「屑桐君、折り紙教えてっ!!」










想い届ける折り鶴










「…………断る…………。」
教室の自分の席で折り紙を折っていた屑桐無涯は、暫くの沈黙の後、静かにそう言った。
「何で〜〜〜っ!?」
今、目の前で大声を上げているのは…、確か同じクラスの””…とかいう奴か……。
「その言葉をそのままお前に返す……。オレにはお前に折り紙を教える義理は無い……。」
の顔も見ないまま、黙々と折り紙を折り続ける屑桐。
「むぅうぅ〜〜〜。いいもん、屑桐君がそのつもりでも、教えてくれるまでしつこくお願いし続けるもんっ!!」
はそう言って、頬を膨らまして向こうに歩いていった。
「…………。」
変な奴がいるもんだ、と思いながら屑桐は折りあげた鶴を見ていた。








「何かあったんですか、屑桐先輩?(?_?)」
部活中に朱牡丹録が聞いてきた。
「何がだ……?」
屑桐は、録に向き直って聞いた。
「いや、何か屑桐先輩がいつもと違う気な感じがしたんで……。(^_^;)」
「…………。そうか…、いや、何でもない……。」
何となく、自分でも分かっていた。
いつもの自分と違うことを。
理由は唯一つ。
である。



屑桐無涯という人物は、学校では恐れられている人物だった。
顔つきが恐いのはもちろん、喧嘩も強かったし、性格も…人に好かれるような性格ではなかった。
今までほとんど人に話しかけられたことは無かった。
野球部以外では……。

それが、今日いきなり1人の少女に話しかけられた。
相手は、自分を恐れているような感じではなかったし、文句まで言ってきた。
大した度胸だと思った。
相手が男で、あの時屑桐の機嫌が悪かったら、殴ってやっていたかもしれない。
屑桐には珍しく、少し…、動揺していた。
(女の扱いなんてのは分かったもんじゃないからな……。)



そう思い、再び練習を再開しようと思った瞬間ーーーーー……

「屑桐君ーーーっ!!折り紙教えてーーーっ!!」
グラウンドに大きな声が響いた。
一瞬、屑桐の体は強張った。
今考えていた人物ーーーだった。
声のした方向を振り返ると、そこにはフェンスに手をかけ、屑桐の方を意志の強そうな瞳で見つめているがいた。
「何なんだ、あいつ?(*_*)」
「屑桐さんに折り紙教えて欲しい、みたいな事叫びングしてたけど……。」
録と白春が言う。
「…………。」
屑桐はを無視して練習を再開しようとした。
「無視しないでよーーーっ!!折り紙教えて教えて教えて教えてっ!!」
練習を始めても、の声は止まなかった。
止まないどころか、どんどん大きくなる。
「…………はぁ…………。」
屑桐は諦めて、の元に向かう。
「何の用だ……。」
フェンス越しに対峙して言う。
「だからさっきから言ってるでしょ!私に折り紙教えてよっ!!」
は屑桐の瞳をじっと見つめて言った。
「オレが断ると言ったら、どうするつもりだ……?」
「練習中ずっと叫び続ける。」
は真顔で言った。
この女だったらきっとやるだろう。
「…………分かった…………。そのかわり、放課後の十分間だけだぞ……。」
このままずっと、他の野球部員達に迷惑をかけ続けるわけにはいかない。
とうとう、屑桐は折れた。
「わ〜〜〜いっ。ありがと、屑桐君!じゃあ、早速明日からよろしくねっ!!」
そう言って、は今までとは打って変わって嬉しそうな顔をして足早に駆けて行った。








まったく、オレは本当に厄介な奴の言うことを聞いちまったようだ……。
次の日、早速は折り紙を大量に持ってきた。
そんなに持って来ても使えないだろう、というような量を。
は、待ちきれないというように何度も「早く教えろ」というような事を言ってきた。
まったく…、放課後の十分間という言葉をちゃんと聞いていたのか……?



そしてとうとう、の楽しみにしている「放課後の十分間」が来た。
「やっとこの時間だねっ!屑桐君っ!!」
そう言って、は大量の折り紙を持って屑桐の席に来た。
「……で、オレは何を教えればいいんだ……?」
「折り紙。」
キッパリと言って来る
「…………。だから…、折り紙の何の種類を教えればいいんだ……。」
イライラする気持ちを抑えて、屑桐ははっきりと言った。
「う〜〜〜んと、ねぇ……。まず教えて欲しいのは”折り鶴”!」
その瞬間、不覚にも屑桐は驚いた顔をしてしまった。
いや、正直言って、驚いた。
高校生にもなって、折り鶴を折れない奴がいるのだろうか?
「お前…、折り鶴も折れないのか……?」
少し呆気にとられた声で屑桐は聞く。
「あ〜〜〜!それって、私に対するすっっっごく失礼な言葉だよっ!!そりゃあ、昔は少しは折れたけど……っ!!私はねぇ、すっごく手先が不器用なのっ!!だから、すぐに忘れちゃうの……っ!!」
それは、ただ単に記憶力の問題ではないのだろうか…、と思いつつも、それ以上気にかけるのは止めにした。
「……まぁ、とにかく折り鶴を教えたらいいんだな……。」
そう言って、屑桐は折り紙を一枚取った。
「よろしくお願いしま〜〜〜す!」








