「今日も一人でお留守番〜〜〜♪早くヴォーカル帰ってこないかな〜〜〜♪」
今ではもう口ずさみ慣れた「お留守番ソング」を歌いながら、は廊下を歩いていた。
「いっつも部屋で待ってるのは暇だもんねーーー。」
ヴォーカルから部屋の外をうろつくな、という禁止令が出ているのだが、当の本人は自分が方向音痴だとは未だ気付いていないようだ。
「ちょっとくらいならバレないよね……?」
そう言いながら、長い廊下を当ても無く歩く。
そんな事をしているからいつも迷うのだ、と気付かないのは何故だろう……。
「さって、今日はどんな部屋に辿り着けるかな〜〜〜♪」
楽しそうにそう言って、はどんどん進んで行った。










ーーー迷子ーーー










「へぇ〜〜〜、魔法って言っても、いっぱいあるんだーーー。」
は今、書庫にいる。
当ても無く歩いている時に目に入った大きな扉を開くと、ちょうど書庫だったのだ。
そこには、埃が積もった沢山の書物があった。
は小さい頃に両親に売られたので、読み書きは余り出来なかったが、少しづつでも分かる単語を追って行った。
それに、字が読めなくても本の挿絵を見るだけで楽しめた。
かなり古い本が多く、神話を集めた本や、魔法の本、歴史の本などジャンルは様々だった。
「私も魔法が使えたらなぁーーー。」
そう言いながらページを捲っていく。
魔法を発動させた時に浮かび上がる魔方陣が、美しく描かれていた。
「あっ、これなんか綺麗だな〜〜〜♪」
は、魔法書を見ることに夢中になっていて、時間の経過をすっかり忘れていた。
只でさえ窓の外はいつも曇り空。
それでは夜になって外が暗くなって来ていても気付かないのに無理も無かった。
「あーーー、楽しかった♪」
今まで見ていた本をパタン、と閉じて、は伸びをした。
「……そう言えば…、どの位経ったのかな……?ヴォーカル、そろそろ帰ってくる、かな……?」
本を本棚に戻しながら、ふと考える。
「また怒られたら嫌だし……。(何されるか怖いし……。)そろそろ部屋に帰っといた方が良いよね。」
そう思ったは、書庫の扉の方に歩いて行った。
「よいしょっと!」
少し重たい扉を開けて、一歩廊下に出た途端ーーーーー……。
「あれ?帰り道、どっちだっけ……?」
きょろきょろと、首を左右にめぐらす。
どちらを見ても、同じ様な廊下が延々と続いているだけだった。
「……ぇ〜〜〜…っと……。」
額に人差し指を当て、考える。
しかし、書庫で本に夢中になっている間に、歩いて来た時の記憶などどこかへ飛んで行ってしまっていた。
「……どうしよ……。」
少し青ざめた顔では言った。










ー、帰ったぞーーー…って……。」
北の都の城に戻って来たヴォーカルは、すぐにの部屋に行った。
が、扉を開けてもそこはもぬけの殻。
見回しても特に隠れられそうな場所も無く、そうなると必然的に答えは決まってくるわけで……。
「アイツ…、またどっかほっつき歩いてやがるな……。」
ヴォーカルは、頬をひくつかせながら言った。
「また…、ですネ、ヴォーカル様……。」
その後ろでオル・ゴールが言う。
「コレで何回目だ……?毎回勝手に出歩くなって言ってるのに……っ。」
そう言うと、ヴォーカルはの部屋の扉をバタンと閉めた。
そして、足早に廊下を駆ける。
「もうこんな時間だってーのに…、今度は何処行きやがったんだ、のヤツ……!」
「ちょっ…、ヴォーカル様!何処に行くんですか……っ!?」
急に歩き出したヴォーカルの後ろを追い駆けながら言う。
「何処も何も!を探しに行くに決まってるだろっ!!何処で誰に襲われてるか分かんねぇじゃねぇか……っ!!」
ヴォーカルはそう言うと、ずんずんと進んで行った。
(ヴォーカル様じゃないんですから……。)と、オル・ゴールは心の中で思ったが、それは言葉にはしなかった……。










