日曜日ーーーーー。 今日も、一人また一人と院生が日本棋院にやって来るーーーーー。 風邪
「…………。」
伊角慎一郎は、大広間で辺りを見渡していた。 「今日は遅いな……。」 ポツリ、とそんな言葉をもらす。 「気になる?」 隣にいた和谷が聞いてくる。 「当ったり前だよ!」 また、ヒカルもニヤリと笑いながら言ってくる。 「だって……。」 「「は伊角さんの彼女だもんナっ!!」」
和谷とヒカルが声を合わせて言った。
「和谷…、進藤…、そんな大声で言うな……。」 少し頬を染めて伊角が言う。 「良いじゃねぇか、ホントの事なんだし。」 「そおそお♪」 2人共とても楽しそうである。 伊角とがつき合い始めてからというもの、この2人は事あるごとに伊角をひやかす。
「……それにしても、本当に変だぞ。今まで休んだ事なんて無かったのに……。」
時計を見ると、もう、開始時間の5分前だ。 いつもなら、15分前には大広間に来ているはずである。 「さぁ、家の用事か風邪とかじゃねぇ……?」 「うん……。」 そうかもしれないが…、やっぱり少し不安だった。 なら、休む時にオレに電話くらいしそうだけど……。
そんな事を考えていると……。
「時間です。各自、対局する位置に座って下さい。」 篠田師範が入ってきた。 「ま、気にすんなよ。対局に集中できないぜ!」 そう言って、和谷は対局場所へ行った。
「…………。」
そうだ、気を抜いていたら負けてしまう。 今は対局に集中しなきゃ……。
「有り難うございました。」
対局中はやはりいつもどうり集中できたせいか、の事はすっかり忘れていた。 今日も調子は良かった。
「伊角さん。帰りどっか寄っていく?」
和谷が帰る仕度をしてやって来た。 「んーーー。お前はどこか用があるのか?」 「ちょっと買いたい物があるんだ♪」 「じゃあ、付き合うよ。」 そんな会話をしていると、 「何話してんの?」 ヒカルがやって来た。 「和谷が帰りに買い物してくって。」 「あっ、じゃあオレも付いてくっ!!」 いつも通り、何気ない会話をしながら日本棋院を出た所でーーーーー……。 ピリリリリーーーーー
携帯が鳴った。
「…………?」 誰だろう、と思いながら出る。 「ハイ、伊角です。」 「…………。」 しかし、相手は無言だった。 「もしもし……?」 いたずら電話だろうか、と思いながらももう一度声をかけてみる。 「……伊角…さん……。助けて……。」 それは、紛れもなくの声だった。 苦しそうな声ーーーーー。 それを聞いた瞬間、オレは走り出していた。 「い…伊角さん……っ!?」 和谷達は急な事に驚いている。 「ごめんっ!!また、今度埋め合わせするから……っ!!」
走って走って走った。
全速力で走って、駅に行った。 切符を買って、丁度よく来た電車に乗る。 の家は一度だけ行った事があった。 その時は中には入らなかったが、場所は覚えている。
早く行かなければーーーーー。
何があったのかは知らなかったが、兎に角、急いでいた。 ピンポーーーンッ……。
走ってきたので息が上がっていたが、の家にやっと辿り着き、チャイムを鳴らす。
「…………?」 しかし、何度鳴らしても、応答は無かった。
「…っ、……っ!!」
失礼かな、と思ったがドアを叩いてみる。 しかし、それにも応答は無い。 「…………。」 ソッ…、とドアノブに手をかけると、カチャリ、とドアが開いた。 少し気は引けたが、この際気にしていたらダメだと思い、ドアを開けた。 ドアを開けて、そこにいたのはーーーーー……。
パジャマ姿で、手に携帯を握りしめたままグッタリと座り込んでいるだった。
顔はかなり赤く、息も荒かった。 一目見て、高熱があるのが分かった。
「!っ!!大丈夫か……っ!!」
中に入り、に呼びかける。 「あ……。伊角さん、来てくれたんだ……。」 苦しそうに顔を上げ、言う。 「どうしたんだ……?ご両親は……?」 肩をしっかりと支えてやりながら聞く。 「お父さんは…、出張で……。お母さんは…、町内会の人達と旅行に……。」 一言一言ゆっくりと口にする。 少し話すのでも辛そうだった。 「…………。で、今、熱は何度ある……?」 「……39度くらい……?」 朦朧とした表情で言ってくる。 「39度って……っ!?何でこんなトコにいるんだよっ!?」 「だって…、もし伊角さん来た時にここにいなかったら、きっと上がってこないかな…、と思って……。」 「…………っ。」 確かに、そうかもしれないんだが…、今はそんな事を話している場合ではない。 「……ちょっと我慢してろよ……。」 「…………?」 そう一言言って、しんどそうなを抱き上げた。 俗に言う、「お姫様抱っこ」というやつで……。 「ちょっ…、ちょっとっ!?伊角さん……っ!?」 腕の中で混乱して暴れる。 「あんまり暴れるな。熱が上がるぞ。……それより、部屋どこだっけ……?」 「……2階…だけど……。」 おとなしくなったが小さな声でポツリと言った。
