プロトの反乱。

この事を口にする者が減るにつれて、同時に過去に消されて行く話がある。

世界初の自立思考型ネットナビ。

そのあまりの力に、研究者達から恐れられた存在・フォルテ。

しかし、世界初の自立思考型ネットナビは、フォルテだけではなかった……。










ーーー遠い記憶ーーー










「フォルテ、今日も研究者さんのナビ倒したんだって?」
科学省のサイバーワールドの中で二体のナビが向かい合っていた。

「フン…、あんなに弱くて何が出来る……。」
一人はフォルテ。
言われた言葉にそっぽを向いて言い訳をする。
「もぅ…、フォルテは強すぎるんだって!」
そんなフォルテをたしなめるかのように怒るのは
フォルテと同時に、対になるように造られた、もう一人の自立思考型ネットナビだ。
「…………。」
の言葉に、フォルテはそっぽを向いたまま黙りこむ。
「コサック博士にまた心配させる事になるよ……?」
そんなフォルテを見て、は困ったように言う。
「…………っ。……すまない……。」
のその言葉に、一瞬目を見開いたフォルテは、暫くしてポツリと呟いた。
「謝るのは私にじゃないよ、博士にでしょ?」
そんなフォルテを見て、少し微笑んでから、はそう言った。
「フォルテの気持ちも分からなくも無いけど、もう少し別の方法で伝えたら良いんじゃないかな?」
元々自分の気持ち等を表現するのが苦手なフォルテには難しい事なのかもしれないが。
「…………。」
そのの言葉に口を閉ざしてしまったフォルテを見て、は苦笑した。

「……っそれより、お前はまだそこから出られないのか……?」
笑われている事に気付いたフォルテは、話題を変えるかのように顔を上げた。
「……うん…、まだ、かかるんだって。」
そう言って、は前に手を伸ばした。
腕を全て伸ばさずともそれに触れる事が出来る。


を囲むかのように張り巡らされたシールドだ。
は、生まれた瞬間にバグを持っていた。
それは、データの維持が弱いと言う事。
このシールド内でなければ、数分と持たないほどに、データの崩壊の進みが速い。
そのため、電脳空間を移動する場合も、このシールドを先に張ってからでなければ移動する事は出来ない。
コサック博士は、を生み出した時からずっと研究を重ねているが、中々上手く行っていなかった。


「早く…、フォルテとネットを歩いてみたいな……。」

シールドに触れる手を悲しげに見つめていたは、フとそう言ってフォルテに微笑んだ。
「……っ、すぐに…もうすぐ、治るさ……。」
そのの儚げな微笑みに、一瞬フォルテは言葉に詰まったが、出来るだけ微笑んでそう言った。
「うん、楽しみにしてる。その日が来たら、案内してね、フォルテ。」
ずっとシールドの中で暮らして来たは、あまり外の世界を知らない。
それ故に、ずっとフォルテとは約束をしていたのだ。
「私も、もうすぐここから出られそうな気がする。」
そう行って、は微笑んだ。










それから数日後ーーーーー。


同じようにサイバーワールドで2人が向かい合っていたが、その間には重い沈黙が流れていた。

「……フォルテ…、話は、聞いたよ……。」
は、目の前のフォルテから少し視線を逸らしながらも呟いた。
フォルテの行動にとうとう我慢を切らした研究者達がフォルテの消去を訴えたのだ。
勿論、コサック博士は反対した。
しかし、博士一人では多くの研究者達の意見を変える事は叶わず……。
フォルテは、消去は一先ず免れたが、シールド内に閉じ込められる事になったのだった。
「……そうか……。」
フォルテは、俯いて呟くのみ。
「……っでも、大丈夫だよ!すぐに誤解は解けるって!コサック博士も頑張ってるし…、それに……!」
そんなフォルテを元気付けようと明るく話すが、それでもフォルテが反応を示さない事に、は言葉を切った。
「……フォルテ。」
そして、小さく、しかしはっきりと名前を呼んだ。
「…………。」
その声に、フォルテは軽く視線を上げる。
「ちょっとこっち来て……?」
そんなフォルテと視線を合わせ、は手招きする。
「…………?何だ……?」
不思議に思いながらも、のその行動にフォルテは足を進めた。
3歩、との距離を縮める。
「もっと。」
何を考えているのか、それでもは手招きした。
「…………?」
一体何をしようとしているのか…、そう思いながらも、またフォルテは3歩足を進める。
「もっと。もっと近くに来て。」
今では、を守るシールドから2歩程しか離れていないのに、それでもはフォルテを呼んだ。
「一体何がしたいんだ?これ以上近付いたら、シールドにぶつかってしまうだろう……。」
何も言わずに、ただ手招きするだけのに、フォルテは疑問をぶつけた。
「良いの!すぐ分かるから!シールドのぎりぎりまで、近寄って?」
それでも理由を話そうとしないに、フォルテは軽く溜息を吐く。
そして、諦めたかのように足を進めた。
「これで良いのか?」
今では鼻の先にすぐシールドが張られている状態。
ここまでの傍に近付いた事は、今まで無かったかもしれない。
「うん、それで良いの。」
少し不貞腐れたようなフォルテの表情に、はにっこりと笑うと、つと背伸びをした。



