[PR] この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。




「今日は駄目ですからね、ヴォーカル様。」
アリアの部屋の前で、ドアノブに手を掛けているヴォーカルに向かって、オル・ゴールは言った。
「……ッチ……。お前、何様のつもりだぁ?俺がアリアの部屋に入って何が悪いってんだ!」
オル・ゴールの声に、少し驚きながらも反論する。
「何がも何も、今はアリアさんは風邪を引いてるんですよ。ヴォーカル様が入ったら、寝てるのを良い事に(絶対)襲うでしょう?」
水の入った洗面器とタオルを持ったオル・ゴールは、淡々とした声で言った。
「……っぅ、そんな事、お前に関係ねぇーだろ……っ!!」
いかにも図星です、と言うように言葉に詰まる。
「そんな事言ってると…、アリアさんにこの間の事バラしますよ……?」
「…………っ!?」
オル・ゴールも、簡単には引いてくれないだろうと思い、最後の手段に出た。
「きっと嫌われますよね、ヴォーカル様。」
にこやかに話す。
「……っ分かったよ……!入らなかったら良いんだろ……っ!?その代わり、お前、アリアに手ぇ出したらただじゃおかねぇぞ……っ!!」
数秒間の葛藤の末、ヴォーカルは諦める事にしたらしい。
ムス、っとした顔で向こうの方に歩いて行った。
「……ふぅ……。」
そんなヴォーカルの後姿を見ながら、溜息を吐く。
最近は扱い方が分かってきたが、本当に苦労する人だ。
彼なりに心配しての行動だろうが……。
少しそう思ってから、ドアに手を掛けアリアの部屋に入った。










ーーー温もりーーー










アリアは、部屋で静かに寝ていた。
彼女の熱に気付いたのは昨日。
何となしにいつもと雰囲気の違う彼女がおかしいと思い、気を付けて見ると顔が少し赤い。
案の定、熱を測ってみれば38度。
彼女自身に自覚が無かったようだが、どうやら数日前からおかしかったらしい。
それから、急いでベッドに寝かせ、少しでも良くなるように栄養のある物を作ったりした。
今では少し落ち着いて、風邪薬も利いて眠っているところだ。
「本当に…、良くなって良かった……。」
アリアのベッドの隣にある机に、洗面器を置きながら呟く。
考えれば当たり前な事だった。
この城は、灯りと言ったら蝋燭くらいで、特別に部屋を暖めている訳でもない。
唯でさえ、城内は身に凍みる寒さだろう。
僕達魔族にはこれくらいの寒さは気にもならないが……。
でも、アリアさんは普通の人間だ。
冬も近付いてきてだんだん寒くなってきている最近では、気を付けなければ簡単に風邪くらい引いてしまうだろう。
本当に、酷くなる前に気が付いて良かった……。
すやすやと寝息正しく眠っているアリアの前髪に少し触れると、微笑んだ。
「あなたは…、僕の気持ちに気付いていますか……?」
そうして、少し悲しそうに微笑んだ。





そう、僕はアリアさんを愛している。
初めは…、ヴォーカル様がこの城に連れて来た頃は、そうは思っていなかった。
ただ、変わった人だと、不思議な人だと思っていた。
しかし、一緒にいる内に、彼女の不思議な魅力に惹かれていった。
ヴォーカル様が惚れたのも分かるな、と思った。
彼女には…、魔族をも癒す力があるのかもしれない。
傍にいると、幸せな気分になれた。
魔族がこんな事を言うのもおかしいかもしれませんけどね……。
彼女の微笑みに心癒され、彼女の呼び声に心くすぐられた……。
そんな日々を送っている内に、彼女が欲しいと思った。
もちろんそれは叶わない事だけれど。
彼女は僕にも好意を向けてくれているとは思うが、それはきっとヴォーカル様への物とは違う。
それに、僕にはこの想いを告げる勇気が無い。
言ってしまったら、きっともう彼女の前にはいられないから。
それならば、今のまま、この想いを胸に秘め、傍にいるほうがましだ。
そう…、僕は臆病なんですよ……。










「……んぅ……?」
そんな事を考えつつ、額のタオルを変えようとするとアリアさんが目を覚ました。
「ぁ…、すみません、起こしちゃいましたか……?」
眠そうに目を擦る彼女に謝る。
「ん~ん、良いよ。大分寝たから楽になったし。……ゴメンネ、ずっと看ててもらって……。」
まだ少しポーッ、とした声で言った。
「いえ、今はゆっくり休んで早く良くなって下さいね。」
そんな彼女にニッコリと微笑んだ。
「ありがと。本当に、オル・ゴールさんには迷惑掛けっぱなしだね……。」
そう言って、アリアは布団をかぶり直した。
「そんな事は無いですよ!僕はこうやって…、アリアさんと一緒にいられるのが好きですし……っ。」
自分で言いながら、何だか照れ臭くなって来て、少し俯く。
「私もね、オル・ゴールさんといるの大好きだよーーー。」
僕の気持ちなんか知らずに、アリアさんは幸せそうにフフ、と笑いそう言った。
「…………っ!?……本当…、ですか……っ!?」
幸せそうな彼女の声が嬉しくて…、唯の自分の思い込みなのだろうけれど、幸せな気分になってしまう。
「うん!何かねぇ…、オル・ゴールさんと一緒にいるとね、暖かい気持ちになれるんだーーー……。」
「暖かい…気持ち……?」
布団から腕を出して、顔の上で手で何かの形を現そうとする。
「安心できる…って言うのかな……?ふんわり、優しい気持ちになれるの。」
アリアの手は、何か形を作る事は無く、ゆらゆらと不思議な動きを続けていた。
「あなたは…凄い人ですね……。」
自然と、口から漏れ出た。
「……何で?」
アリアは不思議そうな目でオル・ゴールを見る。
「僕は…そんな気を許せるような奴じゃないんですよ……。」
オル・ゴールは、アリアのその目を直視出来ずに、目線を逸らす。


