「なぁ…、レーザーマン。」
暇そうにゴロリと横になっていたDSが、力無い声を掛けた。

「何だ、DS……?」
その声に、何処を見るでもなく座っていたレーザーマンは首を動かす。



「ナビも病気になるのか……?」



「……なっ……。」
余りにも唐突な、また余りにも意外なその言葉に、レーザーマンは言葉を失った。
「……どうしたのだ、突然……。まぁ、ナビなら病気と言うよりもバグと言った方が正しいだろうな。」
DSの無表情な顔からは、何を考えているのは読み取れない。
「何かあったのか?」
その言葉に、今まで上を見上げていたDSは、ゴロンと寝返りを打った。
「……オレ、とうとうバグったかな……。」
何処か遠くを見るような視線。
もの悲しそうな声。

余りにもいつもと違うDSに、レーザーマンはただただ視線を送った。

「最近さ…、何か胸がもやもやして…あいつの事を考えるといても立ってもいられなくて……。この腕の中に閉じ込めて、この手で滅茶苦茶に壊してやりたくて…オレだけの物にしたくなる……。」
空に向かって腕を伸ばしながら、DSは呟くように言った。
「……まるで恋の病、だな……。」
何処かで聞いた言葉。
ぽつりと呟いたその言葉に、DSはむくりと体を起こした。
「なんだ、やっぱり病気なんじゃねぇか。」
そう言うと、すっくと立ち上がり腰に手を当てた。
「……何処かへ行くのか……?」
一歩足を踏み出したDSの背中に、レーザーマンが声をかける。

「この病気の原因の所に、ね……。」

振り返ったDSは、至極楽しそうに笑ってそう言った。










ーーー求める心、閉ざす心ーーー










「や、久しぶり。」
ネットシティから少し離れた区画。
そこを歩いていたナビに、DSは声をかけた。
「…………?何方でしたっけ……?」
声をかけられた方は、暫くDSの顔を見つめた後、そう言った。
「酷いなぁ…、オレの事忘れちゃったの?」
DSは、人の良さそうな笑みを湛えてナビの腕を掴んだ。
「ちょっ、止めて下さい!本当に、あなたの事なんか知りませんって……!」
そんなDSの行動に、身を引くナビ。
「君はだろ?オレは知ってる。」
「な、何で私の名を……っ!?何を言われても私はあなたなんて知りません……っ!!」
DSの力に抵抗しようと、体が強張る。
「じゃあ、今この時からオレを知れば良い。」
拒絶に身を引くの腕を、強引に引っ張る。
「……っわ……っ!?」
急に引っ張られて、はガクン、と体勢を崩す。
そのまま、DSの腕の中に納まった。
「オレの全てを知って、君の全てを教えて……。」
腕の中に納まったの耳元で囁く。
「ちょ……っ!?離して……っ!?」
懸命に逃れようと腕の中で暴れるが、一向に腕の力が緩む気配は無かった。
「無駄な抵抗は止めた方が良いよ。余り君を傷付けたくないし、ね……。」
DSがそう言うと、腹部に鈍い痛みが走った。
「……っ、な……っ!?」
ゆっくりと視界が反転して行く。
意識を手放すまいと必死に抵抗をしたが、最後にDSの赤い瞳を移すと、そこで記憶は途切れた。





「……帰ったのか、DS……。」
DSが出て行ってから暫くして、ふと気配を感じたレーザーマンは背後を振り返った。
「あぁ、まあね。」
振り返ると、DSは肩に女型ナビを担いでいた。
そのナビを、ゆっくりと、優しく瓦礫の上に横たえる。
「……それが、病の原因、か……?」
気を失っているナビの頬を、そっと指で撫でるDSを見て、声をかける。
「……そうだね……。」
その質問に、レーザーマンへ視線は向けずに、答える。
「やっと手に入れた……。」
撫でていた頬に、手を添える。
まるで、舐めるかのようにそのナビを見つめるDSの目には、愛情とも憎悪ともつかない色が浮かんでいた。
楽しみにしていた玩具を手に入れた子供が、さぁ、どうやって遊ぼうと嬉々としているようにも。
どうやって壊して楽しもう、と考えているかのようにも見えた。
「…………。」
本人は気付いているのか、そのナビに余りにものめり込んでいる姿に、レーザーマンは一抹の不安を覚えた。
「……DS……。」
すでに、レーザーマンの声など届いていない程に、ただそのナビを見つめ続けるDS。
何かにここまで興味を示す事が無かった故に、それが本当に手に入らなかった時にどうなるのか……。
感情の制御を行う事の無かったDSだからこそ、想像するに恐ろしかった。










