その人の事を見ると、心臓がすっごいドキドキするっちゃ……。

その人が近くにおると、周りが全然見えなくなるたい……。


これが…、”恋”っちゅうもんなん……?










君と花と僕と










「…………。」
猪里猛臣は終礼が終わった教室で机に肘をついてボーーーッ、としていた。
「おーーーい、猪里!おい!おいったRaっ!!」
虎鉄が目の前で手を振って大声を出す。
「…………っ!?な、なんっ!?どないしたんっ、虎鉄っ!?」
「どーした、じゃねぇだRo?それはこっちのセリフだYo。最近ずぅっとボーーーッ、として……。何かあったのKa……?」
虎鉄が心配そうに聞いてくる。
そんなに自分はボーーーッ、としていたのだろうか……。

「虎鉄……。虎鉄はいつも、こんな気持ちなん?」
「ハ……?」
唐突に聞かれて、意味が分からない顔をする虎鉄。





「猪里……。それは、どこをどう考えても…”恋”だRo……。」
「やっぱり…、そうなん……?」
「で!相手は誰なんだYoっ!!あの女に興味の無かった猪里がホレる女ってのはっ!!」
最近ずっと心を占めていた気持ちを虎鉄に話すと、”恋”だと断言された。
「それが…、名前もクラスも知らんたい……。」
「Ha?お前なぁ……。どんなコなんDa?」
今の時刻は3時50分……。
「この時間なら…、きっとあそこにいるたい……。」
そう言って、猪里は机を立った。





やって来たのはグラウンドの隅っこ。
小さな花壇がある場所だ。


「ホラ、あの人ったい……。」
近くに植えられている木に隠れて、虎鉄に教える。
「ホーーー…、あのコKa……。」
猪里が言った方向には、長い黒髪が美しい、優しい表情の少女が花の世話をしていた。

「カワイイじゃねぇーKa!」
一目見て虎鉄が言う。
「な……!あの子はダメっちゃよ……っ!!」
「ハイハイ。分かってるっTe。じゃ、頑張れYo!」
そう言って虎鉄は背中に手を押し当てた。
「なっ…、なん……っ!?」
「クラブの事はオレが何とかしとくかRa!」
「え……っ!?」





ドンッ!!





次の瞬間には、猪里は虎鉄に突き出されていた。

「…………っ!!」
そして…、見事にその少女に見つかった……。

「え……!あ…っ、う……っ!!」
少女に不思議そうな目で見つめられて、何も言えない猪里。
「あ…、あなたは……?」
とまどいながら聞いてくる。
「あ…、俺は…、猪里、猛臣……。2年たい……。あ、あの…っ、花が好きなんっちゃね……っ!!」
(あ〜〜〜、いきなり何言っとうねぇ〜〜〜っ。)
自分でも馬鹿だと思ってしまう。



「……うん。大好きなの…、花……。かわいいし、見てて励まされたり、元気になれるから!」
しかし、返ってきた反応は想像していたのとはかなり違い、不意打ちの笑顔につい赤面してしまう。

「猪里さんは…、花、好きですか……?」
自分の事を呼んでもらえた嬉しさに少しひたりながら、
「ぁ…、俺も好きっちゃよ。花…っていうか、植物が……。畑仕事とか好きっちゃから……。」
少しテレながら言う。
「太陽の光をいっぱい浴びて大きくなって行くのって、見てて嬉しいですものね……!」
「そうそう!分かるっちゃっ!!……えっと……。」
「…………?」
途中で言葉につまり、何か言いたげな猪里を不思議そうに見つめる。
「あっ!!すみません!私、っていいますっ!!えっと…、2年です……!ごめんなさい…、猪里さんに名前聞いといて失礼でしたね……。」
「ぃ…っ、いいっちゃよ!そんな……っ!!気にせんでよかよっ!!」
すまなそうに言うに手を振って答える。
さん…かぁ……。いい名前たい。)
心の中でそう思っている時ーーーーー