ーーー十分後ーーー

屑桐は、今までに無い疲労感を覚えていた。
「……まだ…、無理、なのか……?」
「うえぇうぅうぅう〜〜〜。」
目の前には、泣き伏せていると、ぼろぼろになった折り紙がいくつか……。
は…、本当に手先が不器用だった……。
フォローの仕様が無いほどに、不器用だった。
目の前でどんどん折り紙がただの紙くずになっていく……。
そんな光景を見たのは初めてだった。
教え始めて十分間、屑桐はずっと折り鶴を教えていた。
教えていたが、進まない。
十分間ずっと教えていて、なぜかは一つも鶴の形に仕上がらなかった。
「はぁ……。お前、諦めた方が良くないか……?別に折り紙なんか出来なくたって何も困らないだろう……?」
「ダメ……っ!!困るのっ、私には重大な問題なの……っ!!だからお願いっ!!私を見捨てないでぇ〜〜〜っ!!」
は、屑桐の制服の袖を掴んで、泣きじゃくった。
一体、何がこんなに重要なのか……?
そうも思ったが、これで断って、また煩くされても敵わない。
「分かった……。もう少し教えてやるよ……。」
そう言って、屑桐は椅子から立ち上がる。
「ホント……っ!?」
「その代わり、教えるのは放課後の十分間だけだぞ。それ以外の時間には教えないからな。」
荷物を持ち上げながら言う。
「うん!分かった!有り難うねっ、屑桐君っ!!私、家でも練習してくるからっ!!」
今までの泣き顔はどこへやら、は満面の笑顔で答えた。








それから数日間、屑桐はにずっと折り紙を教え続けた。
初めてが折り鶴を折れたのは、初めて教えたときから三日後だった。
しかし、一度折れてもすぐに忘れてしまうようで、何度も根気よく教える必要があった。

「もう、折り鶴は1人で折れるな……。」
やっとも折り紙に慣れてきた頃、屑桐はそうつぶやいた。
「うん。やっとだよーーー。これでも、家でいっぱい練習してるんだよ〜〜〜。」
今は、屑桐が次に教えている”鳩”を一生懸命に折っている最中である。
「そこ、間違ってる。」
「えっ、嘘……!あっ、ホントだっ!!」
屑桐も、この”に折り紙を教える”という事に慣れ始めていた。
ずっと子供じみた趣味だと言われ続けていた折り紙に、こんなに興味を示してもらえるのは、少し、嬉しいことでもあった。
の性格にも慣れ始めて、どう対応すればいいのかも、少しずつだが分かってきた。



この時間が、少しーーー楽しいと思えてきた。










そんな感じで、一ヶ月が過ぎただろうか。
今も、屑桐はに折り紙を教えていた。
が覚えた折り紙の種類も二桁になった。





そんなある日ーーーーー。

「屑桐君っ、今日の昼休み、お弁当食べたら屋上に来てくれない?」
急に、は言ってきた。
「何だ……?」
用があるのならここで言えばいいのに、と思いながら、屑桐は聞いた。
「何が何でもいいのっ!!とにかく来てよ!屋上っ!!」
そう言って、は走り去った。
の性格は、一度言ったことはこちらが何を言っても曲げない、というものだった。
つまり、オレがどう言っても、結局は屋上に行くしかないのだ。








昼休みーーーーー。


屑桐は、言われた通りに屋上に来た。
重い扉を押して、屋上に足を踏み入れると、が手すりに寄りかかり、空を見ていた。
「オイ…、言われた通り、来たぞ……。」
屑桐は、そんなの背中に声をかけた。
「良かった、ちゃんと来てくれて。」
そう言って振り返ったの手には、千羽鶴が持たれていた。
「……それ、どうしたんだ……?」
素直に、思ったことを聞く。
「これはね…、屑桐君にもらって欲しいの……。」
そう静かに言うは、いつもと少し違っていた。
「オレに……?」
オレは千羽鶴をもらう覚えはないんだが……。
普通、千羽鶴というのは入院した人や、試合前の人に渡すものではないのか……?


