オレは凪さん一筋だーーーーー。 ずっとそう思って来たーーーーー。 あなたに会うまではーーーーー……。 ーーー思い出ーーー
あれは…、合宿から帰ってきた頃だった……。
「あぁあ〜〜〜、マイエンジェル凪すゎ〜〜〜ん♪」 今日もまたいつもと同じ調子で猿野天国はノロけていた。 「ケッ、ノロけるならよそでやれ。見ててウザイわ。」 隣の席に座っている沢松は横目で見ながらそう言った。 「って言うか、暇ならパン買って来い。オラ。」 「パシリ代として100万いるぜ?」 パン代を受け取りながら猿野が言う。 「グダグダ言う前に走って来いやぁっ!!」 その言葉に沢松が入れたツッコミ(殴り)を軽くかわしながら、猿野は教室を出て行った。
「……ったく、人使いの荒い奴だぜ……。」
文句を言いながらも、購買部へ行き、パンを買う。 買ったパンを腕に抱え、自分のクラスに戻ろうと廊下を歩いているとーーーーー……。 前方に、誰かと話している鳥居凪を見つけた。
「なぁーーっぎすわぁ〜〜〜んっ!!」
バックに花を背負いながら、凪のほうに駆けて行く。 「あっ、猿野さん!」 猿野に気付いた凪が振り向く。 それと同時に、凪と話していた人物も猿野を見た。
その瞬間、時が止まった感じがした。
見たことの無い人だった。
きれいな栗色の髪ーーーーー。
小さく整った唇ーーーーー。 そして、何よりも印象的な…瞳ーーーーー。 何もかも、吸い込まれそうだった……。
オレはあの時、あなたに運命を感じたんすよ。
隣に凪さんがいたにも関わらず、あの時、オレはあなたしか見てなかった……。 オレの目の前には、あなたの存在しか無かった……。 自分の心臓の音が耳元で聞こえてたーーーーー……。
「……さん、…猿野さん……。」
「え……っ!?あっ、ハイ……ッ!!」 何度目かの呼びかけにやっと我に返った。 「大丈夫ですか?猿野さん……。」 「あっ、ハイ。全然大丈夫っす!……あの、凪さん…、こちらの方は……?」 さり気なく、凪に聞いてみる。 「あ、こちらは友達のさんです。さん、こちらが野球部の猿野天国さんです。」 二人の顔を交互に見ながら紹介する。 「初めまして、です。」 凪に紹介された後、も自ら頭を下げて、名前を言った。 「あっ…、こ、こちらこそ……。」 しどろもどろしながら、やっとの事で言葉を紡ぐ。 キーーンコーーンカーーンコーーーン
その時、ちょうど休み時間終了のチャイムが鳴った。
「じゃあ、猿野さん、また放課後。」 「……ハイっ、凪さん。」 自分もクラスに戻らなければいけなかったので、名残惜しかったが、その場を離れた。
「遅かったじゃねぇかよ。パン買ってきたか、パン。」
戻ると、沢松が不満そうな顔で待っていた。 「……やべぇかも……。」 「あん?」 猿野はただ、その一言だけをつぶやいた。
正直言って、忘れられなかった。
彼女の…、さんの姿が目に焼きついて離れなかった。
(くそぉ……!おれは凪さん一筋じゃなかったのかよ……っ!?)
女の子は好きだった。 この学校にもカワイイ子はたくさんいる。 でも、凪さんは特別だった。 全然、別な存在だった。 なのに、何故彼女を特別に感じてしまうのだろう……。
それからは、頭の中がボーーーッとしていた。
考えるのはさんの事ばかり。 ヤバイ……。 これは…、ホントのホントにマジ恋というやつなのだろうか……?
