が一組に上がってから、今までよりもと一緒にいる事が多くなった。 側にいる事も増えたし、の変な癖も色々と分かってきた。 例えば…、オレが和谷達と検討していると、肩越しに見てくる。 その時に、何故か背中にくっついて、肩に手を乗せ覗き込む。 横に座って見たら良いのに、いつもそうやっている。 一度聞いてみると、「人にくっ付いてるのって、気持ち良いじゃないですか。」と返された。 何だか落ち着くのだそうだ。 あと、とにかく自分の気持ちに素直だ。 嬉しかったら、すぐに「嬉しい」と言い、悲しかったらすぐに「悲しい」と言う。 しかし、困ったのが、そのノリですぐに「好き」を連発するのだ。 何かを奢ってやると言えば「好き」。 お菓子をやったら「好き」。 お昼に誘っただけで「好き」。 最初は正直皆戸惑った。 まぁ…、今は少しは慣れたが……。 それでも、満面の笑顔で嬉しそうに「好き」なんて言われたら、少しはドキッ、としてしまうのが男だろ? そこら辺に気付いて欲しいんだが…、まぁ、あいつには無理だろうな……。 ーーー院生生活4ーーー
その日も、何事も変わらず午前の対局は終わった。
対戦表を付けに行って、白丸を付けた後、大広間を見回した。 和谷やヒカルはまだ対局中だった。 (もう少し…時間がかかりそうかな……。) そう思い、伊角は二人が終わるまで何か飲もうと思った。 大広間を出る時に、一組の院生達を見回したが、の姿が見えない。 (もう終わったのか……?) そう思いながら、自販機に向かう。 見かけたら、今日も一緒にお昼に誘おうと思っていたのだが……。 ピッ…… ガコンッ
伊角は、自販機で適当なスポーツドリンクを買って、取り出した。
それを手に、大広間の方へゆっくりと歩く。
……と、視界の端に何かを見つけた。
壁に隠れて、誰かがうずくまっている。
(一体…誰だ……?)
そう思って、伊角は足を止め、そちらの方を凝視する。 「…………っ!?」 そして、驚いた。 そのうずくまっている人物は、紛れもなくだったのだ。 「……どうしたんだ…っ、……っ!?」 ジュースを買った事なんか忘れて、走り寄る。 「ぅ…あ…、伊角…さん……?」 ぐったりとした声で、は答えた。 伊角が今まで聞いた事の無いほど、苦しそうな声だった。 「どうしたんだ……っ!?どこか悪いのか……っ!?」 の体を支えて、聞く伊角。 「ぅう…、お腹が痛いの…です……。」 は俯いて言った。 「お腹が……っ。風邪か何かか……っ!?」 「……生○痛ですぅ……。」 は……?
「ぇ…えぇ〜〜〜っと……。」
まるで、捨て犬が拾って下さいと言っている様な目で伊角を見つめる。 ウルウルと、涙をためて助けを求める視線を送る。 当の伊角は、少し混乱していた。 自然と目線が泳ぐ。
あぁ、この娘の天然には困ったものである。
面と向かって男のオレにそんなことは言わないで欲しい。 しかも、きっぱりとなんの恥じらいも無く。
「ぁ〜〜〜、その、立てそうか……?」
とりあえず、話を変えて、の状態を確認することにした。 「…………。」 は唯無言で首をフルフルと横に振るだけだった。 「ぅ〜〜〜、どうしたものか……。何か、薬とか持って来てないか?」 この問いにも、はフルフルと首を振るだけだった。 「……ちょっと待ってろよ。とりあえず…、名瀬に聞いてくるからなっ。」 そう言うが早いか、伊角はすっくと立ち上がり、大広間へ急いだ。 こういう話は、同性に任せるに限る。 オレなんかじゃ、対処しきれない!
