ーーー私の幼馴染は心配性ーーー










パタ パタ パタ パタ

「今日も来たね……。」
蛇神尊の教室にやってきて、一緒にお昼を食べていた牛尾御門は苦笑しながら言った。
「…………。」
はぁ、と溜息をついて蛇神は席を立つ。
その数秒後にーーーーー……



「尊ちゃん〜〜〜〜〜っ!!」



ガラリッ、と勢い良く教室の扉が開かれた。
扉を開けて立っていたのは、、十二支高校の二年である。
そして、蛇神尊の幼馴染でもあった。
「尊ちゃん尊ちゃん尊ちゃん尊ちゃん尊ちゃん〜〜〜っ!!」
その少女、は蛇神の名を連呼しながら教室に入って来た。
そして、先程まで蛇神がいた席、牛尾の前に行った。
「尊ちゃんってば〜〜〜!」
そして、おもむろにその場でしゃがみ込んだ。
「うわぁあ〜〜〜ん!どぅしよう〜〜〜っ!!」
はそう言いながら、机の下に非難していた蛇神の顔の両側の長い髪の毛をむんずと掴んだ。
「……まずは落ち着く也……。」
早々に見つかって、あきらめた蛇神は机の下から出てきた。
そして、手近にある椅子を引き寄せて、そこにを座らした。



ちなみに、この光景は、今に始まった事ではない。
最低でも、二日に一度は起こると言っていい。
すでに、蛇神のクラスでは見慣れた光景になっていた。
初めての時は、クラス中が蛇神が「尊ちゃん」と呼ばれている事に衝撃を受けた。
大雑把に言うと、蛇神の幼馴染のという少女が、ほぼ毎日困った事を引き起こしているので、その相談にやって来ていると言う訳だ。
大体のところは、宿題をしてくるのを忘れたとか、お金を持ってくるのを忘れたとか、傘を忘れたとか言うような事である。
そして、流れ的に蛇神のお昼を少し分けてもらって最終的にはのんびり話をして終わると言う感じである。
しかし、今回は違っていたーーーーー。





「して、今日は一体何事也……?」
に向き合って、蛇神は聞いた。
「あのね…、尊ちゃん……。」
何故か、は泣きべそをかいている。
「今日ね、男の子に…告白されたの……。」



ガッターーーンッ!!



その言葉が発せられた瞬間に、蛇神はお弁当箱を落とした。
「ぅわぁ!どうしたの、尊ちゃんっ!?お弁当落ちちゃったよ……っ!!」
あまりの音の大きさに泣きべそをかいていたことも忘れ、蛇神の顔を覗き込む。
「……い…いや、何でもない…也……。」
一生懸命平静を装おうとしているが、クラスの誰から見ても、動揺の色ははっきりと見て取れた。
「……そうなの……?」
この教室でたった一人、蛇神の言葉を信じている少女が椅子に座りなおした。
「えっと…、それでね…、その人に何て言えば良いのかな…って……。初めてだから…、こういうの……。」
俯き、少し悲しそうに言う
は…、その男子をどう思う……?」
聞かれて、はチラ、と蛇神の目を見た。
「それが…、クラスが違うから全然知らないの……。見た目は…優しそうだったけど……。」
そう言うと、また下を向き、もじもじとする。
「こういう場合は、何て言ったら良いのかなぁ……?」
助けを求める視線で蛇神を見る。
「……の思う心を述べるが良い……。」
は、蛇神に言えば何でも解決すると思ってきた。
今までが大体そうだった。
しかし、今回は蛇神の態度は違っていた。
「尊…ちゃん……?」
蛇神は、冷ややかに、そう一言言っただけだった。
蛇神の顔が、これ以上頼っても無駄だと言う事を語っていた。
「どうしたの……?尊ちゃん、いつもと違う……。」
少し不安になり、声をかける。
いつもと違う幼馴染は、黙ったままだった。
ちゃん、その彼には、すぐに返事をしなくてはならないのかい?」
そんな二人を見て、牛尾が話しかけた。
「え…、ううん。少し待って下さい…って、考えたいから…って言っておいたの……。」
急に牛尾に話し掛けられて、少し驚きつつも返答する。
「うん。それは、いい選択だよ。……僕は、ちゃんの素直な気持ちを言ったら良いと思うよ。その彼の事が分からないのなら、素直にそう言って、まずはどんな人かを知るために付き合い始めても良いし、もしちゃんに好きな人がいるのなら、はっきりそう言って断ればいい。」
そう言って、牛尾はには気付かれないように、そっと蛇神を見た。
「まずは、少し落ち着いて自分の気持ちを考える事だよ。時間はあるんだし。」
ニッコリと笑って牛尾は言った。
「……うん……。分かった……。ありがとう、牛尾さん……。」
少し、元気を取り戻したはゆっくりと微笑んだ。
「……じゃあ、私1人で考えてみるね。本当に、有り難う。」
そう言って、は蛇神のクラスを出て行った。