「これはね…、私の気持ちが折り込まれてるの……。」
そう言って、は千羽鶴をカサリ、と持ち上げた。
「この千羽鶴の一羽一羽折る時にね、折り紙に私の気持ちを書いたの。私の気持ちがいっぱい屑桐君に伝わりますように、って……。」
千羽鶴を見つめるの瞳は、どこか悲しそうでもあった。
「……何て…、書いたんだ……?」
聞いてはいけない事のような気がしたが、屑桐はその言葉を口にした。



「私はね…、こう書いたの……。



”好きです”って………。」




その瞬間、風が吹いて、の髪を、そして千羽鶴を揺らした。

カサカサ、という千羽鶴が揺れる音だけが響いた。





「この気持ち…、迷惑かなぁ……。」


は悲しげに笑って言った。





屑桐は暫く言葉が出てこなかった。
の事は嫌いではない。
むしろ…、好きだ……。
自分でも気付かないうちに好きになっていた。
しかし…こんな事は初めてで……。
自分の気持ちをどんな言葉で表したらいいのかが分からない……。



屑桐は、千羽鶴を見た。
にとって、折り鶴を千羽も折るなんて事はきっと大変な事だろう。
一日に何羽も頑張って折ったんだろう。

しかも…、その一羽一羽に自分の気持ちを込めて……。








「…………。」
屑桐は心を決めて、に近寄っていった。
だんだんととの距離が縮まる。
そして、の前まで来たとき……

「……オレも…同じ気持ちだ……。」
そう言って、の持っていた千羽鶴を受け取った。

「……ほ、本当……っ!?」
は信じられない、といった顔で言った。
「あぁ、本当だ……。お前に折り紙を教えている間、オレは本当に折り紙は楽しいものだと思った。お前がそれを教えてくれたんだ……。」
の折った千羽鶴を大事そうに持って、屑桐は言った。
「……良かった……!良かった……っ!!本当に良かったよぅ〜〜〜っ!!」
屑桐の言葉を聞いて、は急に泣き出してしまった。
「…………っ!?…どうしたんだ……っ!?」
「だって…、絶対ふられると思ったから……!こんな夢みたいな事起こるはず無いって思ってたから……っ!!」
しゃがみこんでひんひんと泣いている
「そんなに最初から決め付けてたのか……?」
「だってだって〜〜〜、屑桐君いつも恐い顔してたし、私なかなか覚えれないし、屑桐君いつも怒ってたし〜〜〜っ!!」
「オレのこの顔は元からだ……っ。」
の言葉に、少し怒りを覚えながら言う。
「でもでも、ホントにほんと?さっき言った事嘘じゃないっ??」
泣いて、少し赤くなった目で屑桐を見つめてくる
「あぁ、本当だ。嘘じゃない……。」
「よかったぁ……っ。」
屑桐の言葉を聞いて、はニッコリと笑った。






それから、と屑桐は2人で屋上を去った。





これからも、屑桐は放課後の十分間、に折り紙を教えるだろうーーーーー。


そして、も今まで以上に、その時間を楽しみにすることだろうーーーーー。










「そういえば、何で折り紙を教えて欲しいと言ったんだ?」


「えっとねぇ、それは、屑桐君の一番好きなものを知るのが、屑桐君を知るのに一番良いかなって思ったから……っ!!」



















〜〜〜後書き〜〜〜

ハム猫・「突発的に書きたくなって、下書きなしで直接打っちゃいました☆」

屑桐・「……何か言う事はあるか……。」

ハム猫・「……この人と後書き書くのはめっちゃ死にそうです……。」

屑桐・「…そうか…、なら死ね。」

ハム猫・「ぎゃふん!そんなにはっきりと……っ!!」

屑桐・「基本的なネタだけで書くのはお前にはまだ無理だ……。もっと話を練れ……。」

ハム猫・「ハイ。分かってます……。もぅ、屑桐さん別人♪特に最後……。何て喋らせればいいのかまったく分からなんだですばい……。ハイ……。」

屑桐・「……お前はどこの人間だ……。」

ハム猫・「ヒィ……!屑桐さんにツッコまれた……っ!!屑桐さんにツッコまれた……っ!!」

屑桐・「五光…食らうか……?」

ハム猫・「いえいえ、遠慮させていただきます。(汗)」

屑桐・「……はぁ……。とにかく、こんな管理人の文章を読んでやってくれた奴には感謝だな……。不快にさせたのなら、すまん……。最後に…感想なんかをくれると嬉しい…、と向こうの方で管理人が紙に書いて掲げている……。」



戻る