カキーーーーーンッ



バットがボールを打つ心地よい音が聞こえた。

「あ!クラブの事忘れとったいっ!!早よ行かなキャプテンに怒られるっちゃ!」
クラブの事をすっかり忘れていた事を思い出した。
「クラブ…って、何部ですか……?」
「あ…、野球部っちゃ……。あ…、あのっ、またここに来て…その、色々話とかしたか……っ!!よかとね……?」
勢いで言ってしまったが…、やっぱり迷惑だったろうか……?
「はい!もちろんいいですよっ!!私もそう思ってました!クラブ頑張って下さいね……っ!!」
少し頬を染めながら、満面の笑顔でが答える。
「ハハ……。じゃ、じゃあ、俺もう行くけん……!また……っ!!」
断わられなかった事がうれしくて、つい顔がゆるんでしまうのを我慢しながら、手を振って走って行った。

(虎鉄には感謝せんといけんね。とにかく、これが第一歩たい!)
そう思いながらクラブに向かった。










ーーー次の日ーーー
朝練を終え、部室でユニフォームを着替えている時、気付くと虎鉄の姿が無かった。
(…………?いつもなら一緒にクラスに行くはずやのに……?)



着替えも終えて、教室に行くと、自分の席に虎鉄が座っていた。

「どないしたん?虎鉄……。」
「HAHAH〜〜N☆恋する猪里君にいい情報だZe!……、2年E組、委員会は…図書だな。趣味は植物を育てること。性格がおとなしめだから、クラスにもあまりなじめてねぇみたいだNa。昼休みと放課後には必ず花壇を見に行く……。得意科目は国語、体育は苦手みてぇDa……。中学時代は園芸部に入ってたらしい……。あー、あと彼女は一人っ子だZe。」
目の前で、彼女の情報をベラベラとしゃべる虎鉄を見て、白くなっていく猪里。

「どーしTa?猪里……。」
「…………っ!!虎鉄っ!!一体どこでそんな情報集めてきたとよ……っ!?」
虎鉄に迫りながら言う。
「これぐらいオレにかかればチョロイもんだZe☆何なら住所も聞くKa?」
いつも通り、軽い口調で言ってくる虎鉄。
「いらんっ!!」
自分の目の前に立っている虎鉄を腕で押しのけ、自分の席に着く。
「何怒ってんだYo……?」
なぜか嫌だった。
人から、しかも調べてきた彼女の事を聞くのは嫌だった。
彼女自身に、少しずつ聞いていきたかった。
少しずつ、彼女について知りたかった。

虎鉄が自分のために調べてきてくれたのは分かっている……。
しかし、気持ちが爆発して、虎鉄の事まで考えられなくなっていた。

「何なんだYo…ったく……。人がせっかく調べてきてやったってのNi……っ。」
俺が無視をしていると、虎鉄の方も腹を立てて、離れていった。
爆発した感情の中の、ほんの少しの冷静な部分が、「取り返しのつかない事をした」と告げていた。





昼休み、やはり虎鉄はまだ腹を立てているらしく、いつもなら一緒にお昼を食べようと言ってくるのだが、今日は避けている。

「…………。」
仕方なく席を立ち、一人屋上でお弁当を食べることにした。



青空の下、一人お昼を食べ終え、何気なく校庭を見下ろしていると、花壇に向かうを見つけた。

「…………。俺も行ってみるったいね……。」





校舎を出て花壇に向かう。
今日も一生懸命に花の手入れをするの姿がある。
「あ…、あの、さん……?」
少し遠くから声をかける。
すると、彼女はすぐに振り向いて
「あ!猪里さんっ!!」
そう言ってニッコリと微笑んだ。



