にも良くないことだ……。』
冷静になって考えれば、昨日蛇神君が言っていた事も理解できる。
「なんだ…、じゃあ、蛇神君を好きになったんじゃあ……。」
今まで考えていた最悪のケースではないと知って、ホッ、と胸をなでおろす。 「なっ……!私が先輩以外の人を好きになる訳無いじゃないですか……っ!!」 つい大きな声で言った自分の言葉を思い直して顔を赤くする君。 そんな君を、とても愛しく思う。 僕はそう思うと、貰ったプレゼントをベンチに置き、君を抱きしめた。 「ほぇっ!?う…牛尾先輩……っ!?」 抱きしめられて、あわてる君。 つい、また”かわいいなぁ”と思い、クスリ、と笑ってしまう。
「僕は…、蛇神君に君を取られてしまったと思って、すごく嫉妬してた。自分がすごく独占欲が強いんだと知って、怖くなった……。この気持ちが、君を傷付ける事になってしまわないか、考えた……。」
そこまで言って、僕は黙り込んだ。 「牛尾先輩……?私、いけない事かもしれませんが、今の言葉を聞いて、少しうれしかったです……。独占欲…って、それだけその人の事を好きって事ですよね……?それは誰でも思う事だと思います……。それに…、私、牛尾先輩になら、独占されても…いいですよ……?」 「本当…、かい……?」 最後の方の言葉は、恥ずかしさのせいか、小さくなっていた。 「はい……。でも…、私も牛尾先輩を独り占めさせて下さいね……っ!!」 抱きしめていた腕を解いて、君の顔を見ると、恥ずかしそうに…、でも、嬉しそうに微笑んでいた。 「あぁ、僕は君のものだよ。」 僕も微笑み返す。 「じゃあ、私は先輩のものですね……っ。」 そう言って、2人で顔を見合わせ、笑いあった。 今の僕には、隣に君がいて笑っていてくれるだけで十分だよ。 それが僕の、一番の幸せだからーーーーー。 〜〜〜後書き〜〜〜 ハム猫・「すいません。甘々目指して玉砕。」 牛尾・「最近の君の書く話は暗くないかい?」 ハム猫・「そーなんすよ!何かギャグネタ思いつかないんすよぅっ!!絶対どっかにシリアス要素混じっちゃうっていう……。」 牛尾・「夢って…、普通甘いものが多いんじゃないのかい……?」 ハム猫・「いや、まぁ多分そうでしょうね……。いつか、ナイアガラの滝級に砂糖を吐きまくるような、書いてる本人が恥ずかしすぎてこれ以上書けねぇ!っていうようなのを書いてみたいです……。(エロにあらず。)」 牛尾・「まぁ、まだまだハム猫も、夢を書くのは初心者だからね。」 ハム猫・「そうっすね。これからもっと頑張るですーーー。……ところで、何か書いてるうちに白とか黒とか分かんなくなってきちゃったんですけど、この牛尾先輩って何色ですか……?良ければ皆様の意見、お聞かせ下さい。」 牛尾・「それでは、ここまで読んでくれてありがとう。良ければ、また来てくれたまえ。」 |