「…………?」

そっと、瞼を開く。
頭が、思考が、何もかも真っ白で、自分がどうなったかも中々思い出せなかった。
確か…、オペレーターに頼まれて、用事を済まして……。
帰る途中で、突然……。

「…………!」

やっと思い出して、はっきりと目を開いた。
無音の暗闇の世界で、初めて目に入ったのは鉄格子。
どこに繋がるとも分からない程に高い鉄の檻の中に、自分が閉じ込められているのだと言う事を理解するまでに、暫く時間を要した。

「ここは…、どこ……?」

ゆっくりと、立ち上がる。
見渡す限り真っ暗闇。
ある物とすれば、瓦礫の山。
それ以外は、何も無くて。


「ねぇ!ここから出して!私を帰して……っ!!」


どんなに声を大にして叫んでも、ただただ闇に吸われて消えて行くだけ。

「私が何をしたって言うの……っ!?何も関係無いじゃない……!あんな人、知らないのに…っ、知らないのに……っ!!」
鉄格子を掴んで、屑折れる。



「酷い事言うねぇ……。」



何も無い空間から聞こえた声。
それは、自分をここまで連れて来た人物の声。

一番、聞きたくなかった人物の声。

「そんなにここから出たい?」

見てはいけないと思いつつも、咄嗟に顔を上げる。

闇の中にぽつりと、同じ闇色のナビが立っていた。

「…………っ!!」

恐怖と憎悪に、言葉が出ない。

ただただ目が釘付けになっている中、そのナビは一歩一歩近付いて来た。



「ねぇ……。」

目の前まで来て、一気に顎を掴まれ、顔を上げさせられる。

「何でだろうね…、こんな感情は初めてなんだ……。君、何かした?」

見下ろす者と見上げる者。

視線は確かに合っているはずなのに、互いに映し出している物は違っていた。


「最近、おかしいんだよね。君の事しか考えられない。頭がおかしくなりそうなんだ。だから、助けてよ。」

ニコリと微笑んで、手に力を入れる。

「…………っ!?」

座り込んでいたを、無理矢理立たせる。

やっと、目と目の高さが合っても、やはりの目にはDSの姿は映っていなかった。

ただただ、そこに映るのは闇。

おぞましい程の恐怖のみ。

今まで見つめていた綺麗な瞳は濁りきっていて。

今まで焦がれてきた微笑みは欠片も無く。

恐怖に引きつる表情を映すばかりだった。



「……殺して……っ。」



やっと、無音の世界に搾り出せた言葉はそれが精一杯で。

でも、それで十分で。

今望むのは、それだけ。


はらはらと涙が頬を伝い、DSの手を濡らしていく。




「……ねぇ、オレを見てよ……。」

そんなに、声をかける。


ーーーこんな顔させたい訳じゃ無いのに。


「オレを見て。オレを感じて。」

泣き伏すの頬に手を添える。


ーーー笑った顔を…見たいだけなのに……。


「オレを……。」




ーーーどうして、オレは……。










「君の笑った顔が見たいだけなのに……。」





微かに目を細め、DSはゆっくりとの首に手をかけた。




















〜〜〜後書き〜〜〜

ハム猫・「……ハイ!77777キリリク、DS夢でした!サキさんに捧げますっ!!遅れまくってすみませ……っ!!」

DS・「何かオレのネタって死にネタばっかじゃない?」

ハム猫・「ごめんなさい……。本当はこれギャグで書こうとしてましたって言っても信じてくれないよね?」

DS・「信じれねぇだろ……。」

ハム猫・「だってねぇ…、DSの性格と言うか、キャラ位置的に難しいと言うか……。」

DS・「ふーーーん…、そんなもんかねぇ……。」

ハム猫・「本当は後半もっと時間かけて表現したかったんですが、ちょいと進展早すぎたかなぁ…と……。静かな感情の動きとかをもっと表現したかったなぁ…とか。」

DS・「ま、それはお前の技量不足だろ。」

ハム猫・「あぁ、はいはいっ、そうですね!」

DS・「折角攫って来れたのになぁ……。もうちょっと良い思いさせろよ。」

ハム猫・「うふふ、いつかそう出来たら良いんですけどね……。ホント、ヒロインさんお気の毒ですわ。」

DS・「ま、悲恋ってか死にネタ嫌いだったら悪いんだけど、少しでも楽しんでくれたのならそれで良いや。まともな夢出来るかどうかは分からないけど、良ければまた来てみな。オレが相手出来るかもしれねぇぜ?」


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