毎日の日々が同じ事の繰り返しで。 私はここにいる意味があるのかな? 私は周りに必要とされてるのかな? そんな事を考えつつも、毎日をただただ流されて生きて来た。 世界各地で起きてる事件や戦争も、自分とは隔てられた世界の事のようで。 自分には関係無い、どこかでそう冷めた考え方をしていて……。 そう、この体験をするまでは……。 自分の周りの大切な人々の存在に気付いてなかったーーーーー……。 ーーー世界の約束ーーー
「ここは…、何処……?」
気が付けば見知らぬ場所。 確か私は学校から帰っていたはずなのに。 いつものように、何を考えるでもなく、ただ家への道を歩いていた。 少しボーっとしていたせいだろうか、急に角から出て来た車への反応が遅れて、ただ腕で顔を庇う事しか出来なかった。 自分は死ぬんだろうかーーー…、そう思ったはずなのに。 パンッ、パパン!
そんな音に目を開くと、そこには見た事の無い景色が広がっていた。
神隠し…って、一気にどう見ても外国な感じの場所まで連れて来る事は出来ないよね……? じゃあ、ここは天国?私もう死んじゃったの……?
何が起きたのか全く理解できなくて、混乱は増すばかり。
まずは自分の身の回りを確認してみる。 服装…は制服のまま。鞄…は、咄嗟に顔を庇った時に落としてしまったのか、持っていなかった。
「特に怪我をしてる感じは無いけど……。」
軽く自分の体を触ってみて、痛みが無い事を確認する。 痛みが無いのは夢だからか……? 「……って痛い!」 試しに頬をつねってみるが、しっかりと痛かった。 触覚もちゃんとしているし、匂いも感じる。 ふ、と上を見上げると、見た事も無いような飛行船が沢山飛んでいた。 はためく桃色と黄色の旗。 がやがやと楽しそうに響く人々の声。
明らかに、自分の知っている国ではなかった。
世界史や地理には詳しくは無いが、それでもあんな旗は見た事が無い。 「ここは…、何処なの……?」 再び、ポツリと呟く。
取りあえず周囲を窺うと、今自分のいる場所は路地裏らしい。
人々の喧騒は少し離れた所から聞こえて来る。 そ〜っと道を辿って声の方に行ってみる。 少し顔を覗かせてみると、そこには一昔前のような服装をした人々がいた。 ふわふわと裾の広がるドレス。豪奢な飾りがついた帽子。 そして…軍服の男の人達……。 「…………っ!?」 明らかにおかしい。 国も分からない上に、時代まで分からない。 「いや…、何かの伝統的なお祭りって事も……。」 そう自分に言い聞かすが、今ここでこの格好で出て行くのは目立ちすぎる。 「取りあえず、この裏路地を辿って行くしかないみたい…か……。」 それで何処か行く所がある訳ではないが、下手に騒ぎを起こすよりはまず良い。 少しでも人気の少ない所へ出る方が良いだろう。
そう考えると、私は今来た道を引き返して行った。
「この道、何処まで続いてるんだろう……。」 そう思いながらも延々と続いて行く道を辿って行く。 暫く歩いた頃に、前方に人影が見えた。 軍服を来た男の人が2人。 (やばい……っ!!)
