北の都…ケストラー城ーーーーー。

いつの時も暗雲と瘴気に満ち溢れた、魔の場所。

そこで息をしているのは魔族のみ。

人間が一度足を踏み入れれば、魔族達の恰好の餌になるだけだった。



そんな場所に……。

今、一人の少女が住んでいた……。










ーーー一筋の光ーーー










ヴォーカルがあの少女を連れて帰った時には、気でも狂ったのかと思った。

狂犬の隣にいるのは静かな空気をまとった少女。

人形のような少し濁った光を称えた瞳。

整った顔立ち。

その表情からは魔族への恐怖も感じられず、ただただ、そこに立っているだけだった。

ーーー「理解不能」ーーー。

その言葉が、頭に浮かんだ。

どうせすぐに飽きて殺すだろうと思っていたし、もしその考えが外れても、ハーメル一行を内から裂くための駒にでもなるだろうと思っていた。

だから、そのまま放っておいた。


しかし、その少女は大きく変わって行った……。










「ベース様〜〜〜!」
広間に足音を響かせながら、今日も少女は入って来た。
「…………。」
名を呼ばれて、無言で振り向く。
「今日も水晶見せて下さい!」
振り返ると、そこにはニコリと微笑んだ、その少女が立っていた。
最近、この少女は水晶を覘く事を日課としている。
と、言うのもこの少女を連れ帰ったヴォーカルが日夜城を空けているからだ。
話し相手も無く、暇を持て余している内に、この広間を見つけたのだった。
ここに来る前は縛られた生活をしていたせいもあり、あまり外の世界を知らなかった。
そのせいか、この水晶に映る風景にひどく興味を示し、それ以来、暇さえあればここに来るようになった。
「あのですね、今日は街の風景を見てみたいなぁ…なんて思ってるんですけど……。」
そわそわと、少し上目遣いに言ってくる。
「…………。」
その少女の言葉に、ベースはまたくるりと背を向けて、水晶に向き直った。
だんだんと画像が揺れて、ぼやけてくる。
次に水晶が鮮明になった時には、活気ある街の風景が映し出されていた。
「ぅわぁ……っ!!」
その風景を見た途端に、少女は声を上げる。
店主の威勢の良い呼び声、店先で品定めをしている客、人々の間を走りながらくぐっていく子供達。
その全てに目を輝かせ、その全てに興味を持った。

この少女ーーーーは、この城の中で、この魔族の中で、次第に人間としての感情を取り戻して行っていた……。










「お前…何を考えている……。」
「あ?」
以前、ヴォーカルがケストラー城を発つ時に聞いた事があった。
「何の事だよ?」
窓辺から飛び立とうとしていたヴォーカルは、中途半端に声をかけられて眉間に皺を寄せた。
「あの少女…の事だ……。何故連れて帰った……。」
そんなヴォーカルに、ベースは目を閉じて言った。
「あぁ、の事か。何って言われても、気に入ったからに決まってるじゃねぇか。」
けろり、と答える。
その回答に、ピクリと瞼を動かす。
「あいつはオレんだからな。変に手ぇ出すなよ。」
それだけ言うと、ヴォーカルは颯爽と飛び立っていった。
「『気に入ったから』…か……。」
あいつには、それだけの理由で十分なのかもしれんな……。
そう心の中で思いながら、ベースは踵を返した。