「いつも花の世話大変っちゃね……。」
の隣に座り、が花の世話をしているのを見て言った。
「大変なんて思いませんよ。好きでやってるんですもん。猪里さんだって、野球の練習やってて楽しいでしょう?それと同じですよ。」
ニコニコと、とても楽しそうに微笑みながら、枯れた花や葉をつみ取って行く。
「…………。」
それを横でジーーーッと見ていて、ある事に気付いた。
さん……。手、少しあれとらん?」
彼女の手を指さして言う。
「あっ…、コレですか?気付かないうちに何かの草の液でまけちゃったみたいなんですよ……。」
苦笑いしながら言う。
「手袋とかせんと?」
「そうも思ったんですけど…、やっぱり直接土とか触る感触が好きなんで…、少しぐらいあれてもいいかなーーー、とか思っちゃうんですよね……。」
ハハ…、と笑いながら、”ダメですよね、私”と付け足す。
本当に彼女とは気が合うと思った。
会話をする度に、驚かされる。
まるで自分の心を見透かされているみたいに、同じ事を思い、感じている。
そんな彼女を知る度に、もっともっと好きになって行った。





それから数日間、昼休みや放課後、クラブに行く前に、花壇を覗きに行くのが日課となった。
彼女に話しかけるのも緊張しなくなった。
虎鉄とは、まだ仲直りしていなかったけれど、彼女といる時だけは、その事も忘れられた。





そんな、昼休みには花壇で2人話をするのが当然となっていたある日ーーーーー。



さん、もう来とるかね……?」
猪里は小走りに急ぎながら、花壇へ向かっていた。
校舎を出て、真っ直ぐに花壇に向かう。
遠くに、と花壇が見えてきた、その時ーーーーー……。


サッカーボールが、すごい速さで花壇に入り込んでいった。
「…………っ!?」
走っていた猪里もつい足を止めてしまった。
遠くに見えるは一瞬驚いていたけれど、すぐさまボールの飛んで来た方向ーーー、後ろを振り返った。
猪里もそちらに視線をやる。
そこには、いかにも軽そうな男が3人程、ボールを取りに行こうとしていた。

「いやぁ〜〜〜、ゴメンゴメン。怪我無かった?コイツがボール変な方向に蹴っちゃって。」
一番前にいた男がしまりの無い顔で、適当に謝ってくる。
「…………っ!!」
は目に涙を溜めてその男達をにらんでいる。
「やだなぁ…、そんなにニラまないでよ。君に怪我は無かったんだし良いじゃない。そんな顔してたら、せっかくの可愛い顔が台無しだよ?」
ヘラヘラと笑いながら、男達は花壇に近づく。
花壇は、サッカーボールが入り込んで来たせいで、見るも無残な姿になっていた。
男の1人が、その花壇の中のボールを取りに行こうと、足を踏み入れようとした瞬間ーーーーー………。


「花を踏まないで……っ!!」
今まで黙っていたが叫んだ。

「な……っ!?何だよ、こいつっ!?」
急な声に驚いた男達はに詰め寄る。
「花が何だって……っ!?」
男達は急にキレて、を押さえた。
その間に、先程の男が花壇に入り込み、ボールを取りに行く。


「やめてぇっ!!花壇を…、花をめちゃくちゃにしないでぇ……っ!!」





俺は君がどれだけ花を大切にしとるか分かっとう……。
ずっと見てきたし、ずっと君の事思っとったから……。
花は君の心なんやね…、きっと……。
優しく接したら、とっても奇麗な花咲かすけど、ちょっとの事で傷つき、しおれてしまう。


君は俺の、大切な大切な”花”っちゃ……。
これからも、またあのまぶしい笑顔、見せてくれんね……?





さんを放すっちゃっ!!」
気が付いたら走り出していた。
あの男達が許せんで…、花壇を…、さんを傷つけた男達が許せんで、気が付いたら走り出しとった。

「なっ…、何だよ!こいつっ!?」
男達がどよめく。
「おい!確かこいつって野球部の猪里だろっ!?」
男達の内の1人が言う。
「花に謝るっちゃ……っ!!」
「「「はぁっ!?」」」
男達が同時に同じ反応をする。
どうやら馬鹿にしているようだ。
「『花に謝れ』言うとるたいっ!!」
そんな男達をギロリとにらむ。
「「「う゛……っ!!」」」
一瞬にして男達の顔が青くなる。
「な…何だよ、こいつ……。何かこえぇーよ……。」
「に…逃げた方が良くないか……?」
「…………。」
無言でにらみ続ける猪里。