そう…、僕は魔族。
あなたが思っているほど良い人でも何でも無い。
心の中は…、あなたに見せられないほどに腐っているんです……。


「でも、私はオル・ゴールさんの事好きだよ。」
そんな事を考えていると、アリアさんのはっきりとした声がその考えを打ち破った。
「え……?」
「だから、私はそれでも好きだって言ってるの。」
真っ直ぐな瞳に、打ち抜かれる。
「ぁ…、ハハ、何だか…あなたには敵いませんね……っ。」
不思議と体中から力が抜けて。
真っ直ぐ見つめて来る瞳が、今まで考えていた闇を払った。
そこに広がるのは暖かな光。
そうか…、僕があなたに惹かれたのは、これだったんですね……。
闇が光に魅せられる。
そう言う事だったんだ。
あなたは光。
渦巻く闇の中でたった一つ、強く輝く光。
いつかは、闇をも優しく包み込んでしまう。
そういう人なんですね、あなたは……。





「あ……っ!!」
オル・ゴールがそう思っていると、アリアは急に声を上げた。
「…………っ!?どうしたんですか……っ!?」
急な声に驚いて、少しアリアに駆け寄る。
「分かった!」
アリアはポン、と手を打った。
「…………?何が分かったんですか……?」
オル・ゴールは不思議そうな顔をする。
「あのね、オル・ゴールさんってお母さんなんだ!」
「お母さんっ!?」
アリアの素っ頓狂な答えに、今度はオル・ゴールが声を上げた。
「うん!何だか暖かくてね、優しくて…お母さんみたいだなって!思ったの……っ!!」
ニコニコと、満面の笑顔を向けてくるアリアをポカン、と見つめながら……。
「……お母さん…ですか……。」
少し複雑そうな表情を、オル・ゴールはした。


それじゃあ、まだまだヴォーカル様には勝てませんね……。

心の中で、小さく、そう呟いて。


まぁ、もう少しは…この思いも胸にしまっておきましょうか……。



そう思って、オル・ゴールは穏やかに微笑んだ。













~~~後書き~~~

ハム猫・「は~ぃ、とうとう書いちゃったよオル・ゴールドリ。」

オル・ゴール・「僕は…お母さん、なんですカ……?」

ハム猫・「まぁ、そう落ち込むねい!確かに君は「男の人」と見るより「優しい人」と見られそうですね。」

オル・ゴール・「って言うか、本体仮面でスけど。」

ハム猫・「聞こえない聞こえない聞こえないーーーっ!!」

オル・ゴール・「……まぁ、今回は許しましょうか……。」

ハム猫・「ずっと許して下さい。だってだって、オル・ゴール(体君)好きなんだもんーーー。まぁ、性格とかは仮面本体のなんだろうけどさ。プラス・マイナス0って事で。」

オル・ゴール・「何なんですか、それ。そう言えば、冒頭の会話での「この間の事」って何なんでス?」

ハム猫・「さぁ?」

オル・ゴール・「……殴りまスよ?」

ヴォーカル・「おぅ、殴れ。」

ハム猫・「ヒイィ!何で出て来てるんですか……っ!?」

ヴォーカル・「何でって、俺が出て来ないと始まらないだろ。」

ハム猫・「何ですか、その台詞。」

ヴォーカル・「殺されてぇのか?」

ハム猫・「冗談でっすっ!!……まぁ、多分風呂覗いたとかそんなんじゃないんですか……?」

ヴォーカル・「そんだけかよっ!?」

ハム猫・「そんだけって……。」

オル・ゴール・「それ、今考えタでしょう?」

ハム猫・「だって、こう言うのは読者様に想像を任せるほうが・サ☆」

オル・ゴール・「何爽やかに語ってるんですカ。」

ハム猫・「まぁ、こんな感じでヴォーカル・ヒロイン・オル・ゴール共に中々進展しない感じです。」

ヴォーカル・「まどろっこしいな……。いっそ……。」

ハム猫・「君が何か言い出すと大変な事になりそうなので猿轡☆では、こんなマイナードリ読んで下さって有難うございましたっ!!」

オル・ゴール・「皆さんも風邪には気を付けて下さいネ!」



戻る