コンコン……ッ。
「翔龍子様、虎王様、お茶をお持ちしました。」 そう言って、は控えめに扉を開けた。 ここは、翔龍子と虎王の仕事部屋である。 広い部屋の中、背中を合わせる形で二つの机が据えられている。 そこには、沢山の書類と翔龍子、虎王の姿。 翔龍子は一生懸命に書類を片付けていたが…、虎王は書類に涎を垂らして、気持ち良さそうに眠っていた……。 ーーーどっち?ーーー
「あぁ、か。いつもすまない…、少し休憩にしようか。」
が入って来た事に気付き、翔龍子は動かしていた手を止めてを見た。 と、そのが何とも言い難いような微妙な表情をしている。 不思議に思ってよく見ると、その視線はーーーーー……。 「虎王……っ!?」 自分と背中合わせに座って、仕事をしているはずの虎王に向けられていた。 しかし、今の彼は夢の中。 朝、武宝に渡された書類も全く減っていなかった。 仕事に熱中するあまり、いつも何かと煩い虎王が静かにしている事におかしいと思わなかった。 「何だか気持ち良さそうにお眠りになっていらっしゃるようで……。」 は、困ったように少し笑う。 「全く…っ、これでは武宝にまた怒られるぞ!」 そう言って翔龍子は虎王の後ろに立った。 「虎王…っ、起きろ!目を覚ませ……っ!!」 肩に手を置き、軽く揺する。 しかし、虎王の眠りはかなり深いらしく、「もう食えん……。」等と寝言を言うだけだった。 「…………。」 全く困ったものだ、とでも言いたげに一つ溜息を吐く翔龍子。 こう言う時に武宝がいれば、一つ怒鳴るだけで簡単に起こす事が出来るのだが……。 「翔龍子様…、少し良いですか……?」 「ん……?」 の言葉に振り向いてみると、少し虎王を覗き込むかたちで立っている。 どうやら、虎王を起こしてみると言う事らしい。 「虎王はちょっとやそっとの事では起きんぞ?」 そう良いつつ、がどんな手を使うのか少し気になったので、翔龍子はその場をどいた。 「失礼します。」 は軽く頭を下げると、虎王の横に立った。 「虎王様……。」 肩に手を置き、軽く揺すって優しく呼びかける。 すやすやと眠り続ける虎王は、小さく「うぅん……。」と唸った。 「虎王様、起きて下さいませ。そうでないと、このが虎王様の分の果蜜桃を食べてしまいますよ?」 虎王の良く聞こえそうな耳元で、少し悪戯っぽくそう言った。 その途端ーーーーー……。 「……んん?」 虎王が反応を示した。 「オレ様のを勝手に食う奴は許さーーーんっ!!」 口から垂れている涎もそのまま、虎王はガバリ、と起き上がった。 「……んぁ……?」 それから暫くして、今の状況に気付いたらしい。 「……ん?あぁ、もう休憩の時間なのか?」 隣で苦笑していると、片や呆れたような表情の翔龍子を見て、虎王はケロリと言ってのけた。 「虎王…、そなたちっとも仕事が進んでおらぬではないか……っ!!」 腰に手を当てて、翔龍子が言う。 「そんな事言ったって……。しょうがないだろう、眠かったんだからっ。」 ムスッとした表情で虎王は言う。 「武宝の言い付けを守らずに、夜更しするからだ!」 「まぁまぁっ。」 虎王と翔龍子が睨みあっているのを、が間に入って止めた。 「翔龍子様も落ち着いて下さいませ……。今はとにかく少しお休みになられた方が……。」 のその言葉に、翔龍子も仕方が無い、と言う風に一つ息を吐き、机に戻った。 「は話が分かるな!翔龍子は頭が固くていかん!」 さっきの表情は何処へやら、ニッコリと笑って虎王はを見上げた。 翔龍子は、その言葉にムスッとした表情になった。
