その日は、久しぶりに野球部が休みだったので、トリアエズの散歩に出た。
心地よく日が射し、よく晴れた土手だ。 人通りは少なかった。 「こんな昼間っからの散歩は久しぶりだな、トリアエズ。」 リードを引っ張り、嬉しそうに前を歩くラブラドールに声をかける。 名前は「トリアエズ」。 周りの奴らに言うと、いつも「おかしい」と言われる。 そんなに変わった名前か……?
少し急ぎ気味だったトリアエズが、急に走り出した。
「…………っ!?」 こんな事は、今まで無かったので、ついリードを離してしまった。 「トリアエズ……っ!!」 大声で名前を呼んだが、トリアエズは一目散にある方向へと走っていった。 何かを見つけたのか……? こんな始まりもありでしょう?
トリアエズを追いかけ俺も走っていると、前方でトリアエズの嬉しそうな鳴き声と共に、悲鳴が聞こえた。
悲鳴……? 「…………っ!!」 何かやばい事でもしたのかっ!?、と思い、土手を下る傾斜の草地に向かった。 トリアエズが尻尾を振っているのがかすかに見えた。 それとともに、人の嬉しそうな声も聞こえた。 「あはは、くすぐったいよぅ〜〜〜っ!!」 一歩近寄るごとに嫌な予感がした。 「かわいいね〜〜♪お散歩中だったの?」 トリアエズのところまであと数歩。 嫌な予感は当たった。 トリアエズが飛びついたのは、”女”だった……。 「…………。」 額に手を当て、少しの間考え込む。 まだ相手は気付いてないらしく、トリアエズに話しかけていた。 (オレが女が苦手だって事知ってるだろ…、トリアエズ……。) つい、罪も無い犬に悪態をついてしまう。 どう声をかけたものか、と迷っていると、トリアエズがこちらを振り返った。 「…………?」 それと同時に、その少女もこちらを見た。 やばい…、目が合った……。
「あっ、このワンちゃんの飼い主さん?」
草地に寝っころがっていた少女が上半身を起こしながら言う。 「ぁ、あぁ…、とりあえず……。」 「かわいいね〜〜〜、ちょっとびっくりしたけど♪」 少女は上機嫌で言う。 「……トリアエズ…来い……。」 その少女の下へは行かず、トリアエズを呼んだ。 しかし、彼(トリアエズ)は口から舌を出して息をしながら、尻尾を振るばかりだった。 何度か名前を呼んだが、トリアエズは動かなかった。 (オレが何をしたって言うんだ……。) 心の中で言いながら、犬飼は仕方なく少女の方へ近寄っていった。 少女の下まで来ると、 「あれ?犬飼君だぁっ!!」 ニッコリと笑って言った。 「…………っ!?何で…オレを……っ!?」 急に自分の名前を言われ驚く犬飼。 「ん〜〜〜?だって私十二支高校生だよ?それに、友達が犬飼君の追っかけしてるの。」 ”モテルってのも大変だね〜〜〜。”と明るく笑いながら、少女は言った。 「あっ、私は。しがない高校一年生です!」 そう言ったは、今まで犬飼が見てきた”女子”とはどこか違っていた。 しばらくぼーーーっとしていたのだろう、が「ここ座らない?」と声をかけてきた。 今思えば、その時座らなかったらここでとの会話も終わっていたかもしれない。 犬飼にとって、女子の隣に座ると言う事は前代未聞だったが、その時は何故か素直に座れた。 「あ〜〜〜、今日カメラ持ってくるんだった!きっと犬飼君の写真とか欲しがるだろうなぁ〜〜〜、沙里!」 口調からして、冗談だという事は分かったが、ついいつもの癖で体が強張ってしまう。 「あ、冗談だよ〜〜〜。心配しないでっ、カメラは持ってないから。」 ひらひらと手を振る。 「……ところで…、お前は何でここにいたんだ……?」 犬飼は、少し照れながらも聞いてみた。 「んっとねぇ、ただ単にお日様が気持ちよかったから、かな。」 ”草の上に寝っころがると気持ちいいじゃない?”とは言った。 (変わった奴だな……。) 