大広間に戻ると、すぐに和谷とヒカルと目が合った。
「おっ、伊角さん。どこ行ってたんだよ?」 「和谷!名瀬知らないか……っ!!」 聞いてくる和谷の言葉も無視して、伊角は問い詰めた。 「えっ…、オレは…知らねぇけど……。オイ、進藤。お前知ってるか?」 ヒカルに話をふる。 「オレ……?ん〜〜〜、確かさっき大広間出てたと思ったんだけど……。」 少し自信なさ気に答えるヒカル。 「くそ!こんな時に限って……っ!!」 急いでいる伊角は、その答えに焦った。 「どうしたんだ?伊角さん。何かあったのか?」 和谷が伊角の様子がおかしい事に気付き、聞いて来る。 「が…、腹痛なんだ……っ。」 伊角は少し早口で言う。 「えっ…、どうしたんだ?何か変なモンでも食ったのかっ!?」 ヒカルが驚いて聞く。 「お前じゃないっつーの。」 和谷はそんなヒカルの言葉にツッコミを入れるも、伊角はヒカルの問い掛けに答えられないでいた。 俯き、口をつぐんでいる。 「どうしたんだよ、伊角さん……?」 和谷が覗き込んでくる。 「ぁ…、は…、その…っ、生○痛らしい……。」 最後の単語を言う頃には、顔は真っ直ぐ足元を見ていた。 「「「…………。」」」
「……だから名瀬に頼もうと思ったのに……。」
静かに、伊角が呟いた。 「……どうすりゃいいんだ……?」 和谷も、戸惑っている。 「はどんななんだ?そんなに痛いのか?」 ヒカルが言う。 「とにかく、の所に行こうぜ……っ!!」 いつまでも行動を起こさない訳には行かない。 とりあえず3人は、の許に行く事にした。
「っ、腹の具合はどんなだっ!?」
がうずくまっている場所まで言って、和谷は聞いた。 「ぅうぅ〜〜〜、…痛ぃ……。」 は、小さな声で呟いた。 心なしか、顔色も優れないようだ。 「どうしよう、伊角さん……。」 ヒカルが助けを求めるように言う。 「オレにふるなよ。……とにかく、この場合は薬を買って来るのが一番良いんじゃないかな……。」 「そ、そうだよなっ。この場合はそれが一番良いよなっ!!」 和谷はそう言ってすっくと立ち上がった。 「そうだな、うんっ。、ちょっと待ってろよ!今すぐ薬買って来てやるからな……っ!!」 そう言って、ヒカルも立ち上がる。 伊角、和谷、ヒカルは急いで近くの薬局に向かった。 ウィーーーン……。
静かに自動ドアが開いた。
お昼時のこの時間、店内にお客の姿はあまりなかった。 3人は、真剣な顔で薬を置いている棚を見て回る。 「どこに置いてるんだよ〜〜〜っ!?薬局なんかほとんど来ないから分かんねぇよ……っ!!」 和谷が言う。 「かと言って、お店の人に聞くわけにはいかないだろう。」 冷や汗を垂らしながら伊角が言う。 「って言うか、どんな薬を飲めば良いのかさえ分かんないんだけど……。」 ヒカルが小声で言う。 「きっと、バ○ァリンとかで良いと思うんだけど……。あ、あったっ。」 そう言って伊角は棚に手をかけた。 「…………。」 しかし、その時伊角の手は棚の薬を取る形で止まった。 「どうした、伊角さん?」 和谷が聞く。 「……普通の痛み止めと、生○痛用がある……。」 …………………………。
「……どっちを買うべきか……。」
薬の棚の前で真剣に唸る男が3人……。 この時点ですでにかなり怪しい。 「やっぱり…、生○痛用の方が、良く効くのかな……。」 和谷が唸りながら言った。 「そうかもしれないけど…、どうするんだ、これ……?」 伊角が手を伸ばした隣に置かれている、その薬ーーーーー……。 問題は、誰がそれをレジに持って行って買うか、だ。
「薬を買った方が良いって言ったのは伊角さんだろ……っ!!」
小声で和谷が言う。 「そんな事言っても……!それは関係無いだろ……っ!!」 そんな和谷の言葉に伊角は抗議する。 「って言うか、こんな事してる場合じゃねぇだろ!が腹痛で苦しんでるんだから……っ!!」 口論を続ける2人にヒカルが言うと、 「「じゃあ、お前が買え……っ!!」」 「ヤダよ……っ!!」 2人同時に振り返られ、ヒカルは数歩後退した。 その後も、数分間小声での戦いは続いた。 が、とうとう3人は決心した。 3人で役割を分担しよう、とーーーーー……。
つまりは、まずは薬をレジに持っていく役が伊角さん。
次に、お金を払うのが(割り勘ですが。)和谷。 最後に、レジの店員から薬を受け取るのがヒカル。 と、言うように、分担戦法(?)で行く事で話は決着した。