「ここでいいのか?」
ひとつのドアを前にして、に尋ねる。 「うん……。ここ……。」 ガチャリ…、とドアを開ける。
中は、さっぱりと片づいているが、女の子らしい可愛い部屋だった。
「の部屋に入るのは、初めてだったな。」 「〜〜〜っ、そんなにジロジロ見ないでよ!……恥ずかしいじゃない……っ!!」 「ハハ…、ゴメンゴメン。」 そう言ってゆっくりとをベッドに座らす。 「何か食べたいものとかあるか?」 「……リンゴが…食べたい……。」 少し俯き加減にが言う。 「よし、分かった。家にあるか?それとも、買ってこようか?」 「あっ、…冷蔵庫に…入ってると思う……。1階の奥のキッチンの所……。」 「分かった。」 そう言って、の部屋を出て行った。 階段を下りて、奥に進んでいく。 台所に行って、冷蔵庫を開ける。 「…………。あった……。」 目的の物ーーりんごをひとつ手に取って、冷蔵庫を閉めた。
台所に立って、立ててあった包丁を借りた。
しゅるしゅるとりんごの皮をむいていく。 皮をむいた後、6等分にして、皿に盛る。 フォークをそえて、そして、の部屋に持って行った。
「、むけたぞ。」
ドアをガチャリと開けると、はベッドに横になっていた。 「あっ、…伊角さん……。」 そう言いながら、起き上がる。 「大丈夫か?無理に起き上がらなくてもいいぞ。」 りんごを盛ったお皿を片手にのベッドの方に歩み寄る。 「あぅ…、大丈夫だって……。それより、有り難う、わざわざむいてきてくれて……。」 りんごの乗っているお皿をに渡す。 「…………。」 お皿を渡すと、はまじまじとりんごを眺め始めた。 「……どうしたんだ……?何か付いてたか……?」 そんなの様子を不思議に思い、伊角が声をかける。 「伊角さんって…器用なんだね〜〜〜!りんごの皮むくの、私のお母さんより上手いんじゃない……っ!?」 フォークにさしたりんごを目の前で見つめながらは言った。 「りんごの皮くらいオレだってむけるよ……。」 そんなに苦笑いをしながらオレは答えた。 「アハハ…冗談冗談。…でも、本当に来てくれて有り難う……。ホント言うと、お母さんもお父さんもいなくてちょっと寂しかったの……。」 そう言って、リンゴを一口かじった。 「うん。甘くておいしいよ……。伊角さんも食べる?」 そう言って、はお皿をさし出してきた。 「あ、オレはいいよ。オレよりが食べなよ。」 その言葉に”そう?”と一度首を傾げてから、はまた食べ始めた。
オレが切ったリンゴはあっという間に無くなって、オレは空になったお皿をから受け取って、1階に下りた。
台所に行ってお皿を洗う。 「そういえばオレって、の電話聞いて、走って来たんだよな……。」 和谷や進藤の驚いた顔を思い出して、つい吹き出してしまった。 でも、が無事で良かった。 あの電話を聞いた時は、何が起こったのかと思ったから。 それだけ自分がを好きなんだな、という事のようで、少し、恥ずかしかった。
お皿も洗い終え、の様子を見に、また2階に上がる。
「、入るぞ。」 軽くそう言ってから、ドアノブを回した。 そっ、と中に入るとーーーーー。
は、ベッドの中で、静かに寝息をたてていた。
風邪薬が効いているのだろうか。
ベッドの近くに歩み寄ってみたが、が目を覚ます気配は無かった。
「…………。良く寝てるな……。」 風邪には寝るのが一番だし、起こすのも忍びなかったので、伊角は寝ているの額に軽く口付けて、の部屋を出ていった。 「早く良くなれよ……。」
はまだ寝ていたが、その伊角の優しい囁きは夢の中にきっと届いていただろうーーーーー……。
〜〜〜後書き〜〜〜 ハム猫・「ハイ、初伊角夢でございます。下書き無しの一発書きだったので、文章めちゃくちゃ☆」 伊角・「オレ、こんな喋り方しないよ……。」 ハム猫・「だって、まだ慣れてないんだもん……。しかし…、絶対にやるまいと思っていたネタを一番しなさそうなこの人でやるとは……。禁断の”接吻”ネタを……。」 伊角・「接吻って言うな!恥ずかしいだろっ!!しかも、おでこじゃないかっ!!」 ハム猫・「いやはや、もう、やっちまいましたよ……。すみません。でも、おでこくらいしかできません。あと、ほっぺたとか……。」 伊角・「誰も望んでないから良いんじゃないか……。」 ハム猫・「でも、39度近く熱があるのに、後半さん元気でしたねぇ……。まぁ、それは伊角パワーという事で。」 伊角・「何だよ、その伊角パワーって……。」 ハム猫・「あっ、あと、伊角さんって出ていく時って鍵かけてないんですよね。不用心ですね……。」 伊角・「オレが鍵持ってる訳ないだろ……。」 ハム猫・「では、こんな駄文ですが、感想貰えると嬉しいです♪」 伊角・「良かったらまた来てね。」 |