「ここではオレが法律だ。」
そう言って、奴は帰って来た。










待ちぼうけの寂しさ










獅子川文。
十二支高校三年。
昨年問題を起こして停学を食らった馬鹿な男。
そして、この私、を長い間待ちぼうけにさせた男。


「クッ、オレはまだまだ男として未熟だったようだ……。」
野球部のグラウンドが騒がしかったので覗きに行ってみたら、とてつもなく見覚えのある顔の奴がそんな事を言いながら馬に乗ろうとしていた。
……へぇ…、帰ってきたんだ、あいつ……。


未だに私の存在なんかに気付かずに、変な奴と言い合いをしているアイツ。
一歩一歩とその背中に近寄っていき……。
「あんた、帰ってきたのにこの私に挨拶も無しな訳?」
この私の言葉に、今まで言い合いをしていた奴の動きは止まった。
そして、まるで油の切れた機械みたいに怪しい音を立てながらゆっくりとこちらを振り返った。
「ぁ゛…、あ゛、お前、いたの…か……?」
「もちろんよ。」
ニッコリと、痛いほどの笑顔で返す。
「あ…、いや、その、今帰ってきたばかりでだな……。」
しどろもどろと詰まりながら、怪しく腕を動かしながら、獅子川は言う。
「で、何?」
そんな獅子川は無視して、は最上級の笑顔を向けた。



人の笑顔は、時として凶器にもなるーーーーー……。



「あっ、待ちなさいよ……っ!!」
暫く固まっていた獅子川は、突然馬に乗って、走り去った。
「くっ、また逃げられたか……。」
そう言うを、野球部員は唖然と見つめていた。
「ま、そういう事で、明日もここ来させてもらうから、あいつ逃がさないでね。」
じゃっ、と片手を上げて、も去って行った。
((((((どういう事なんだーーーーー……っ!?))))))
その考えだけが、野球部員達の頭の中にこだましていた。










次の日ーーー。


キョロキョロ……

キョロキョロ……



「よッし、あいつはいねぇな……。」
茂みの中で隠れていた獅子川は、ゆっくりと身を起こした。
「甘いわ……っ!!」
その瞬間、何処に隠れていたのか、が出て来て獅子川を捕まえた。(投げ縄で。)
「なッ、何っ!?一体何処に……っ!?」
「ふふふ、私をなめないで欲しいわね。」
獅子川に繋がる縄をがっちりと掴み、不敵な笑みを漏らす
「さぁ、今日こそ聞かせてもらうわよ……っ!!」
そして、ビシッ、と獅子川を指差した。
「な……ッ!!」
獅子川文、大ピンチである。
「何だ?獅子川、早く楽になりたかったら吐く事吐いちまえ。」
二人の騒ぎを聞きつけて集まってきた部員達も、口々に言う。
「ぐッ……!?」
獅子川は、冷や汗を垂らしながらも、堅く口を閉ざしていた。
「ふっ…、そんなに言いたくないのなら教えてやるけどね、あの日、靴箱に「放課後、屋上に来い!」って手紙が入ってたから、ちゃんと行ったのよっ!?あんたはいつまでも来なかったけど、私は待ってたのよっ、夕日が暮れるまで……っ!!あの風の強い寒空の中……っ!!」
は、獅子川を睨みつけて言った。
「それでもあんたは来なかったっ。仕方ないからその日は帰って、次の日学校行ったらあんたは停学じゃないっ!?家に行ってもいないしっ、あの日に何を言われるんだったのか気になって、私、テストの平均点が96から93に下がっちゃったじゃない……っ!!」


((((((3点だけだぁーーーっ!!))))))