「自分の気持ち…か……。今まで深く考えた事なかったなぁ……。いつも尊ちゃんに頼ってばっかりだったし……。」
廊下を歩きながら、はつぶやいた。
「私が頼るのって、尊ちゃんには…迷惑なのかなぁ……?」






「さて、蛇神君。君は何を嫉妬してるんだい?」
が去った後のクラスで、牛尾は蛇神に向き直った。
「…………っ!?我は嫉妬などしておらぬ……っ!!」
その瞬間、蛇神は声を荒らげて言った。
「本当かい?なら、何でそんなに恐い顔をしているんだい?そのせいでちゃんは恐がっていたみたいだけど……。君だって、僕が言っていた事ぐらい考えただろう?」
牛尾は蛇神の目を見て言った。
「別に、我は…嫉妬などはしておらぬ……。」
蛇神は、俯き静かな声で言った。
「あれは…、の問題也……。我が口出しして良い問題ではない……。自身が考え、自身で答えを出さなければならない……。」
俯いて、静かに言う蛇神。
「だとしても、君のあの態度は少し酷いと思うよ。ちゃんは君の事を頼っているからね。あまり傷付けると、君の事嫌いになってしまうかもしれないよ。」
そう言って、牛尾はお昼を食べ始めた。
「…………。」
蛇神は、ただ黙って握り締めた自分の手を見つめていた。








「う〜〜〜ん……。」
は教室で唸っていた。
(そろそろ私も尊ちゃん離れした方がいいのかなぁ……。)
腕を組み、考える。
(小さい頃からずっと頼ってきたからなぁ……。……考えたら自分ひとりで解決した事って無いかも……。)
尊ちゃんももう高校三年生……。
受験で忙しい時期になるし、私が尊ちゃんに頼って迷惑ばっかりかけてたら、尊ちゃんも大変だよね……。


(よしっ!!ここは、ひとつ、尊ちゃん離れしてみますか……っ!!)
は、決意を新たにして、燃えていた。










「う〜〜〜ん……。」
ここはの部屋。
家に帰ってから、または唸っていた。
(考えたら、どう返事して良いかよく分かんないんだよね……。)
腕を組みながら、くりっ、と首をひねる。
「別に好きな人はいない…しなぁ……。でも、だからといって、付き合いたいわけでもないし……。」
目を閉じて、また唸る。
「こういう時は、尊ちゃんに…って、ダメだっ!!尊ちゃん離れするんだった……っ!!」
う〜〜〜、ダメだなぁ……。
そう呟きながら、は椅子に座りなおす。
「まだ時間はある…よね……。」
は、窓の外の夜空を眺めながら言った。










それから三日間、未だにの気持ちは答えを見つけていなかった。
好きな人はいない…と思う。
しかし、だからと言って例の「彼」と付き合いたいわけではない。
そういう場合にどう言えば良いのか、今のには分からなかった。


「どうしよう……。早く答えてあげた方がいいよね……。」
そう思っても、考えはいたちごっこで一向に答えをはじき出してはくれない。
「尊ちゃ〜〜〜ん……。」
は机に突っ伏して、ぽつり、と呟いた。
はここ三日間、蛇神の教室には行っていない。
が、「尊ちゃん離れ」として第一にやっている事だ。
しかし、実際は行きたい衝動を抑えるのが大変で、気持ちがおかしくなりそうだ。
これだけ自分の生活に蛇神が入り込んでいることに、今更気付いて少し悲しくなった。