「…………っ!?」



そして、丁度フォルテの額の位置に、シールド越しにキスをした。
その瞬間、フォルテは目を見開く。
「フォルテが早く出て来られるように、おまじない!」
未だにフォルテが固まっていると、そんな彼を見ては少し照れたように笑った。
「私がこのシールドから出られたら、皆を説明して、絶対にフォルテを迎えに行くから……!」
そんな、笑顔で励ますを見ていると、フォルテも自然と微笑んでいた。
「……フ、迎えに行くのは…オレからが良いのだがな……。」
そう言うと、2人で少し、笑い合った。

”すぐに、また会おう”そう約束をして、暫しの別れを告げた……。










「……何……っ!?何が起きてるの……っ!?」
科学省内だけでなく、サイバーワールドにも警告音が響き渡る。
いつものように一人でいたは、その突然な出来事に驚いて周囲を見る。
「博士……!コサック博士……!」
懸命に博士の名を呼ぶが、事態を説明してくれる声は返って来なかった。
「…………!フォルテが危ない……っ!!」
彼はまだシールド内に閉じ込められているはず。
この事態に逃げられなくて、怪我などしたら大変だ。
はそう思うと、瞬時にシールドを張替え、サイバーワールドを移動した。



「フォルテ……っ!!」



何度か場所を経由しながら、複雑に張り巡らされた科学省のサイバーワールドの片隅に辿り着いた。
「…………っ!?……いない……っ!?」
彼の名を呼んでシールドのあった場所を見ると、そこには何も無かった。
フォルテも見当たらない上に、厳重に張られていたシールドも、見張りさえもいなかった。
「……っ、何処に……っ!?」
この事態に、シールドのシステムが壊れて消えたのかもしれない。
彼ならばその間に逃げ出すはずだ。
しかし、今この状態に一人で歩くのは危険すぎる。
そう思ったは、フォルテを探すために再びワープした。










「…………っ!!」
何度かワープホールを潜って辿り着いた先は、警告の出ている区域。
出た瞬間に、目に入って来た光景。
「フォルテ……っ!!」
研究者達のナビに、フォルテが斬り付けられている瞬間だった。
咄嗟の事に、彼の名前を叫ぶ。
しかし、その距離は離れすぎていて……。
誰も、私がここに来た事に気付きもしない程だった。
未だに多くのナビがフォルテを取り囲む。
各々、武器を装備して、彼をデリートする気だ。
彼の消去命令が本当に出たのだろうか。
「…………っ!!」
すでに先程の攻撃で、フォルテは深手を負っただろう。
次に攻撃を食らえば、流石の彼も危ないかもしれない。
「……私は……っ。」
ダン、とシールドを拳で叩く。
遠く、小さな人影に見える彼らを、キッと睨み付けた。
自分の目の前で愛する人が殺されそうになっているのに、自分はここから出られないのか。
「……私は……っ!!」
元々戦闘用には作られなかった。
力も無い。
それでも、はシールドを力の限り叩き続けた。
だんだんと、拳の感覚が無くなっていく。
「……っ、死んでも良い……!だから…っ、だから、私をここから出して……っ!!」



ダン……ッ!!



一体何度目か、両の拳を振り下ろした瞬間、を閉じ込めていたシールドは、軽い音を立てて崩れ去った。

「…………っ!!」

その瞬間、目を見開いたは、我に帰ると咄嗟に走り出した。
今すぐに、彼の元に駆け付けたい。
彼を守りたい。
自分の体のデータが分解されて行くのも感じない程に、は急いでいた。

「……フォルテ……っ!!」





「これで終わりだ……っ!!」
不覚にもまともに攻撃を受けた後。
ふらついていたオレは、振り下ろされるソードを避ける事が出来なかった。
近付いて来るソードがスローに見える。
それでも、オレの体は動いてはくれなかった。



「……っ駄目ぇーーー……っ!!」



そんなオレを我に返らせた声。
聞き覚えのある悲痛な叫びに、オレは視線を向けた。

その瞬間。

がオレの前に庇い出た。



ザシュ……ッ!!