一般市民ならまだしも、軍の人にこの格好で見つかるのはかなり危険な事だろう。
そう思い、踵を返そうとした時……。 ジャリッ 冷静を装っていても爆発しそうな心臓は、動こうと思った体に付いて来てはくれなかった。 「ん……?」 軍人の一人が振り向く。
「…………っ!!」
はっきりと、目が合ってしまった。 「おやおや、こっちにも可愛い仔ネズミちゃんがいるぜ。」 そう言った男の人が体を横にしたので、向こう側にもう一人女の子がいるのが見えた。 「ん?本当だな。……しかし…、変な格好だな。都の方で流行ってたっけ?」 そう言ったもう一人が近寄って来る。 私は、低く息を吸い込んで恐怖に後退して行った。 「そんなに怖がらなくても大丈夫だからさ。一緒にお茶なんてどうだい?」 軽く、しかし逃げる事を許さないようにしっかりと、私の腕を掴んできた。 「そっちの仔ネズミちゃんも一緒にね。」 私を捕らえておいて、その軍人は向こうの女の子にも笑顔を向けた。 「通して下さい、私は用事があるんです!……その子も離してあげて下さい、怖がってます……っ。」 その女の子は、一生懸命に軍人に訴えた。 「怒ったとこも可愛いじゃないか。」 しかし、彼女のその訴えは、軍人には全く届いていなかった。 (……っやばい……!) 逃げ場の無いこの状況に、本気で恐怖を感じていると……。
「やぁ、ごめんごめん。捜したよ。」
向こうの女の子の背後に、急にすらりと背の伸びた青年が立っていた。 「なんだ?お前は。」 青年の急な出現に驚く軍人達。 「この子の連れさ。君達、一寸散歩してきてくれないか。」 その青年はそう言うと、くいっと指を動かした。 「あ、ちゃんとこの子も離してね。」 そう言って、その指の動きに従うかのように向きを変えた軍人の腕から私を助け出して、彼らを見送った。
「ぁ、あの…有難う…ございました……。」
私は、改めて見る青年の美しさに見惚れて気の抜けたようなお礼を言った。 「…………。」 一方、彼はじっと私の目を覗き込んでくる。 「…………っ。」 その真剣な瞳に微かに頬が高潮するのが分かる。 少し引き腰で後退する。 すると、急に彼は口の端を軽く上げて笑った。 そして、軽く身を翻して、向こう側の彼女の元に向かう。
あ、連れって言ってたっけね……。
何か話してる……。 しかし、何だか様子が変だ。 後ろを窺うような、しかし振り向きはしない。 どこか緊張したような雰囲気だ。 「知らん顔をして…、追われているんだ。」 小さな声でそう言うと、彼は腕を組んで彼女と歩き出した。 「…………!」 目の前でボーっと立っていた私はハッと気が付いて、2人に道を開けるために横に寄った。 がーーーーー……。
「……え……っ!?」
2人が通過するその時、彼は私の手をグイッと引っ張った。 「えぇ……っ!?」 結果、右腕は彼女と組み、左手は私と繋ぐ形になっていた。 「ぁ、あの、これはどういう……っ!?」 急な行動にドキドキしつつも彼に問いただす。 「あそこにあのままいたら危険だしね。それに、君は放って置けない。」 軽く微笑み、彼はそう言った。 「…………っ!?」 状況が全く理解出来ない上にそう言われては、もはや黙ってる事しか出来ない。 右も左も分からないこの世界で、私が出来る事はこの青年に付いて行く事だけなのかもしれない……。
少し歩いていると、前方の家のレンガの隙間から、黒いアメーバのような物が出て来た。
それは段々と形を取りだし…、小さな帽子を頭に乗せた人形となった。 「……ぁ、あれは……っ!?」 今まで、アニメやゲームの世界での事と思っていた事が目の前で起きている。 その恐怖と不安に、ついつい彼の手を握る手に力が入る。 「ごめん、巻き込んじゃったね……っ。」 彼は私の言葉に返事をするように、そう言って左手に力を込めた。 だんだんと歩くスピードが速まる。 その加速と共に、私の心臓もドクドクと脈打った。 「こっち。」 いつの間にか後ろと前から挟み撃ちにされていた私達を、彼は左手に抜けた道へ引っ張って行った。 