「じゃ…、じゃあ行くぞ……。」
ゴクリ、とつばを飲み込み、伊角はレジへと向かう。 その後ろを2人が付いて行った。
「ぁ…あの……っ。」
何処と無く上ずった声でレジの店員に声を掛ける。 「あ、はい……っ。」 店員は振り返った瞬間、固まった。 只ならぬオーラを発している少年が3人……。 その形相は凄まじかった。 意志の強そうな、と言えば聞こえは良いが、要するに睨む形で店員を見る。 伊角がレジに薬を置くと、すかさず後ろの和谷と場所を交代する。 反対に、レジの店員の方が緊張し、手が震えて上手くレジを打てなかった。 和谷がお金を払い終え、最後にヒカルが袋に入れられた薬を受け取る。 その時点ですでに店員の限界は近づいていた。 「「「有り難うございました……。」」」 渡し終えた瞬間、何故か店員の台詞であるはずの言葉を3人の少年が言った。 恐怖から声が出ない店員は、とにかく首を縦に振る事しか出来なかった。 少年達はそう言い終わると、ダッシュで店を出て行った。
一体何だったんだ……。
店員は、今までこの店で働いていて、最も怖い恐怖を体験した……。
「「「……っ!!」」」
3人は日本棋院に帰って来て、がいた場所に走って来た。 「ぅあ…、伊角さん、和谷君、ヒカル君……。」 はまだそこでうずくまっていた。 「おい、!薬買ってきたぜ……っ!!」 和谷が、に薬の入っている袋を渡した。 「ちょっと待っとけ、今自販機で水買って来るからな!」 伊角はそう言って、自販機に向かった。 「大丈夫か、……?薬、効くと思うんだけど……。」 ヒカルは、心配そうにの顔を覗き込む。 「ん、大丈夫……。飲んだらきっと治まるから……。」 は、少し苦しそうにニコリ、と微笑んだ。 そう言っているうちに、ペットボトル入りの水を持った伊角が帰って来た。 「ほら、。水、買ってきたから。」 「ありがとうございます……。」 は、ペットボトルを両手で受け取り、薬の箱から錠剤を取り出した。 コクン……。
「……はふぅ……。」
薬を飲むと、は一息ついた。 「大丈夫か?午後の対局出来そうか……?」 少し落ち着いたに、ヒカルが聞く。 「ん、大丈夫。対局だけは何があってもやって帰る。」 少しは楽になったのか、話す声も少しははっきりとしてきた。 お腹を曲げながらも、ゆっくりと立ち上がる。 「ごめんね、皆……。お薬代とかはちゃんと後で払うから。」 そう言って、はゆっくりと微笑んだ。
「何か、オレ今日すっごい体験した気がするんだけど……。」
「オレもそう思う……。」 「でも、これだけで終わらなさそうに思えちゃうトコが怖いんだけど……。」 和谷、伊角、ヒカルは午後の対局頑張るぞ、と気合を入れているを見ながら、遠い目をして言った。
その後、薬が効いての腹痛は治まり、午後の対局は絶好調で勝った。
ちなみに、ヒカル、和谷、伊角の3人はあの後お昼ごはんを食べる暇が無かったため、対局中、空腹を我慢しなければならなかったと言う……。 〜〜〜後書き〜〜〜 ハム猫・「えぇっと、一応まだ続いてたんだ、みたいな感じの院生シリーズです。第4話をお送りしました。」 伊角・「何か、絶対このシリーズ忘れられてたよな……。」 ハム猫・「作者も忘れてました。って言う冗談は置いといて、伊角編でした。何か、こういうネタって使っちゃって良いんだろうか、とも思ったんですが、前々から思いついてたんで……。」 伊角・「ハム猫の変な思いつきのせいで、オレ達大変な目にあったんだからな!」 ハム猫・「大変と言うなら…、薬屋の店員の方が大変だったかもね……。(遠い目。)」 伊角・「仕様が無いだろ……っ!!あれでもオレ達必死だったんだから……っ。」 ハム猫・「薬屋なんてほとんど行かないので薬の種類なんて知らないんですが、間違ってても目を瞑ってやって下さい〜〜〜。」 伊角・「名瀬さえいてくれればあんな事しなくて済んだのに……。」 ハム猫・「まぁま、そう落ち込むな。さて、次回で一応考えてたネタ尽きるわけですが、他キャラとかも出して欲しいとかの希望があればもう少し続くかも。全てはあなたの一票に!」 伊角・「何なんだよ、それ……。」 ハム猫・「では、次回はヒカルの番ですねーーー。さてはて、一体どうなる事やら。」 伊角・「じゃあ、良ければまた見てやってくれな。」 |