「うわぁぁあぁ〜〜〜。どうしよぅ……。」
その頃、は長い廊下をとぼとぼと歩いていた。
あれから、適当に廊下を歩き、適当に階段を上ったり降りたりしていると、本格的に迷ってきた。
「ここどこぉ〜〜〜…、誰もいないよぅ〜〜〜……。」
しかも、ベース達がいる城の中心部からかなり離れた所らしく、廊下の蝋燭に灯りは灯っておらず、外からの光も無いので進行方向がはっきりと見えない。
その上、何も物音がせず、見張りの魔族も一人も見かけない。
「うぅううぅ〜〜〜、帰れない……。」
頭を抱えて唸る
ふ、と窓の外を見ると、暗い曇に混ざって、小さな発光が見えた。
「……まさか……。」
そう呟いた瞬間ーーーーー……。





ピシャーーーッ!!





「…………っ!?」
急に辺りに響いた大音響に、は耳を塞いだ。
そう、急に雷雨になったのだ。
ポツポツと、窓を打つ雨の音が聞こえてくる。
「うわぁあぁ〜〜〜……。何か本格的に嫌な雰囲気になってきたなぁーーー……。」
こんな不気味な暗い廊下を、雷交じりの雨の音を聞きながら歩くのは、良い気分じゃない。
無音なのも怖いが、こういう音はさらに怖い雰囲気を余計に引き立てるので嫌だった。
「……何か…、怖い事ばっか想像しちゃうんだけどな……。」
自分がすでに、世の中で恐れられている魔族と親しくしている上に、その本拠地にいる事も忘れ、呟く。
の言う怖いは=魔族では無いのだろう。
「ヴォーカル、もう帰って来てる…よね……。また探してくれてるのかな……。」
今までの事を思い出す。
自分が迷子になると、ヴォーカルはいつも探し回って見付けてくれた。
そして、いっつも怖い顔で怒った後に優しく抱き締めてくれる。
「また…、迷惑掛けちゃうな……。」
ヴォーカルの事を考えていると、歩みが止まっていた。
「そう言えば…、迷子になった時は動かない方が良いってオル・ゴールさんが言ってたっけ……?」
ヴォーカルの事を思い出し、過去に迷子になった時のオル・ゴールの言葉を思い出した。
「歩くのも疲れたし…、ここで待ってたらヴォーカル来るかな……?」
今までかなり歩き回って、足が痛くなっていた。
少し休憩したいというのもあったし、今はオル・ゴールの言葉通りにしてみよう、と思い、は廊下の壁に背を預け、座り込んだ。










ヴォーカルとオル・ゴールがを探し始めてからかなりの時間が経った。
今まで迷子になっていた場所全てを回っても、まだは見つからなかった。
「っだぁーーーっ!!ったく、一体アイツは何処に行ってんだ……っ!?」
すでにヴォーカルはキレる寸前である。
このだだっ広い城の中を、上へ下へと往復したのだから仕方が無いといえば仕方が無い。
「本当に…、さんは今度は何処に行ったんでしょうかねェ……?」
オル・ゴールも少し息を切らし、言う。
「ちくしょーーー……。アイツ…、見つけたら只じゃすまさねぇーぞ……。」
「…………。」
隣で怪しいオーラを漂わせているヴォーカルを冷めた目で見ながら、が見つかった時には何としても護らなければ、とオル・ゴールは思った。
「……ったく…、この方法だけは使いたくなかったんだがな……。」
そんな事を思っていると、ヴォーカルは苦虫を潰すような顔で呟いた。
「……どんな方法なンですか……?」
後ろからオル・ゴールが尋ねる。
「あいつの水晶に頼るんだよ……っ!!」
「……へ……?」