しかし、その道からも黒い物体は出て来る。 後ろはすでに塞がっているし、前から来られたらもう逃げる術は無い。 私はそう思い、強く硬く目を閉じた。 「このまま。」 すると、途端にそう言った彼の声が耳に入った。 「…………っ!?」 その言葉に目を開けた瞬間。 「……ひ……っ!!」 ふわり、と言う浮遊感。 黒い物体に挟み撃ちにされる、と言う時に、彼は宙に浮かんで行った。 「ぅわわわわわ……っ!?」 私は当たり前のような反応で、足は竦み、ただただ彼の腕にすがり、奇声を上げる事しか出来なかった。 「大丈夫だよ、足を出して。歩き続けて。」 彼の右側にいた女の子も同じだったようで、彼は優しくそう言った。 「…………っ。」 彼の言葉に、私は頑張って縮こまっていた足をゆっくりと伸ばした。 空中で歩くと言うのは難しい物で、普段どれだけ意識せずに歩いているかが良く分かる。 ゆっくりと、思い出していき歩くテンポも安定してくる。 彼女と彼、そして私は、空中をふわりふわりと歩いていた。 「そう、怖がらないで……。……上手だ。」 だんだんと歩くテンポを掴んでいく私達を見て、彼は楽しそうに笑う。 下では街を埋め尽くさんばかりの人々が楽しく笑い合っている。 そんな光景を眼下に眺めながら、私は彼の手の温もりを感じ、今までに体験した事の無い感覚を楽しんでいた。 先程までは恐怖に身を竦ませていたと言うのが嘘のように楽しい気分になり、私の顔にも気が付けば微笑が浮かんでいた。 もっと空中歩行を楽しんでいたいと思ったが、その時私達はある建物のテラスへと降り立った。
「僕は奴らを引き付ける。君達はちょっと待ってから出なさい。」
そんな彼を見て、私は軽く頷いた。 「いい子だ。」 私と彼女を交互に見て彼はそう言うと、トンと軽く手摺を蹴り、真っ直ぐに下へ落下して行った。 「……え……っ!?」 その急な行動に驚き、急いで手摺に駆け寄る。 すぐに下の広場を見たが、そのどこにも、さっきの青年はいなかった。 「…………。」 うっかり彼に見入って忘れていたが、考えたら私はこの店に来たかった訳でも、何処かに行く当てがある訳でもない。 ……これから先、どうしろと言うのだろうか……。 「……ぁ、あの……。」 そんな事を考えていると、隣の彼女が声をかけてきた。 「大丈夫?その…顔色が良くないけれど……。」 暫くは一緒にポーっとしていたが、彼女が心配そうに顔を窺って来ていた。 どうやら、これからの絶望さ加減に私の顔は少し血の気を失っていたようだ。 「ぁ、いえ…、いえっ、その何でもないんです!」 取りあえず、両手を振って心配させまいと笑顔を作る。 「あなた…何処の方?服装も変わっているし……。ここに一緒に来てしまったけれど、あなたはここに用がある訳ではないのよね?」 少し困ったような…訝しがるような様子で聞いてくる。 「…………。」 その問い掛けに、私は俯いてしまった。 スカートの裾を握り締める。 本当の事を言っても、信じてはもらえないだろう。 しかし、こんな服装をしている以上、問い掛けられた以上、何か説明をしなければならないのは確かだ。 「……ぁ、あの……っ。」 私はまだ言う事が浮かんではいないけれど、顔を上げて声をかけた。 しかし……。 「何か理由があるのね……?まだ若いのに…、何か困っているのなら、私の家に来る?小さな帽子屋だけど、泊めてあげる事くらいは出来るわよ?」 返ってきた言葉は、想像しようも無い言葉だった。 「…………っ。」 彼女の言葉に驚いた顔をしていると。 「私はこの店に妹に会いに来たの。少し話をするから…その間待っててくれる?」 彼女はそう言ってテラスの戸を開け、中へ入って行った。 「…………。」 私は、ただただそんな彼女の背中をポカンと口を開けて見つめる事しか出来なかった。
「あれ〜、お姉ちゃん変な友達がいるのね?」