その時、部員は全員思ったと言う。








「す、すまねぇっ……。そんな事になってるなんて知ッらなかったぜ……。」
縄に繋がれた獅子川は、うな垂れた。
「でも、お願いだ!オレは逃げも隠れもしねぇ!だから、もう一度チャンスをくれ……ッ!!」
獅子川は、真剣な眼差しで言った。
「…………。」
はそんな獅子川を暫く見据えて……。
「いいわ、少しの間猶予をあげる。どうせ逃げようったって私から逃げられる訳無いし。」
そう言って、は手に持っていた縄を放し、グラウンドを去って行った。





「お…、おい。お前本当に大丈夫なのか……。」
が去った後、一宮は獅子川に声をかけた。
「…………。」
しかし、獅子川は、去っていくの後姿をじっと見つめるばかりで、何も返しては来なかった。








そんなやり取りがされてから、一週間がたった。
しかし、獅子川は未だにに1年以上伝えていないその「言葉」を言っていなかった。








「どういう事なのよっ!!」
は、野球部グラウンドで叫んだ。
「どういう事、と言われても……。」
そんなに、冷や汗を垂らしながら一宮が言う。
「猶予をあげるって言ってから、もう一週間よっ!?アイツは何してんのよっ!?さすがの私もキレるわよ……っ!?」
(すでにキレてると思うが……。)
獅子川待ち伏せと言う理由でさっきからいるこの女を、一宮は少し当惑した目で見ていた。



そんな話をしているとーーーーー……





ザッ……!!





「あぁーーー!獅子川文っ!!」
問題の張本人、獅子川文が現れた。
真剣な顔で、の前に立っている。
「あんたねぇ、もう逃がさないんだからねっ!!今更後悔しても遅いんだから……っ!!」
今までのうっぷんを叫びながら、獅子川に詰め寄ろうとする
が獅子川に近づいて行って、あと数歩で手が届きそうな所で、獅子川は一枚の紙を差し出した。
「……ん……?」
無言でその紙を差し出してくる獅子川。
どうやら、受け取れという意味のようだ。
「な、何なのよ……。」
その紙を受け取って、中を開くと、そこには一年前と同じような内容が書かれていた。


『明日の放課後、屋上で待つ。』


それだけが、その白い紙の真ん中に書かれていた。



「あんたねぇ…、私をおちょくってんのっ!?1年以上待たせといて、この期に及んでまだ待たせる気……っ!?今すぐ、ここで言ってっ!!」
渡された紙を握りつぶしながら、獅子川に詰め寄る。
しかし、獅子川はそんなに言葉をかける事は無かった。
ただ、真剣な眼差しでを見据え、何も言わずにその場を去って行った。
「……な、何なのよぉ…あいつ……。」
初めて見るあんなに真剣な獅子川の眼差しに射すくめられ、何も言えずに獅子川を見送ってしまった
「明日来なかったら、本当に本気で許さないんだから……。」
ポツリと、只一言だけ残して、その場を去った。










ーーー次の日ーーー

とうとう問題の放課後になった。
ハッキリ言って、今のには獅子川があの約束を守るとは思えなかった。
「きっとまた、待ちぼうけをくらわされるんだろうけど……。」
そう言いながら、帰る準備を整えて、屋上へ向かう。
階段を上がって行き、一番上まで上りきった。
あとは、目の前にあるドアのノブを回すだけである。
「…………。」
期待してないはずなのに、緊張するのは何故だろう?
自分で気付かずに、心の何処かではやはり、期待をしているんだろうか?
「……行くわよ、……!」
そんな事を考えているなんて自分らしくない。
心に活を入れて、はノブを回した。





ガチャリ……。





「…………。」
ドアを開けた途端に、眩しい青色が目の前に広がった。
目が慣れるまでの少しの間、目を細めていたが、改めて目を開けると、目の前に獅子川を見つけた。
フェンスに手をかけて、こちらに背中を向けている。
真っ青な空と、彼の白いシャツが、一枚の絵のように収まっていた。

