月下の夜想曲


「暇…」
独り言を言う気はなかったが、思わず知らず口に出た。
つまるところ、それくらいは暇だった。
まあ、無理もない。彼女をここに連れ帰った当人である魔族…ヴォーカルは、一昨昨日からまったく帰っていないのだ。
一日か…せいぜい二日程度ならまだ耐えられても、娯楽性などと言うものに徹底的に縁のないこの都では、魔導書を眺めていようが散歩をしていようが(しかも決していいと言えない景観だ)大概飽きる。
まして、夜にもなれば闇も瘴気もますます深くなる。部屋の外に出歩けもしない。

(ヴォーカル、いったい何してるんだろう…)
依然として、彼のやっていることはに知らされていない。
知らなければ、それだけ不安も募る。どこにいるのか。何をしているのか。生命に危険はないのか。
連絡がとれない今の状況では、落ち着くことさえできない。
スコアに居たときも、反抗すらできない自分の弱さを情けなく感じたことはあった。しかし、今となればそれも生温いように思える。
大事な男の役にも立てないばかりか、動向を知ることもできないなど、堪らない。泣きたくなる。

考えごとをするように目を伏せてしばらく経ったころ、こつり…と妙な音が鼓膜を震わせた。
「なに…?」
驚いてそちらを振り向くと、窓の縁に先ほどまでは見えなかった影が一つ。それに反応するよりも前に、聞きなれた声が響いた。
「よう!」
窓辺に立っていた影の正体は、見るまでもない。その声ですぐに気付いた。

「ヴォーカル!」
思わず声が弾む。慌てて駆け寄り、縋るように抱きつくと、彼はいつものように口元を歪めて不敵に笑った。
まるで、なにか取って置きのいたずらを考えついた子供のように。
「おかえり! 遅かったね!」
ヴォーカルは笑っただけで、返答はない。
「あれ? どうかしたの?」
いつもと違う反応に顔を上げるより早く、どちらかと言えば細く見えるその腕が軽々とを持ち上げ、荷物でも持つように肩に担いだ。
「きゃあ! ちょっ…ヴォーカル?」
「まあ、つき合いな。いいもん見せてやるからよ!」
言うや否や、ヴォーカルは開け放した窓から勢いよく夜空に飛び立った。

ぐんぐんと風を切り、スピードを上げて少し行くと、は目前の光景に目を奪われた。
絶望の大陸を離れ、厚い雲が晴れてくるにつけ、ミルクの名を持つ星の河が視界いっぱいに表れ出てきたのだ。月すら見えない北の最果てに居ただけに、身体を取り巻くような星々が、の目に一際幻想的に映った。
「きれい…」
群青の夜空に、雪にも似た満天の星々が煌く。
空中を舞う二人を、いつかの夜と同じ大きな三日月が柔らかく照らす。
頬を切りつけるような風の冷たさも、このときばかりは気にならなかった。


しばらく飛んで降りた先は、見も知らない土地の小高い丘の上。おそらく、元は人間たちが住んでいたのだろう…火の気もない静かな廃屋の連なりが、かすかに遠目に見えた。
しかし、それよりもの注意を引いたのは…
丘一面に咲き乱れた、色とりどりの花の群。

「…わあ…!」
「どうだい、気に入ったか? お姫さん」
「うんっ!」
答えると、改めて周りをぐるりと見渡す。
それは、まさに色の群舞だった。地面を覆う花々が、太陽のそれと比べればあまりに控えめな月光を受けて…しかし妖しいほどにそれぞれの美しさを主張していた。
「すごーい! こんなきれいな場所、来たことないよ! ヴォーカル、ありがとう!」
すると、意外な科白が返ってきた。
「人間の女ってのは、花もらったりすると嬉しいんだろ?」
「?」
あまりと言えばあまりに意外な返答に、思わず頭上に疑問符が浮かぶ。
「まだ分かんねーのかよ。おまえ、今日誕生日だろーが!」
「あ!」

忘れていた。
売られてからこのかた一人でしか祝ったことがないせいか、あまりそうしたことに頓着していなかったのである。
「へへ…ごめん。せっかくお祝いしてもらっておいてあれだけど…忘れてました」
「だろーな。けど、オレが言いてえのはそれだけじゃねーぞ」
ヴォーカルの顔に浮かんだ笑みにひしひしと嫌な予感を覚えたが、は果敢にも聞き返してみた。背に冷や汗が流れたのはしかたないが。
「な…なに?」
「なんでオルの野郎には教えといて、オレに一言もなしだったんだ? あ?」
ぎくりと身体が固まりつく。
確かに、先日オル・ゴールにそんなようなことを言った覚えはあった。
「あ…あれは別に、なんにも意味なんてない…ただの世間話だったんだよう……」
今にも声が消え入りそうなのも、しかたないと言えばしかたがない。
「まあ、いいけどよ。…べつに」
珍しく言葉尻を濁して黙りこんだヴォーカルを横目で窺うと、なんの前触れか、彼は静かに星空を見上げたまま身じろぎもしていなかった。

