ーーー願い事ーーー










ピピピピピピ……


心地よい早朝に目覚ましの音が響く。

パシッ

布団の中から手をのばして目覚まし時計を止める。
「んん〜〜〜!今日もいい朝っ!!」
布団から出てのびをする。
今日は7月7日ーーーーー。
世間一般では七夕。でも、私にとってはーーーーー……。





「おはようございます!牛尾先輩、蛇神先輩っ!!」
「おや、今日は早いんだね君。」
牛尾御門はニッコリと笑って言った。

「ハイ!今日は大事な日ですからっ!!」
今日はいつもより30分程早く起きた。
なぜなら、朝一番に会いたい人がいたから。

「蛇神先輩!何か叶えたい願い事ってありますかっ!?」

「…………?」
私の唐突の問いかけに、蛇神先輩は困った顔をした。

「……何なんだい?急に……。」
そんな蛇神先輩に、牛尾先輩が助け船を出した。

「今日は七夕ですよね。でもでも、その前に今日は蛇神先輩の誕生日ですよね。だから!私が何か1つ願い事を叶えてあげます!」

(何だか全然つながってない気もするけど……。)
と、牛尾が思ったかどうかは定かではないが、蛇神の方を向いて
「……て、言ってるけど、蛇神君の願い事って何かな?」
と聞いた。

「…………。」
蛇神は気難しい顔をして沈黙している。

と、そこへ
「おはよーございまーーーすっ。」
他の野球部員達が来た。

「あ!いけないっ、朝練の準備をしなくては!君も急いでっ!!」

「ハッ、ハイッ!!」
つい、牛尾先輩にせかされて、蛇神先輩の願い事を聞きそびれてしまった。
(ま、いっか、後でも聞けるし……。)



朝練中は、こっちも色々と忙しくて、蛇神先輩には話しかけられなかった。



「それでは、朝練を終わる。解散っ!!」

その言葉と共に、皆部室に戻る。
私もマネージャー準備室に行き、制服に着替える。



「さて…と。」
着替え終わって、部室の方へ行き、蛇神先輩が出て来るのを待った……。
が、出てくるのは他の人達ばかりで、なかなか蛇神先輩は出てこない。
とうとうしびれを切らして、今ちょうど出て来た子津達に聞いた。
「ね、ねぇ、中に蛇神先輩いる……?」

「え…、蛇神先輩なら、すぐに着替えて一番に出て行ったっすけど……。」
子津が言う。

「え゛ぇっ!!」

「マッハだったな。ありゃ、きっとあれだよ、アレ。トイレに急いだんだぜ。」

「ありがと、子津君。じゃあね!」
許し難い事を言った猿野にさりげなく肘鉄で制裁を加えながら、子津に礼を言って校舎に急いだ。


3年生の教室を覗いたが、そのどこにも蛇神先輩はいなかった。
「あうぅ〜〜〜っ、あの先輩は一体どこに行ったのぉ〜〜〜っ!?」
そうこうしているうちにチャイムが鳴ったので、あきらめて、自分のクラスに戻った。





一時間目の授業を受けながら、
(この授業が終わったら、マッハで3年校舎に行って……。)
と計画を練っていた。


そしてーーーーー。

運命の時ーーーーー……っ!!



チャイムが鳴り、授業が終わった途端、先生が出るより速く教室を飛び出した。
出来る限り速く走り、3年校舎に行ったがーーーーー
その時にはもう蛇神はいなかった。

「蛇神君ならチャイムと同時に出て行ったよ。」
クラスにいた牛尾先輩が私に気付いて近寄って来た。
「どこに行ったかとか…、分かりませんか?」
「うん……。彼なら静かな所とか好みそうだけど……。僕には分からないなぁ……。」
「そうですか……。」
残念そうにつぶやく。
「ごめんね、力になれなくて。頑張ってね。」
「ハイ!ありがとうございましたっ。」
一礼して教室を後にした。
その後も、実験室や特別教室を覗いてみたが、そのいずれにもいなかった。
やはり短い休み時間内に探すのは難しいものがあった。