「おい!天国っ、大丈夫か……っ!?」
机に突っ伏して腐乱しているオレの顔を、上履きで蹴りながら言ってくる沢松。 「とっくに放課後だぞ!オラッ、とっとと野球部行きやがれっ!!」 そう言って、沢松はオレとバッグを教室から放り出した。
「〜〜〜……。」
ボーーーッ、とした頭でペタペタと廊下を歩きながらクラブに向かう。 と、その時、目の前に札束が落ちていても見逃しそうなくらいのオレの目が、あるものを捕らえた。 さんだったーーーーー……。
「あっ、あの……っ!!」
脳が命令を下す前に、すでにオレは目の前にいるさんに声をかけていた。 周りに人がいないので、自分だと思ったのだろうーーーさんはオレのほうに振り返った。
「あっ、猿野さん…でしたよね?」
さんはさっきよりは少し砕けた感じで言った。 「私に何か用ですか?」 ニコリ、と笑って言う。 「え!いや、あの、用って程の事は無いんですけど…、姿が見えたものだから、つい……。」 あたふたと腕を振りながら答える。 そんな猿野の様子を見て、は微笑んだ。 「フフ…ッ、本当におもしろいですね、猿野さんって。」 「そ…そうっすか……っ!?」
あぁ、だめだ……。
気持ちが止まらないーーーーー。 一言言葉を交わす度に、”好き”の気持ちが前進していくーーーーー。 あの時のオレには、”凪さん”というストッパーさえ意味を持たなかったーーーーー。
「さん……。」
今まで笑っていた表情が顔から消えた。 「ハイ?」 さんは、今オレが何を考えているのかも知らずに、無邪気に答えてくる。 「さん…オレ……。」 ”好き”の気持ちが一気に爆発して、オレの中からあふれ出す。 「オレ…、さんのことが、好きですっ!!」
その瞬間、襲って来る沈黙ーーーーー。
さんは、驚いた顔で、ただ目の前のオレを見つめていた。 ただ、耳が痛い程に静かな時間が流れて行く。
「さ……。」
「駄目です……。」 さんの名前を呼ぼうとした時、その声は小さなつぶやきに消された。
「駄目ですよ……。猿野さん……。」
俯いたさんが、本当に小さな声でつぶやく。 「何でですか……?」 オレはただ、漠然と聞いた。 「猿野さんは…、凪さんのことが好きなんでしょう……?私なんかに、その言葉を言ってはいけませんよ……。」 そう言うさんは少し震えていた。 そして、そういった後、さんはオレに背を向けて歩き出した。 「ま…待って下さいっ!!」 オレは反射的に歩き出したさんの腕を掴んだ。 「何でです……っ!?オレは…オレはあなたが好きなんです……っ!!凪さんは……っ!!」 「凪さんは……。」 さんのつぶやきは、オレの言葉を制止した。 「凪さんは…、あなたの事をとても嬉しそうに話すんですよ……。野球部の伝説を破ったこと……。いつも一生懸命頑張って練習していること……。あなたを見ていると、元気になれるって言ってました……。そんな彼女の笑顔を奪うような事を、私はしたくない……。」 掴まれた腕を振りほどこうともせずに、さんは言った。 「……っそんな事は関係ないっすよっ!!オレの気持ちはウソじゃないっ!!さんの…本当の気持ちを教えてくださいっ!!」 「…………っ!!猿野さん……っ。もう私にかまうのはやめて下さい……!そうでないと…、私の気持ちが崩れてしまう……っ!!」 振り返ったさんはーーーーー泣いていた……。 「猿野さんの気持ちはうれしいです……。でも…、凪さんも失いたくない大切な友達なんです……。お願いです……。いつもの凪さんを好きな猿野さんに戻って下さい……。私の事は忘れてください……。お願いです……っ!!」 そう言って、さんはただ泣くばかりだった。 「…………。」 さんの腕をしばらく掴んだまま、オレは黙っていた。 グイッ
「……え……っ!?」
そして、掴んでいたさんの腕を急に引き寄せ、さんを抱きしめた。 「さ…猿野さん……っ!?何して……っ!!」 腕の中で必死に抵抗するさん。 「分かりました……。明日からは…、オレは凪さん一筋なオレに戻ります……。だから…、だからせめて、今この時だけはこのままでいさせて下さい……。」 強くさんを抱きしめて言う。 「……はい……。」 しばらく黙っていたが、さんはその一言だけを口にした。 しばらくの間、オレはさんを抱きしめていた。 そして、さんを放した時、オレは”いつものオレ”を演じていたーーーーー……。
「すいませんでした。さっきの事は忘れてやって下さい!オレの馬鹿な行動で迷惑かけちまいましたね……っ。」
顔に笑顔を貼り付けながらーーーーー 『サヨナラ、サン。オレノ愛シタ人ーーーーー……。』 心の中のどしゃ降りの雨に気付かれないようーーーーー
「じゃあ、クラブに行かなきゃいけないんで……!」
そう言って、オレは足早にその場を去った。
「猿野さん……。」
後ろでさんがオレの名前を呼んだ気がした。
オレは振り返らずに、ただ走った。
さんの事を、振り切るように。
その日から、オレはさんに会わなくなった。
学校内を歩いていても、見かけることすら無い。 本当に、ただの思い出の中の人になってしまったように……。 でも…、今でもオレは覚えている……。 あなたを初めて見た時に感じた、気持ちを……。 忘れることの出来ない、あの気持ちを……。 〜〜〜後書き〜〜〜 ハム猫・「アンケートにあった、猿野で悲恋ドリを目指して挫折……。」 猿野・「てめーの脳ミソじゃあ、これが限界か……。」 ハム猫・「もう…、猿野別人すぎだし……。沢松(ハンサム様☆)さんとの掛け合い分っかんないし……。」 猿野・「何だよ…(ハンサム様☆)って……。」 ハム猫・「えーーー、この話の設定として、ヒロインさんは、凪さんは猿野の事が好きだ、と思っているという事を言っておかねばなりませんでしたね、ハイ。」 猿野・「(……無視かよ……っ!!)」 ハム猫・「いや、もぅ、悲恋って分かりませんわ……。基本的に悲恋って読まないんで……。…皆さん、どうでしたでしょう……?」 猿野・「感想・苦情、何でも来いだ!…でも、苦情の場合、あんまキツク言うとハム猫泣くからな……。オレの夢がこれ1つで止まらんためにもよろしく頼むぜっ!!」 |