「オイ、の居場所、映し出せ。」
そう、ヴォーカルが偉そうに命令した相手はーーーーー……。
「お前の頼みを聞いてやる義理は無いが……。」
そう、この城の主、ベースである。
ヴォーカルは、ベースがいつも監視用に使っている水晶での居場所を特定しようとしているのだ。
「オレ様に命令するんじゃ無ぇーーー!言う通りにしねぇとブッ殺すぞっ!!」
自分の腕に付けられている鉄球はベースが付けたものだという事を忘れているのか、ヴォーカルは引く様子は無い。
「…………。」
暫く睨み合った後、このまま言う通りにしないでまた城を破壊されては困ると判断したのか、ベースが水晶の方に体を向けた。
すると、だんだんと水晶に映っていた映像が波打ちだす。
「…………。」
その様子を食い入るように見るヴォーカル。
だんだんとはっきりして来た水晶に映し出されたのはーーーーー……。
暗闇の中で膝を抱えて座っているの姿だった。
……!」
その姿を見て、水晶に駆け寄るヴォーカル。
見た所、どこかを怪我しているという事は無さそうだった。
「ここは…、何処だ……?」
いかし、何分周囲が暗く、特に特徴となる物も無いので眉をひそめる。
まず言えるのは、周囲が暗い=蝋燭の灯が灯っていないと言う事は、城の中心からは離れている、と言う事だ。
その時点で、かなりの距離を歩き回っていた事が分かる。
「ったくアイツは…、何処まで行けば気が済むんだ……。」
そうは言いつつも、場所が分からない。
「オイ、ベースよぉ。が今いる場所って何処なんだ?」
とても嫌な選択だが、ヴォーカルは目線を逸らしながらベースに尋ねる。
「…………。お前が私に尋ねるとはな…、よっぽどこの娘に熱心なようだな……。」
鼻で笑うように、そう言われ、胃が捻れそうになるヴォーカル。
しかし、ここでキレてはを探し出す事は出来ない。
「ヘンッ、テメーみてぇなオヤジには分かんねぇだろうけどな……っ。」
青筋をひくひくとさせながら、自分の中の暴れそうになる心を抑える。
(ヴォーカル様、ガンバッ!!)
オル・ゴールは、後方の柱の影から(心の中で)声援を送っていた……。
「……書庫のある塔の四階の端…と言った所か……。」
ポツリ、とベースが水晶を見て呟く。
「書庫……?その書庫ってのは何処にあるんだ……?」
ヴォーカルが、ベースの背に問い掛ける。
「それは、後ろに隠れている奴が知っているだろう……?」
ベースがそう言うと、広間の入り口付近で隠れていたオル・ゴールが小さく悲鳴を上げた。
「……ハァーン……。よっしゃっ、じゃあ、早速行くぜぇ!オル・ゴール……っ!!」
ちろり、とオル・ゴールを見ると、ヴォーカルは急にそちらに駆け出し、そのままオル・ゴールの帽子を掴んで走り去った。
「全く…、あんな人間一人に心を奪われるとは……。それとも、あの娘は魔族をも引き付ける何かを持っていると言うのか……。」
ヴォーカル達が去った広間で、ベースは一人呟いた。










「…………ッ!!」
広間を飛び出て、オル・ゴールを引きずりながら急いでの元に向かった。
暗い中、の姿が見えてからは、オル・ゴールを投げ捨て駆け寄った。
「……おいっ、大丈夫か……っ!?」
そう言って、の肩に手を置くと……。
「……くぅ〜〜〜……。」
は、すやすやと寝息を立てて眠っていた。
「……〜〜〜ったく…っ、こいつはぁ〜〜〜っ!!」
そんなを見て、ヴォーカルは肩を落としながら呟いた。
「人に心配掛けさせといて、自分は気持ち良くネンネかよっ!?」
拳骨での額をコツン、と叩きながら言う。
その顔には、心配で心配で仕方が無かったと言う気持ちが滲み出ていた。
「……はぁ…、しょうがねぇなぁ……。」
それでも眠り続けるを見ると、ヴォーカルはを抱きかかえた。
「オラ、いつまでそこでへばり付いてる気だっ。行くぞ……!」
(ヴォーカルに投げ飛ばされたせいで)壁にへばり付く状態だったオル・ゴールに一言そう言うと、ヴォーカルは暗い廊下をの部屋に向かって歩き始めた。