「……お前は……。」
自然と口から出ていた。
「?」
が急な事にきょとんと首を傾げてくる。
「お前は…どこまで変わっていく……?」
自分でも何でこんな事を言ったか分からない。
だが、しかし少女はその言葉に一生懸命考え込んでいる。
「私…変わりましたか……?」
一通り首を捻らせた結果、出てきたのはその言葉だった。
どうやら自分ではこの変わりように気付いてないようだ。
「あぁ、変わった……。昔のお前は…そう、まるでこの城の彼処に存在する闇のよう。静かに、何を思うでもなくそこにあるだけの存在。」
そう言いながら、そっとの髪に触れる。
「しかし、お前は変わった。お前はどんどんと眩しい存在になって行く……。この場所には相応しくないほど…、私たちには眩しすぎる……。」
「ベース様……?」
髪を伝って頬に触れてきた手に、は自分の手を重ねた。
「ベース様は…悲しいんですか……?私が変わると…迷惑ですか……?」
悲しそうに眉を寄せて、切なそうに聞いてくる。
「私が…悲しい……?」
その言葉に驚き、少し眼を見開く。
「だって、悲しそうな顔をしてますよ。私、駄目ですか?ここにいちゃ駄目ですか?」
は、自分が追い出されるかもしれないと言う恐怖を顔に表していた。
感情ーーー表情ーーー。
この娘がこの場所で得た物は多かった。
今、目の前では今にも泣きそうながいる。
恐怖ーーー人々の心に必ずある感情。
しかし、この少女にとってはこの城を追い出される事こそが恐怖であり、我ら魔族はその対象ではない。
物事の善悪をすり込まれていない、純粋な心。
それ故に、我ら魔族には眩しく映る。
「……お前は…ここで良いのか……?」
その恐怖と不安の滲み出た瞳を見つめて問う。
「ここじゃなきゃ嫌です!私にはもうここしか……っ。」
その問いに必死になって答える。
「私は…ベース様やヴォーカルや、オル・ゴールさんもギータさんも…皆みんな大好きなんです……っ。やっと…、やっとここで大好きな人達が出来たのに…また、1人ぼっちになるのは…嫌です……っ!!」
自分に触れていた手を今では必死に両手で包み、抑えきれなかったのか大きな涙の粒をぼろぼろと落としながら訴える。
その姿は本当にただの少女で。
こんな魔族の巣窟の中で生きている者とは思えなかった。
「…………。」
そんな少女の訴えに、どう答えて良いものか戸惑うベース。
ただ、自分の手を必死に掴んでいる手はとても温かいもので。
しんと冷たい城の中で、唯一の温もりのような気がして。
不思議と、居心地の悪い物では無かった。
「お前は…そうやって我らを照らし続けるのか……。」
小さな、とても小さな声でぽつりと呟いて。
彼女のその両手を、頬に引き寄せた。
「ここにいるが良い。そして我らを照らし続けろ。我らが闇黒の者である事を忘れさせぬように。闇が闇の中に囚われぬように。」
そう言って、その手を解いた。
「……私…いて良いって事ですよね……?」
暫くそう言ったベースを見つめていたが、はぽつりと聞き返した。
その問いに静かに頷く。
「…………っ!!」
その瞬間、先程までの涙は何処へやら、輝かしい笑顔になった。
「ぁ、有難うございます……っ!!」
そう言って、ぺこりと大きくお辞儀をする。
「あの、私ここに来れて良かったです!今まで生きてきた中で一番幸せです……っ!!」
にっこりと、まだ涙の跡の残る顔でベースに微笑む。


(……「幸せ」か……。)

この城でそんな言葉が聞けようとはーーーーー。


この少女が我ら魔族に与える影響は大きいだろう。


しかし、それもまた面白い。



我らがこれからどうなるのか、この少女に任せてみるのも、良かろうーーーーー。



そう思うと、ベースは自然とに微笑みかけた。
















〜〜〜後書き〜〜〜

ハム猫・「え゛ぇーと…、ぶっちゃけベースって言うか黒リュート視点でお願いします。」

ベース・「…………。」

ハム猫・「うわぁんっ、黒リュート&生首両方がじっとり見つめてくるよ……っ!!(泣)」

ベース・「……何なんだ、この話は……?」

ハム猫・「いや、ただ何でベースはの事を認めたのかなーと言う事を説明しようかなと。と言うか、ヒロインさんの変化…とか……?」

ベース・「意味が分からない上に、以前のオル・ゴールの奴の話と言ってる事が似ている気がするが……。その上に疑問系だぞ。」

ハム猫・「ぅわっち!それは言わない約束だゼ☆兎に角、ヒロインさんは魔族の皆さんにとっては光に似た存在、どこか惹かれる存在なんだよ、と言う事で……。」

ベース・「……説明にならんな……。」

ハム猫・「何て言うか、今の所ヒロインさんにとって魔族さんは家族みたいなものでして。例えるならオル=お母さん、ヴォーカル=(やたらと絡んでくる(ちょっかいかけてくる))お兄さん、ギータ=お父さん、ベース=おじいちゃん…みたいな?……って事はオルとギータさんが夫婦っ!?」

ベース・「…………。(おじいちゃん……?)」

ハム猫・「ま、まぁさっきのはお気になさらず。まぁとにかく魔族皆にモテモテだ☆と言う有り得ない状態です。これで魔族逆ハーの基本が出来たぞ☆頑張ってヒロインさんをなびかせて下さい。」

ベース・「……まだ書く気か、こいつ……。」



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