一旦仕事机を離れて、今は部屋の奥に置いてある丸机に3人で座っている。
翔龍子と虎王はそれぞれお茶と果蜜桃を味わっている。 「翔龍子様はもうすぐ今日の分のお仕事は終わられるんですか?」 おぼんを膝に乗せたが話しかけた。 「あぁ、あと少しで全部の書類に目が通せる。」 翔龍子は、一口お茶を飲んでそう言った。 「そうだ、なぁ。この仕事が終わったら、少し野駆けに出ないか?」 「野駆け…ですか……?」 翔龍子の申し出に、はきょとん、とする。 「この季節はどこも花が綺麗に咲いている。少し、花畑にでも行ってはみぬか?」 優しく微笑み、翔龍子は言う。 「あの……。」 が、何かを言いかけたその時ーーーーー……。 「さっきから聞いていれば、ずるいぞっ、翔龍子!」 急に、虎王が叫んだ。 「…………っ!?」 果蜜桃を食べていた匙で急に指された翔龍子は目を丸くする。 「”ずるい”とは、何の事だ……?」 意味が分からないと言う風に、翔龍子が聞く。 「何だとはよく言ったな!さっきからお前ばっかと喋っているじゃないか!しかも、勝手に野駆けなんかに誘いやがって……っ!!」 口の端に、果蜜桃の欠片を付けながら、虎王は叫ぶ。 「何を言っておるのだ、果蜜桃を食べる事ばかりに夢中になっていたのはそなたではないかっ!?」 虎王の目茶苦茶な言い掛かりに、翔龍子も反論する。 「そんな事は関係無い!抜け駆けするとは卑怯だぞ、翔龍子っ!!」 虎王には、どんな正論も通じないようだ。 とうとう椅子から立ち上がった。 「ぉ…、落ち着いて下さいませ!虎王様……っ!!」 急な虎王の怒りに、驚いて立ち上がる。 「翔龍子様はそんな……っ!!」 どう言って良いものか、少し言葉を詰まらせていると。 「まで翔龍子の味方なのかっ!?」 今度は、を睨んで来る。 「そ、そんな訳では……っ。」 行き成り話の矛先を変えられて焦る。 「虎王、が困っているではないか!少し落ち着け……っ。」 翔龍子も、迂闊に変な事を言えば余計に虎王を怒らせるばかりなので、何とか宥めようと心掛ける。 「今日と言う今日は、ハッキリさせてやるぞ!」 翔龍子の言葉も無視して、虎王は椅子から離れた。 「!オレ様と翔龍子、どっちを選ぶんだ……っ!?」 そして、先程と同じように、今度はに匙を向けた。 「……っは……っ!?」 虎王の急な台詞についつい素っ頓狂な声を上げる。 「ハッキリ言うまでこの部屋を出さないからな!の口から出た言葉なら、翔龍子も納得するだろうっ。」 完璧な考えだとでも言いたげな顔で言う。 「……どっち…と言われましても……っ!!」 そんな事答えられるはずが無い。 そもそも、何を基準にしての「どっち」なのかが分からない。 虎王の言っている意味が分からず、あたふたする。 翔龍子はと言うと、すでに出る言葉さえ無いようである。 ただただ、がどう返答するのかを目を丸くして見ている。 「さぁ、どっちを選ぶんだ……っ!?」 「ぅ…、ぇえ……っ!?」 目の前では虎王、横からは翔龍子に凝視され、冷や汗が流れる。 ここで変な回答をすれば、聖龍殿を追い出されかねない。 その前に、この虎王を完璧に怒らせかねない。 「どっち…と言われましてもぉ〜〜〜……。」 頭を抱え、何か良い答えは無いものかとうんうん唸る。 暫く、重い沈黙が流れた後……。 ポンッ
「そうです!一緒に行きましょうっ!!」