犬飼はそう思っていた。 こういう女もいるのか……。 今まで、いつも追い駆け回されてて、他の奴らに目を向ける事なんて無かったからな……。 少し、居心地の良さを感じていた。 「犬飼君ってさー、何で女子が苦手なの?」 はトリアエズを撫でながら聞いてきた。 「……何でって……。分からん……。とりあえず…、追いかけてくるし……。」 「じゃあ、追いかけなかったら大丈夫なの?」 ずずいっ、と顔を近寄らせながら聞く。 「……っ、そんな事を言われても…よく分からない……。」 「ふ〜〜〜ん、そっかぁーーー……。」 は、トリアエズの毛を何度も撫でていた。 「沙里がね、あっ、友達なんだけど…、いつも犬飼君を追い駆けてるんだよね。」 青い空を見上げながら、が話し出した。 「私はいつも、何で追い駆けるのかな〜〜〜、と思うわけよ。で、聞くと、いつも決まって「愛してるからよっ!!」という、熱いコメントが帰ってくるわけなんだけど……。」 そこで少し言葉を止め、頬をぽりぽりと掻いた。 「私には、好きな相手が嫌がってるのに追い駆けるのは、少し間違ってると思うんですよね。まぁ、恋は人を盲目にさせるって言いますけど……。」 そう言って、は遠くの空を見た。 「お前は…、違うのか……?」 そんなを見ていると、自然と言葉がポツリと漏れた。 「へ?」 オレの言葉に驚いたのか、間の抜けた顔でこちらを見てくる。 「あ…っ、いや…その……。お前は…、お前の場合…、好きな奴が出来たらどう接するのかな…、と思って……。」 じーーーっと顔を見られて、顔を背けながら言う。 「ん〜〜〜、そうですねぇ……。例えば…、とにかくその人の事を知ろうとしますね。好きなもの、嫌いなもの…、何でもいいんです。あと、当たり前ですけど、本人が嫌がる事はしたくありません。犬飼君の場合は追い駆けるとか、ね。」 こちらに向かって、ニッコリと満面の笑みを湛えながら言ってくる。 何故か、そんなを見ていられない位に照れている自分がいた。 「だから、私は犬飼君の事追い駆けないでしょ?」 ニッコリと、笑顔は湛えたままでが言った言葉は、オレにとっては爆弾投下のようなものだった。 「…………っ!?ぃ…、い、今なんて……っ!?」 オレの頭が正常に動いてるのだとしたら、オレの考えが間違っていないのだとしたら……。 「ん?私は犬飼君の事追い駆けないでしょ?って……。」 頭の上に、疑問符を浮かべながら言う。 「いや、だから…、その、それは…、どういう……。」 その言葉を聞いて、は再びニッコリと笑った。 「こういう始まりもありじゃないですか?」 ただ一言、そう言った。 「…………。……そうだな……。」 ただの一言だけれど、その一言が、とてもらしく感じられて、何故だか笑みが漏れた。 「こういう始まりも、ありだな……。」 犬飼はそう言うと、真っ青に晴れ渡った空を見上げた。 〜〜〜懺☆悔〜〜〜 ハム猫・「意味分かんねぇーーーっ!!」 犬飼・「理解不能度200%だな……。」 ハム猫・「いや、何かやっぱり直打ちは駄目だなぁ〜〜〜って言うか……。」 犬飼・「とりあえず…へぼいな……。」 ハム猫・「考えたら、さんは友達が犬飼ファンだと知りながら、よっこらせと犬飼君を持って行ったんですよね……。」 犬飼・「……何だか日本語がおかしくなって来てるぞ……。」 ハム猫・「うわぁあ〜〜〜、何か修羅場想像しちゃった……。」 犬飼・「オイ、勝手に変な事考えるな……。」 ハム猫・「いや、何か突っ込みどころありすぎて、泣きたくなって来たので、しめ頼みます……。ちなみに、私の犬飼君に何してくれるの……っ!?、とお怒りの方。苦情は受け付けていません。(オイ。)」 犬飼・「とりあえず…こんなんですまん……。この管理人だから仕方のない事だが…、ここまで読んでくれて有り難う……。感謝してる……。」 |