その店の出口で、彼女の妹らしき人が私を見てそう言った。 彼女の妹さんは今風…と言うと不思議な感じだが、お洒落で化粧もちゃんとしているような人だった。 周りの対応を見ていると、どうやらこの店の看板娘らしい。 「そんな事言わないの!……ごめんなさいね。」 困ったように笑いかける彼女に、私もまた苦笑で答える。 まだ「友達」なんて良い関係では無いけれど。 今の私には、この人しか頼れる人がいない。 「……でも、ねぇ、お姉ちゃん。本当に一生あのお店にいるつもりなの?」 後ろに控えている私なんか無視して、妹さんは彼女に問い掛ける。 全くもって、妹さんの性格があっさりさっぱりした性格で良かった。 ここでまた深く突っ込まれたら、大騒ぎになっていた所だろう。 「……お父さんが大事にしてたお店だし……。私、長女だから……。」 そう思っていると、妹さんの言葉に、彼女は少し俯き気味に答える。 「違うの!帽子屋に本当になりたいのかって事!」 そんな彼女の態度に、妹さんは声を上げた。 「そりゃ……。」 そんな言葉に、彼女は口をつぐむ。 しかし、その時店の中から出て来た男の人が妹さんに声をかけた。 その声を切欠に、彼女は逃げるかのように私の手を取った。 「私、行くね。」 「お姉ちゃん!自分の事は自分で決めなきゃ駄目よ……っ!!」 私と去っていく彼女の背に、まだ何か言い足りないような妹さんは、声を上げた。
「ごめんなさいね、急に引っ張ったりして……。」
暫く歩いて路面蒸気車に乗って、彼女はポツリと呟いた。 「いえ…、私の方こそ……っ。」 少し曇っている彼女の表情を見ると、彼女にも何かあるらしい。 満員の路面蒸気車の中、私の格好はそれなりに注目されてはいるが、街の中心から離れて行く分、まだましだった。 しかし、急に会った面識も無い人に、どう言った言葉を投げかけて良いのか分からない。 元々、人を慰めたりする事は得意ではなかった。 「……そう言えば、まだ名前も言ってなかったわね。私はソフィーよ。さっき話していたのは妹のレティー。あなたは?」 暫し沈んだ表情だった彼女は、急に私の顔を見てそう聞いた。 そう言えば、全く自己紹介も何もまだだった。 「ぁ、そのすみません!私は…。です!」 「そう、って言うのね。良い名前ね。」 ソフィーは私の名前を繰り返すと、優しく微笑んだ。 「ソフィーさんは…私の事聞かないんですね……。」 少し、ソフィーの顔を窺いながら、ポツリと聞いた。 「ソフィーで良いわ。……だって、あなたは悪い人ではなさそうだもの。そりゃあ、格好も見た事の無い服だけれど、それは関係ないわ。少し不思議な人って言うだけ。」 そう言ってくれたソフィーが、何だかとても温かくて。 少しだけ、涙が出かけた。 この人に会えて良かった。 まだまだ分からない事だらけだけれど、今はまだやっていけると。そう思える。 「でも…、さっきの人は誰だったんだろう……。本当に魔法使いなのかしら……。」 ソフィーは、ふと外の景色を見やり呟いた。 「さっきの…、金髪の彼、ですか……?」 私はソフィーに話しかけたが、彼女はただ街の景色を遠く眺めるだけで、私の言葉は届いていないようだった。 (……これは……。) そう、彼女のあの目は、恋をしている目。 遠く見つめるような、誰かを求めているような、懐かしむような……。 彼女は彼に恋をしたんだ……。 それは、確信に近い直感。 少し、チクリと胸が痛んだ。 〜〜〜後書き〜〜〜 ハム猫・「うっかり始めてしまった映画沿いハウル夢。……難しっ!!」 ハウル・「おや、何だか最初から苦戦してるようだね?」 ハム猫・「うわっはー、まだ本編で名前も出てないのに有難うございます。すでにソフィーが偽者ですな。感情が合ってないよ。」 ハウル・「あはは、これから先が思いやられるね。」 ハム猫・「爽やかに笑われると余計に怖いです……。」 ハウル・「まぁ、細かい所は置いておいて、大体の流れは出来てるんだろ?」 ハム猫・「はい、そのつもりです…けど。」 ハウル・「…………。」 ハム猫・「あの〜〜、ハウルさ〜〜〜ん?」 ハウル・「さて、ここまで読んでくれて有難う。次の話でまた君に会えると良いんだけど……。まぁ、この通りな管理人だからね、この先の保障は出来ないけれど、それでも良ければまた来てくれ。」 |