ザッ……


一歩、男達の方に近づく。
「に…、逃げるぞっ!!」
「「おう……っ!!」」
とうとう男達は猪里に恐れをなしたか、走って逃げて行った。



男達が走り去ってから、猪里はの下へ歩み寄った。
「すまんたい……。謝らせる事…、出来んかった……。」
は花壇を荒らされた事で泣いていたが、猪里の顔を見て、少しホッとしたようだった。
「来てくれて…、ありがとう……。」
「そんなこと……っ!!……俺がもっと早う来とったら…、こげん事にならんかったかもしれんのに……。ごめんな……。」
すまなそうに猪里が謝る。
「ぃ…猪里君が謝ることないよ!あの人達が悪いんだもん……。ねぇ…、花壇直すの手伝ってくれるかな……?お花もかわいそうだし……。」
涙をぬぐいながらが言う。
「もちろんたい!踏まれてしまった花はかわいそうやけど…、また新しい花植えて、花壇きれいにするっちゃねっ!!」
そう言って、2人は花壇の前に座った。





少しずつだけれど、2人の恋の花は、つぼみをつけて来ている。
そのつぼみがきれいな花を咲かすのも…、きっと、そう…遠くない日の事……。










後日ーーーーー。


「よぉ、猪里……。ちゃんとはうまく行ってるみたいじゃねぇかYo……。」
虎鉄が渋々と声をかけて来た。
「虎鉄……。俺の事、許してくれたとっ!?」
仲直りしたいとは思っていたが、なかなか声をかけられなかったので、久しぶりの虎鉄の言葉がうれしかった。
「許すも何も…、オレが悪かったんだSi……。あん時、オレお前の気持ち全然考えて無かった……。すまねぇ……。オレの事許してくれるKa……?」
「もちろんっちゃっ!!……ところで、さっきの事何で知っとると……?」
「ん?猪里とちゃんの事か?それなら、ずっとクラスの窓から覗いてたZe?」
それを聞いた瞬間、白くなる猪里。
「この前はカッコヨかったZe!猪里君っ!!」
猪里の肩にポンッと手を置きながら、横を通り過ぎる虎鉄。
「〜〜〜〜っ!!虎鉄ーーーっ!!」
猪里は、顔を赤くして虎鉄の後を追いかけた。














〜〜〜後書き〜〜〜

ハム猫・「意味が分からなく、ときめきのカケラもなく、世界全然違うだろってカンジの、無駄に長い猪里ドリームです。」

猪里・「俺につっこまれんように、最初に全部並べたっちゃね……。」

ハム猫・「だって…、スランプだったんだもん……。」

猪里・「でも、まだあるっちゃよ……?まず、俺のなまり変っちゃね。あと、キャラ変わっとるって虎鉄も言っとった。」

ハム猫・「ぐっはあぁぁ……っ!!それは言わないで!なまりは分かんないよっ!!自分の地元のなまりでさえよく分かんないのに……っ!!(泣)」

猪里・「分からんの……?」

ハム猫・「分かりません。しかも、自分、漫画とかの影響で、京都弁とか熊本弁とか色々混じってます。ハイ。」

猪里・「そんなんでこれからやって行けるっちゃか?」

ハム猫・「……猪里先輩にえせ博多弁を喋ってもらうしかありませんね……。」

猪里・「…………っ!?」

ハム猫・「そういう訳なんで、これからも、色々と、どう考えても無理があるだろうってカンジのなまりを繰り広げて行きますが、どうか大目に見てやって下さい……。」

猪里・「はぁ…、ホント頼り無か管理人たい……。えっと…、じゃあ、こげんつまらん文章最後まで読んでくれて、ほんと、俺感謝の気持ちでいっぱいたいっ!!……もし良かったら…、また来てくれん……?そん時は、また会えたらいいっちゃね!」



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