は、急に手を合わせてそう言った。 「「は……?」」 その回答には虎王と翔龍子もポカンと口を開けるのみ。 「そうですよっ、そうすれば良いんです!」 この空間で、一人嬉しそうにニコニコとしている。 「……何が良いんだ……?」 そんなに、虎王は恐る恐る聞いた。 「だから、まずは虎王様のお仕事を一緒に片付けて、3人で野駆けに出かければ良いんです!」 怪訝そうな顔の虎王に、は嬉しそうに話す。 「私も、出来る限りの事をします!翔龍子様にも手伝っていただけば、すぐに終わりますともっ!!」 一人嬉々として語るを、2人は間の抜けたように見詰めた。 「……っぁ、その…、すみません、私とした事が勝手に決めてしまって……っ!!」 虎王と翔龍子が、目を大きくして自分を見ていることに気付いたは、自分が今まで一人で勝手に話していた事に気付いた。 しかも、一人嬉々として提案をしたものの、自分の立場を考えたら武宝に怒鳴られるような事である。 未だにポカンと口を開けつつを見つめる2人を恐る恐る伺いながら反応を見る。 と、その途端に……。 「「フ…、あははははは……っ!!」」 虎王と翔龍子が、揃って2人とも笑い出した。 あの翔龍子でさえ、お腹に手を当てて、思い切り笑っている。 怒られるならば分かるけれど、何で自分の行動で笑われるのかさっぱり分からないは、その反応に吃驚した。 「ぁ…、あのっ、その、何か私おかしな事をしたでしょうか……っ!?」 その場に居づらくて、少しそわそわとしながら尋ねる。 「……っいや、そうじゃない、…ハハ、こりゃオレ様の負けだな……っ!!」 目に涙をためながらも、虎王は言う。 「……ふふっ、しかし、それでこそらしいと言うものだろう……。」 人差し指で涙を拭いながら、翔龍子も言った。 には2人の言ってる事はさっぱり、ちんぷんかんぷんだった。 「…………?」 眉根を寄せながら考え込んでいるを見ると、虎王は丸机を離れた。 「まぁ、今日の所は良いとしよう。さて、じゃあ3人で野駆けに行くために仕事を片付けるとするか!」 そう言って、腕を大きく振り回しながら、仕事机に戻った。 「じゃあ、予も少し手伝うとしよう……。」 翔龍子も、そう言うと静かに立ち上がり、虎王の下へ行った。 一人丸机に残されたは、そんな2人の後姿を見ながら、頭に疑問符を浮かべるばかりだった。 まだまだ、2人の気持ちを知ってもらうには時間が掛かりそうである。 それまでは、もう少し。 このまま3人で一緒に……。 〜〜〜後書き〜〜〜 ハム猫・「強制終了気味な虎翔夢???」 虎王・「”?”が3つも付いてるぞ。」 翔龍子・「いや…、これは疑問符などでは済まされぬものなのでは……。」 ハム猫・「何だか私が書くと、虎が馬鹿っぽくなって翔ちゃんが元気っ子(?)になります。」 虎王・「馬鹿っぽいとは何だ!失礼な……っ!!」 ハム猫・「あぁ、”ぽい”も何も、虎はそう言うキャラか……。」 虎王・「今何かとてつもなく失礼な言葉が聞こえたのだが……。」 翔龍子・「それより何より、こんな話では予は苦労ばかりではないか!」 ハム猫・「いや、だって翔ちゃんはきっとそういう運命だから☆」 翔龍子・「爽やかに言うでない!」 ハム猫・「虎に振り回される翔ちゃん、と言うのが希望の形。」 虎王・「つまりは、オレ様が一番、と言う事だな!」 ハム猫・「誰もそんな事言ってませんけどね☆」 翔龍子・「……はぁ、こんな事ではいつまで経っても終わらぬな……。あぁ、ここまで読んでくれて有難う。後ろの煩い2人は置いといて、代表して予からお礼を言おう。よければ、これからも来てくれると嬉しい…、また会える事を願っておるぞ。」 |