耳に痛いその音と共に、は地に倒れ伏す。
ナビのソードには、データの欠片が付着していた。

「な、何でお前がここに……っ!?」
斬りつけたナビも、急なの出現に驚きを隠せない。
「……っ、……っ!!」
オレは、傷を負った事も忘れ、に駆け寄る。
「お前…、何で……っ!?シールドは…、どうやって……っ!?」
彼女を腕に抱くが、すでにデータの崩壊が進んでいて形が崩れ始めていた。
「……っ、フォル…テ……ッ。」
オレが声をかけると、苦しそうな表情では名前を呼んだ。
「何でお前が……っ!!オレなんか庇わなくても……っ!!」
攻撃を受けたせいで、崩壊スピードが速まったらしい。
段々と抱き締めるの体が消え始め、手に感触を感じなくなる。
軽くなり、透き通り始める。
「……泣か、ないで……?」
そんなオレの頬に、は手を触れた。
「…………?」
の頬に雫が落ちる。
知らぬ間に、オレは涙を流していたらしい。
生まれて初めて流す、涙を。
「……私は…、フォルテを守れて…っ、幸せ……。夢にまで見たあなたに、こうやって触れられて…幸せ……っ。」
は、苦しみを堪えるように微笑む。
「…………っ!!」
そんな、彼女の細い手を掴む。
初めて感じる彼女の感触は、とても儚げで壊れそうなくらいにか弱かった。
「お願いだ、いかないでくれ……っ!!オレを…一人にしないでくれ……っ!!」
オレの涙がどんどんとの頬に落ち、が泣いているかのようだった。
「大丈夫…、私はあなたの中で生き続けるの……。私のデータをあなたに……。あなたの、回復に……。」
そう言うと、はゆっくりと手を伸ばし、切り付けられたナビマークに触れた。
の掌が段々と光りだす。
「…………っ!?」
すると、どんどんと崩壊していくデータが、自分に吸収されていく事が分かった。
「……なっ、……っ!?や、止めてくれ、オレは……っ!!」
「……最後の、お願い……。何があっても、生きて…、フォルテ……。」
はそう言って最後に微笑むと、微かなデータを残し、消えて行った。
腕の中にはもう何も残っては無かった。
初めて感じた温もりも、彼女の重みも。
ただただ、自分の体内が彼女のデータで暖かくなって行くだけだった。



「……っく……!」
何も残っていない自分の手を見つめながら、未だに止まらない涙を流す。
どうやったらこの涙を止められるのか、分からなかった。



ドゴォオォ……ッ!!



そんな時、近くで大きな爆発が起こった。
「……な……っ!?」
周囲のナビが辺りを伺う。
『「プロト」全域にさらなる破壊を確認!原因は「プロト」自身の”反乱”と思われる!!』
そんな奴らに、研究者から通信が入る。
『全員プラグアウトせよ!』
その言葉と共に、オレを取り囲むナビ達は消えて行った。

一人を除いては……。

「フォルテ……。命拾いしたと思ったら大間違いだ。」
目の前に立つナビ。
そう、を切りつけた、ナビ。
「…………!」
オレは、そいつを思い切り睨みつけた。
この手に微かに残る感触を想い。
こいつだけは、何があっても殺さなければならないと思った。
「キサマは消えるのだ!!全ての人間に裏切られてなぁっ!!」
奴が切りかかってくる。
そのソードが目の前に迫った瞬間。
オレの腕と足に付けられていたリミッタープログラムが光りだした。
プログラムが変化し、体に吸収されて行く。
「…………っ!?」
それを見た奴は、驚きに一瞬体を強張らせた。



シュア……ッ!!



その隙を逃さず、オレは奴に切りつけた。

オレの左腕の「ヒートブレード」で。


「ひ、ヒート…ブレード……!な…なぜ…、オレの力を…ヤツが……?」
倒れ行く中、ナビは最後の言葉を残した。
フォルテの力を初めて目にし、そして、消え行く者として……。



ドオォオ…ォォン



「オレは…信じない……。」
ナビの爆発の中、フォルテは立っていた。
流れる涙が頬を伝う。
「もう二度と、誰も……っ!!」


自分を陥れた人間達。
自分を攻撃してきた人間達。
自分からを奪った人間達。


その全てを、憎む事を心に決めた。

「人間も…ナビも……っ。全てオレが破壊してやる……っ!!」
炎が燃え盛る中、フォルテは叫んだ。
が最後に触れた、自分の胸に手を当てながら……。





「……そのために…、オレは生き続ける……。……。」

フォルテは、最後に呟き、その場を去った。


















〜〜〜後書き〜〜〜

ハム猫小判・「77077キリリク、フォルテ夢でした!茉莉花さんに捧げますっ!!」

フォルテ・「フン…、このような物、よく書けたものだな……。」

ハム猫小判・「いや、本当にリクエスト物なのに悲恋で申し訳無い……。ナビ設定は難しいね……。」

フォルテ・「捏造もいい所だな。」

ハム猫小判・「あはは〜、まぁ書きたいとは思ってたんですが。本当はヒロインさんがリミッター解除の鍵だったりとか考えてたんですけどね。」

フォルテ・「……在り来たりだな……。」

ハム猫小判・「ぐふっ、厳しい突っ込み有難う……。いや、しかし、少しでも楽しんで頂けたのなら良いのですが……っ。このような物で宜しければ、受け取って下さいませ……っ!!」

フォルテ・「まぁ、返品可能らしいからな……。好きにするが良い……。」

ハム猫小判・「くぅ、フォルテは喋らせ難いわ……!と、言う事でここまで読んで下さって有難う御座いました!」

フォルテ・「気が向いたら、また来ると良い……。運が良ければ…、会えるかもな……。」



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