いつもの日曜……。そう思っていた。
その日から、オレ達の日常がおかしくなるなんて、誰が想像できただろう……? ーーー院生生活ーーー ピッ…ガコンッ
ヒカルは、自販機のスポーツドリンクのボタンを押した。
缶を取り出してタブを開ける。 そして、口へ持っていき、飲もうとした瞬間ーーーーー……
『ヒカル!ヒカルッ!!』
佐為が後ろを指さした。 『ん?何だよ……。』 缶は未だに口に当てたままで、佐為の指さす方向を見る。 そこにはーーーーー……。 大きな瞳でヒカルを見つめる少女がいた。 しばらくそのままで時が止まった気がした。
「ーーー!!何してるの、早く来なさいっ!!」
その静けさを破ったのは、と呼ばれた子の母親らしい人の声だった。
「あ!ハーーーイッ!!」
その少女は呼ばれた瞬間、母親の声のした方…、天元の間の方へ行った。
「院生試験か……。合格したのかな……?」
『共に高みを目指す仲間ができると良いですねっ、ヒカル!』 後ろで佐為がニッコリと笑っている。 「仲間…か……。うん、そうだな……。」 ヒカルはそう言うと、ジュースを一気に飲んで、缶を捨てた。
「よぉ、進藤、遅かったな。」
大広間に戻ると和谷が話しかけてきた。 「あっ、和谷。今日って院生試験あったんだな。」 「ん?知ってる奴にでもあったか?」 「んーん。でも、変な奴ならいた。」 「は?どんな奴だよ……?」 和谷が不思議そうな顔で聞く。 「オレの事じーーーっ、と見てんの。何だったんだろうな、あいつ。」 別にオレ変な事してなかったよなぁ……。
「何の話だ?」
ヒカルが考え込んでいると、後ろから声がした。 「伊角さんっ!!」 「伊角さんも対局終わったのか?」 和谷が聞く。 「あぁ。で、何の話してたんだ……?変な奴がどうのって……。」 「あぁ、院生試験受けに来た奴で変な奴がいたって進藤が言ったから……。ところで、そいつって試験受かったのか?」 「う〜〜〜ん…、天元の間で説明聞くみたいだったから受かったんじゃないか……?」 「へ〜〜〜、じゃあ、もうすぐここ見に来るかもな!」 一通り会話をした後、和谷は少し考え込み…… 「よし!時間もあいてる事だし、一局打つか!進藤っ!!」 「良いぜ!」 言うが早いか、すでに2人は碁盤の前に座り、碁石をニギっている。 「じゃあオレは見学しときますか……。」 伊角は2人の横に座り、碁盤を見つめる。
「よーしっ、オレの先手だ!」
そう言って、和谷が一手目を打った。
「ここが大広間です。いつもはここで対局をするんですよ。」
篠田師範が達を連れて大広間に入って来た。 ほとんどの対局が終わり、帰っている院生もちらほらいた。 「…………。」 キョロキョロと周りを見回す。 「あのっあの!ちょっと見てきてもいいですかっ!?」 目を輝かせてが言う。 「あぁ、いいよ。しかし、邪魔はしないようにね。」 優しく微笑んで篠田師範が言う。 「ハイッ!!」 元気よく返事をしては部屋の隅の方へ行った。
「あ〜〜〜あ、やっぱりここがいけなかったか……。」
対局の結果は和谷の三目半勝ち。 「途中までは結構良いセン行ってたんだけどなぁ……。」 ヒカルが頭を掻きながら言う。 「やっぱりここは攻めに行くより、一旦引いて様子を見たほうが良いんじゃねぇか?」 今、和谷達は検討中である。 「…………。いや、それよりもここに……。」 「ここに打つっていうのはダメですか?」 考え込んでいた伊角が盤上のある点を指さそうとした時、後ろから腕が伸びてきて、伊角が考えていた点を指さした。
「…………っ!?」
驚いて振り返ると、そこにはヒカルと同い歳くらいの少女がいた。 「えっ…、君は……。」 見覚えが無い。 院生ではないはずだ。 「あーーーっ!!お前さっきの……っ!!」 突然ヒカルが大声を上げた。 「何?例の進藤の事じーーーっと見てたのってこのコだったのか?」 「うん。なぁ、お前さっき何でオレの事見てたんだ?」 「えっ…と、いや、別に……。」 ヒカルの問いに少女が曖昧に答えている横で、 「オレ…、てっきり男かと思ってた……。」 「オレも……。」 和谷と伊角は顔を見合わせていた。
「ところでさ、お前院生試験受かったんだろ?」
和谷が聞く。 「うん!受かったよーーー。今度から来るの!よろしくお願いしますですっ!!」 どことなくおかしい口調で少女は言った。 「オレは和谷義高。」 「オレは進藤ヒカル!」 「オレは伊角慎一郎。」 「あ!私はと申しますですっ!!」 それぞれ自己紹介をしていく。 「ま!オレ達は1組だからすぐには対局できねぇけど…、院生になったからには頑張って1組に上がって来いよっ!!」 「はい!」 和谷の言葉に元気よく返事をする。
「ーーー!帰るわよーーーっ!!」
「あっ、ハーーーイ!じゃあ、来週の日曜日からよろしくデスねっ!!」 じゃっ、と片手を上げて、母親の下へ走っていく。
「……何かさ…、個性のスゲェ奴が入ったってカンジだな……。」
大広間を出て行くの背中を見ながら、和谷がポツリとつぶやいた。 「な!変な奴って当たってただろっ!!」 ヒカルが言う。 「まぁ…、変と言うか…、変わってると言うか……。」 苦笑いをしながら伊角が言う。 「まっ、あいつの腕がどんなものなのか、…どんな碁を打つのか、楽しみだな!」 そう言って、和谷達は大広間を後にした。 ーーーーー彼女の出現で、自分達の日常が狂っていくのも知らずに……。ーーーーー 〜〜〜後書き〜〜〜 ハム猫・「とうとう始まりましたっ!院生シリーズっ!!」 和谷・「ハム猫…、セリフばっかだし、文章の意味全然分かんねぇーーーよ。」 ハム猫・「ひぃっ!!そこはツッコんじゃダメですよ!……しかし、前振りと最後は大げさすぎてます……。ハイ。先に言っときます。ただ単に、ヒカルや和谷や伊角さんをひっちゃかめっちゃかに引きずりまわしちゃおうと……。」 和谷・「ちょおぉぉーーーっと待てっ!!オレも入ってるのかっ!?」 ハム猫・「ハイ♪もちろん!もうネタは出来てやすぜ、旦那!」 和谷・「誰が旦那だよ……。」 ハム猫・「さて、次回はとうとう彼女が通い始めますね……。何だか口調がおかしい不思議ちゃんについて、少しずつ明らかになって行きます。」 和谷・「まぁ、オレもまだどうなるかは知らねぇけど、良ければ次も見てくれよな!」 |