その次の休み時間も、その次の休み時間もーーーーー。
やはり一足遅く、蛇神先輩は消えた後だった……。





「う゛う゛ぁあ〜〜〜っ!!もぅ!あの先輩ってばアンテナでも付いてるのっ!?」
一年校舎に戻りながらつい叫んでいると、

「誰がアンテナ?」
後ろから聞き慣れた声がした。

「比乃君っ!?」
振り向くとそこには、パンを抱えた兎丸の姿があった。
どうやら購買部でお昼を買って来たようだ。

「あ、いや、その、蛇神先輩の事なんだけど……。」
何やらヤバイことを聞かれたかな…、と思っていると、
「あ〜〜〜、分かるーーー!何かあの先輩って電波とかキャッチしてそうだもんね♪」
楽しげに同意されてしまった……。



「フ〜〜〜ン、そうなんだ。仏教先輩探してるのかぁ……。」
今までの経緯を比乃に話した。
「う〜〜〜ん、役に立つかは分からないけど、この前シバ君と屋上でお弁当食べに行ったコトがあったんだけど、その時、牛尾先輩と一緒に来たよ。屋上に。」
「本当っ!?」
「うん、その後は屋上に行ったコト無いから、いつも行ってるのかは知らないけど……。」
「ありがと!比乃君っ、役に立ったよっ!!」
ついうれしさで兎丸に抱きついてしまったが、最後の望みをかけて昼休みに屋上へ行くことにした。





ガコンッ


屋上の厚い扉を開けると、青い空が広がっていた。
「まだ…、来てない…かな……。」
ダッシュで来たので息が切れてしまった。
周りに誰もいない事を確認して、座る。

「来るといいなぁ……。」
ポツリとつぶやいた。





それから数分後ーーーーー。


ガコンッ


再び屋上の扉は開かれた。

振り返るとーーーーー……
「蛇神先輩!牛尾先輩っ!!」
今までずっと探していた人がいた……。

に気付いた瞬間、蛇神の表情が少し曇った気がした。

「おや、どうしたんだい君?」
「待ちぶせです!とうとう見つけましたよっ、蛇神先輩っ!!私、蛇神先輩の願い事聞くまでは、離れませんよっ!!」

弁当箱を置いて座り込む蛇神の隣に座りながら、は言った。

「ところで、君、お昼ご飯はどうしたんだい?」
牛尾が聞く。
「早弁しましたから、大丈夫ですっ!」
ビシッと親指を立てて言う。
(何が大丈夫なんだろう……。by牛尾)



「で、何ですか?先輩のお願い事は?」
ドキドキしながら、返事を待つ。
しばらくの沈黙のあと……
「…………無い…………。」
その一言だけを言った。

「……へ……?」

は、突然の一言をなかなか理解できず固まってしまった。
「”無い”って、本当ですかっ!?何か1つくらいあるでしょうっ!?例えば梅こぶ茶飲みたいなぁ、とか、森林浴したいなぁ、とか、チャクラ欲しいなぁ、とか……っ!!」

「な…何か、どんどん叶えられないものになっていって……。」
「本っっっ当に無いんですかっ!?1つもっ!?」
興奮しすぎて、牛尾のツッコミを無視してしまっている。

「我は…”願い事”というのは己から行動を起こして叶えるものだと思っている……。自ら行動を起こさずして叶う願いなど、我に必要無し……。」
一瞬にして、その場の雰囲気は静まり返った。





正直言って、頭に隕石落ちてきたみたいだった。
目の前真っ暗になって、”ああ、迷惑だったんだなぁ……。自分一人張りきって馬鹿みたい……。”って 痛感した。
気付いたら…頬を涙がつたっていた。

「あ…あの、…っ私…、ごめんなさい……っ!!」
その場にいられなくて、走って逃げ出してしまった。





「あーぁ、いいのかい?蛇神君、あんな事言って。泣かせちゃったよ?」
「…………。」
蛇神は沈黙している。
「僕だったら、うまく”願い事”を利用するけどね。」
それでもなお、反応を返さない蛇神を見て、ため息をついてから、牛尾は昼食を食べだした。