(ヴォーカル…)
何を考えているのだろう。
いつもいつも、どこで何をしているのだろう。
意外に端正なその横顔を見ているうちに、今まで言わずにおいたそんな色々な疑問が、胸中で雪のように溶け去るのがわかった。
どんなことを考えていようと、どこでなにをしていようと、今夜自分に示した気遣いは変わりはしない。
誰が彼を非難しようとも、あざ笑おうとも、自分だけはヴォーカルの側にいよう。

「ねえ、ヴォーカル…」
「ああ?」
「…いろいろ、ほんとに、ありがとう!」
思いついたままに言葉にしてみれば、自分でも驚くほど、あまりにもありふれた文句になってしまったけれど。
(いいや、もう!)

は隣に立つ魔族に花にも劣らぬ笑顔を振り向けて、煌々と月の昇った藍色の夜空に、軽やかな笑い声を響かせた。


 だからわたしは、喜んで、墓に至るまでついていこう。


 * * *


鏡耶・「てなわけで、「月下の夜想曲」をお送りしました!」
ギータ・「それ以前に、なんで私がこのあとがきに呼ばれてるんですか? ヴォーカルさんの話なんですから、お相手をお呼びすればいいでしょうに…」
鏡耶・「ヴォーカルさん呼ぶと殺されるから、嫌です」
ギータ・「あなたにしては、よく分かってらっしゃるじゃないですか。こんなベタで原作を完膚なきまでに無視した少女漫画話を書いておいて、無事で済むとは考えられませんしねェ…?」
鏡耶・「原作無視には触れないで下さい。気にしてるんですから」
ギータ・「気にしてるんなら、もうちょっとましなもの書いたらどうなんです」
鏡耶・「うぬ、ぬ…い、いつになく辛いですねギータさん」
ギータ・「猫かぶるだけの価値があなたのどこにあるんですか。…そのうえこれは、人様への捧げものでしょう」
鏡耶・「最初はその予定じゃなかったんですけどねー。感情の赴くままに書いたはいいけど、よそ様のサイトの設定が基盤なんでお蔵入りになるとこだったんですよ」
ギータ・「ホウ…?」
鏡耶・「いっやー、今回キリ番を踏まなかったら、それとハム猫さまのお誕生日が近いのを知らなかったら、ほんとどうなってたかわかりません」
ギータ・「その場当たり的な生き方はどうにかしたほうがいいですよ」
鏡耶・「……はっ、すみません。策士のあなたに言われると必要以上に応えます」
ギータ・「ところで、今回のヒロインさんを書くのはとても楽しかったそうですけど?」
鏡耶・「あ、はい。そうなんです。素直で感情表現の豊かなかわいい子なんで、書いててすごく楽しかったです!」
ギータ・「全然書きこなせてませんけどねェ…」
鏡耶・「…………はい。…まあ、ともかくあのー、変なもの送りつけてすみません。お誕生日仕様にリニューアルしましたんで、もらってください、センパイ!」
ギータ・「誰が先輩なんですか、ずうずうしいにも限度がありますよ。…第一、学校と縁がなくなって何年経つんでしたっけ?」
鏡耶・「うぐあ! と、ととと歳のことは言わんでください! わたしは愛戦士なんです! 愛のフェアリー伝説ミユキ・キョウヤなのです!(手を叩きつつ踊りだす)(視線はあさっての方向)」
ギータ・「…(ため息)…な…なにやら鏡耶さんが幸せな別世界にトリップしてしまわれたんで、私が締めようかと思います。
 ええとですね、この度はこんな無節操なお願いを聞いていただいて、本当にありがとうございました、ハム猫様。拙い作品ですが、楽しんでいただければ幸いでございます」


 * * *


鏡耶ミユキさんから頂いたヴォーカルドリームでした!
最初に見た時はもう…、にやけてにやけて鼻血ふくかと思いましたよっ!!(変態がここにいます。)
あぁ…、何て素敵すぎなんでしょう……っ!!
ラブラブですよ…っ、らぶらぶ……っ!!(落ち着け。)
ヴォーカル格好良いし…っ、優しいし……っ!!
動作や台詞の一つ一つがツボにハマりましたよ!
私がどれだけ捏造してるかがありありと分かりますね。
そして、ヒロインさん可愛いし……っ!!
いやいや、私の元シリーズよりも可愛さ120%増しですね。
しかも、随所随所にきちんと(作者自身も忘れているような)元設定をきちんと置かれていて……。
情景描写とかも本当凄くて…、読みながら場面がありありと浮かんで来ましたよ。
何度読んでもときめきます♪
とにかく、素敵なドリームを本当に有難う御座いました……っ!!




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