「……んぅ……?」
それから暫くたって…、が目を覚ますと、そこには見覚えのある天井が。
「ぁれれ……?私って……。」
疑問に思いながらも、目を擦りつつ起き上がる。
「や〜〜〜っとお目覚めかよ、お姫さん。」
「……れ……?」
声のした方を振り向くと、そこには無理矢理笑顔を作ろうといているヴォーカルがいた。
「ぁ、もう帰ってたんだ、おかえり〜〜〜。」
そんな彼の顔に気付かず、は手をひらひらと振る。
「ん?でも何で私ベッドで寝てるんだろう……?」
のその言葉に、ヴォーカルの頬がひくつく。
「……っお前なぁーーー!これで何回目だと思ってんだーーーっ!?」
我慢の限界だったのか、ヴォーカルは突然叫びだした。
「ふぇっ!?」
は驚いて目を大きくする。
「俺がいつも言ってるよなぁ……?勝手に城内うろつくなって……?」
青筋が立った恐ろしい笑顔で、ベッドにいるに近づいて行く。
「えぇ〜〜〜…っと、ぅん、そうだね……っ。」
少し感付き始めたのか、目線を逸らしながら言う。
「これで…、何度目だ……?」
すでに、ベッドに上って来て、の目の前で一生懸命怒りを抑えた声で言う。
「……5回目…、かな……?」
頬を冷や汗が伝うのが分かる。
「自分で自覚があるのなら……。」
「……っぅわ……!」
頬をポリポリと掻いていた手首を掴まれ、グイ、と押し倒された。
「お前を心配して走り回った分のお礼を貰っても良いよなぁ……?」
ニヤリ、とそれは楽しそうに、を見下ろしヴォーカルは言った。
「…………っ!?ぅあ、あの、ごめんなさい…っ、もうしません!だから…、その、手を離して今すぐにそこを退いて下さい……っ!!」
「ヤだね。」
ごく短い返答。
「……っぎゃーーーっ!!」


この日、城内にの悲鳴が響き渡った。



時、オル・ゴールがヴォーカルを阻止しに行く5秒前……。















〜〜〜後書き〜〜〜

ハム猫・「あっは、とうとう書いちゃったね!時間軸諸々を無視しまくったまさしく偽者ドリーム☆」

ヴォーカル・「死ね。」

オル・ゴール・「そうですネ、それが良いでしょう。」

ハム猫・「……って、何珍しく考え一致してるんですか……っ!?」

ヴォーカル・「偽者とか言う次元じゃねェんだよ!」

ハム猫・「いや、脳内のヴォーカルさんはヒロインさん(好きな人)には甘々です。」

ヴォーカル・「……鳥肌立ってきた……。」

オル・ゴール・「しかも、文章おかしいですシ、終わり方微妙でスし。」

ハム猫・「あっは、そうだね☆失敗したら裏行きでしたが。きっとオル・ゴールさんが(命懸けで)止めてくれるので大丈夫です。」

オル・ゴール・「(今聞き捨てなら無い言葉が聞こえた気が……。)」

ハム猫・「きっと毎回美味しい思いをせずにお預けを食らってるんですよ、ヴォーカルさんは。ヒロインさん(好きな人)のためなら、オル・ゴールさんはヴォーカルさん(主人)とも戦います。」

ヴォーカル・「あぁん?じゃあ何か?俺はいつまでも良い思いは出来ないってのか?」

ハム猫・「どうでしょうねぇ〜〜〜?まぁ、それは皆様の脳内でお楽しみ下さいませ。オイラは裏は書けませんので。」

オル・ゴール・「……それでは、このような作品を最後まで読んでいただき、本当に感謝の気持ちが絶えマせん。少しでも楽しんでいただけたなラ幸いデス♪」



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