「し、獅子…川……?」
恐る恐る、声をかける。
すると、目の前の人物は、ゆっくりとこちらを向いた。
「おう!来てくれたのかっ。もう、無ッ理かと思ってたぜ!」
そう言って振り返った獅子川は、昨日の獅子川とは違っていた。
いつもの獅子川。
陽気で、無駄に明るくて、掴み所の無い男。
「私の方こそ…、あんたが本当に来てるなんて思ってもみなかったわよ……。」

どうしよう…、今まで気になっていたけど、いざ聞けるとなると、すごく怖い……。

今すぐにでも走って逃げ出したい……。

でも、聞きたい……。

「……で、一体、何なわけ……?」
は、震える声を一生懸命に絞り出した。
「そうだな…、その事だよな……。」
そう言うと、獅子川はまたに背中を向けた。
「ずっと…、この一年間ずっと…、お前に伝えようと思ってた事があるんだ……。」
陽気な声はどこえやら、打って変わって真剣な声だ。
「オレは…、オレは……。」
獅子川が俯いて、何かを言おうとした時、強い風が急に吹いた。
「えっ!?な、何……っ!?」
獅子川の言葉を、一言も漏らさずに聞こうとしていたは、急な風に驚いた。





「オレはお前の事が好ッきなんだーーーっ!!」





風が止むのとほぼ同時に、その言葉が頭に響いた。
獅子川はその言葉を、屋上から大声で叫んだ。
言葉が終わると、反対に今度は静寂が2人を襲った。
「…………。」
は何も言わずに黙っている。
「……だ、駄目か……?」
獅子川は、フェンスから手を離し、ゆっくりとを振り返る。
いつまでも黙っているを、じっと見つめていた。



「嫌いよ……。」



そんな静かな空間に、の言葉が落ちた。

「そ、そうか……。そうだよ、な……。一年以上も待たせて……。」
「待ちぼうけをさせる人は嫌い。待ってる方の気持ちも考えないで。私がこの一年間、どれだけ寂しい思いをしていたかも知らないで。どれだけ不安な思いを抱えていたかも知らないで。」
は、獅子川をまっすぐと見て、淡々と語りだした。
「…………?」
そんなに、獅子川は不安気に声をかける。
「ちゃんと…、責任取ってよね。これからは、寂しい思いを…させないで……。」
そう言って、はクルリと踵を返して、屋上を去って行く。
…っ、それって……っ!!」
獅子川は、去って行くの後姿に声をかけた。
「……私も、同じよ……。」
は、只一言それだけを言って、屋上のドアを閉めた。



屋上に1人、屋上への階段に1人、それぞれ嬉しそうな顔をしていた。















〜〜〜後書き〜〜〜

ハム猫・「ハ〜〜〜イ、獅子川文ぶんドリームでっす!」

獅子川・「ぶんぶん言うんじゃねぇ!」

ハム猫・「何かもう、獅子川さん別ッ人!☆獅子川語をどうすれば良いのか分かりませんでした。」

獅子川・「殆ど無視しただろ……。」

ハム猫・「そんなこんなで、メインキャラ大体揃って来ましたね〜〜〜。あと少しあと少し♪」

獅子川・「所で、オレ様の2作目はきちんと考えてるんだろうな?」

ハム猫・「いえ、まったく。(キッパリ☆)」

獅子川・「……蜂の巣になるか……?」

ハム猫・「あっはっは、そうやっておでこに銃当てないで下さいよぅ〜〜〜。」

獅子川・「牛尾に負ッけてられるか!牛尾の本数抜くぞっ!!」

ハム猫・「あ〜〜〜、それは無理ね。何か前にも似たような事言ってた人いましたが。」

獅子川・「何でだ……っ!?」

ハム猫・「だって、ねぇ……?まぁ、読者様の希望が多ければ考えますわ。ようは、あなたの人気によるわけよ。」

獅子川・「クッ…、卑怯な手を使いやがって……っ!!」

ハム猫・「卑怯って……。って言うか、自分の人気に自信が無いのか……。」



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