5、6時間目……。頭は全然働かなかった。
ボーーーッとして、ただ頭の中にあるのは”どうしよう”という思いのみ。
(あーぁ、告白する前に嫌われちゃった…か……。)


気が付けば、もう6時間目は終わり、クラブの時間である。

(行きたくないなぁ……。でも…、もう一回ちゃんと謝りたいし……。)

重い腰を上げて、グラウンドへ向かった。





カキーーーーー……ン

気持ちの良い音が響く。
フェンスの向こうにはファンと思われる女生徒が騒いでいる。

今日もマネージャーは、タオルを配ったり、スポーツドリンクを作ったり、練習に使う道具を運んだり…、と忙しく走り回っている。
まだ気持ちは沈んだままだったが、何かして動いていると、ほんの少し気はまぎれた。

「凪ちゃーん、これは部室横でいいんだよねぇーーー。」
向こうで仕事をしている凪に聞く。
「はい。……でも、それは重たいから1人では危ないんじゃ……。」
「大丈夫だって!これなら前にも運んだことあるしっ!!」
心配そうな顔をしている凪を背にして、道具の入った箱を運んでいく。



その姿をグラウンドから見ていた牛尾が、近くにいた蛇神に話しかけた。

君…、大丈夫なのかな……。無理していないと良いけど……。」

「……何が言いたい……。」
そんな牛尾をちらりと見て、蛇神は答えた。
「少しは素直になったらどうだい?屋上で君が言っていた事も分からなくはないが……。僕は”願い事”を彼女に言うことも、立派な行動だと思うけどね。」
「…………。」
しばらく沈黙して…、ゆっくりと蛇神は部室の方へ向かった。

「やれやれ、世話が焼けるな、蛇神君も……。」
クスリと笑って、牛尾はまた練習を再開した。





「ふぅ〜〜〜、大丈夫とは言ったけど、結構キツかったなぁ……。」
道具を部室横に置いてから、少し休憩という事で壁にもたれかかって座った。
目を閉じて、しばらくボーーーッとしていると、ザッ、という音がした。


目を開けてみるとーーーーー……

そこには、蛇神先輩がいた……。

一瞬思考が停止して固まってしまったが、すぐに気が付いて立ち上がった。

「あっぁ…あの!その、さっきは…、お昼は本当にすみませんでしたっ!!私、自分の事しか考えてなくて……ーーーーーっ!!」

「それは、今でもよいか……?」

「は……?」
目をパチクリ、とさせて聞く。

「その、”願い事”は今でも有効か?」

「え?あ…はい……。」
一体何が起きているのだろうと思いながらも返事をする。

「我の願いは…我の傍らに主がいる事……。」





ーーー我ノ傍ラニ主ガイル事ーーー





そ…それってつまり、一緒にいて欲しいって事で……。
つまりそれって…、”告白”って受け取っていいの…かな……?

「叶えてくれるか……?」
蛇神先輩は、ゆっくりと微笑んだ。



「……はい……っ!!」



今日は不思議な日です。
私がずっと抱いていた願いは…その願いを叶えて欲しいと思っていた人と同じでした……。
こんな不思議があるのも…、きっと七夕だからなのかな……。












〜〜〜「後書き」と書いて「言い訳」と読む〜〜〜

ハム猫・「グハ!やっと書き終えました……。(死)」

牛尾・「書き終えた…って言っても、もう7日終わってるじゃないか。」

ハム猫・「そんな事言っても、思いついたのが7日だったんだし、テスト期間中だし〜〜〜。」

牛尾・「駄目じゃないかっ!!」

ハム猫・「それにしても、蛇神先輩のしゃべらせ方分かんねーーーっ!!もう別人っスよ、別人。しかも、何か牛尾先輩出ばってるし……。牛尾小説書いてる気分でした。」

牛尾・「だって蛇神君はこういう事には奥手だからね……。僕が後押ししてあげないと。」

ハム猫・「ちゃっかりキューピッド役でしたしね……。さて!それでは、ここまで私なんかのつたない文章を読んで下さり真にありがとうございましたっ!!感想なんかもらえると、滝の涙を流しながら、死ぬ程喜びますので、よろしくお願いします。(←オイ。)では、また……。」



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