「今日も来ないね……。」
一方、蛇神のクラスでは牛尾が、毎日のように来ていたが急に来なくなって心配していた。
「どうしたのかな……。」
蛇神の席の隣に立って呟く。
「蛇神君…、君は何か知っているのかい?」
尋ねるが、蛇神は黙ったままだった。
ただ、険しい顔をして黙っている。
「心配なら、見に行ってみたら?」
その言葉に、少しだけ表情を変える。
蛇神も、この時の存在の大きさに初めて気付いていた。
毎日のように自分を頼ってやって来るを、一時期は鬱陶しくさえ思っていた。
しかし、失って初めて気付く、とはよく言うが、確かには蛇神の生活の一部と化していた。
今になって思う。
が来てくれて、あの笑顔を見れた時、自分が本当に心の底からの喜びを感じていた事を。
あの笑顔が、自分の一日の全てだった事を。
もう一度、あの笑顔が見たい。
見れるだろうか?あの愛しい笑顔を。
聞けるだろうか?あの愛しい声を……。










その日の授業も終わり、まだ憂鬱な気分で帰る準備をし、廊下を歩いていると……。
「あの…、さん……!」
後ろから、声をかけられた。
「…………?」
振り返ると、そこには例の「彼」。
今、一番会いたくない相手がいた。
「あの…さ。そろそろ返事聞きたいんだけど……。」
その「彼」はの顔を窺うようにして言った。
「……あ…、はい……。」
口からは、何故かその言葉が出た。
自分でもはっきりしない意識の中、どうせ待っても答えは出ない、とどこかで考えていた。



「で、僕とは…付き合ってくれるかな……?」
いまは、手近の教室に入って、例の「彼」と対峙するように立っている。
「…………。」
は俯いて黙ったままだ。
「もし、僕の事が分かんないって言うなら、友達からでもいい。とにかく、付き合ってよ。」
その「彼」は優しい口調で言う。
「…………。あの……。」
手に持っている鞄をずっと見ていたは、ゆっくりと顔を上げて口を開いた。
「あの…、私、ずっと考えたんですけど……。付き合うとかそういうのは無理です……。」
恐る恐る口にした言葉に、彼の表情は曇った。
「何で?他に好きな人でもいるの……?」
「いえ…、いない…ですけど……。」
はまた俯く。
「なら、何の問題があるの?友達からでも駄目なの?」
そう言って、「彼」はゆっくりと近づいてきた。
「…………っ!?」
そんな「彼」にの体は強張る。

何故か、恐怖を感じる。


助けてーーーーー。


「そんなに恐がらなくても良いよ。」

一歩、また一歩と近付いて来る。


助けてーーーーー……。



「僕は、本気だよ?さんが好きなんだ……。」

「彼」の手がに届きそうになる。


助けてーーーーー…、尊ちゃん……っ!!


「ごめんなさい……っ!!」

「彼」がに触れようとしたその時、は咄嗟に走り出した。
教室の後ろのドアから出る。
「あっ、待って……っ!!」
後ろから、「彼」の声が追ってきたが、それを無視して走り続ける。
恐くて恐くて、目を瞑って闇雲に走る。
抑えていた涙が流れ出る。


その時ーーーーー……。





ドン……ッ!!





「…………っ!?」
急に誰かとぶつかった。
驚いて、顔を上げると、そこには蛇神がいた。
「……尊…ちゃん……。」
「どうした…、何があった也……っ!?」
走ってきたが泣いているのを見て、何かあったのだと思った蛇神は、の肩を掴み聞いてくる。
「あ…、尊ちゃん……っ。」
ずっとずっと、会いたいと思っていた蛇神が目の前にいることの喜びがこみ上げてきて、先程の事を忘れかけたその時ーーーーー……。


「「「…………っ!!」」」
向こうの方で、数人の男子生徒の笑い声が聞こえてきた。
「さっきの聞いたか……っ!?」
「本気にしてたぞ……っ!!」
「ってか、お前演技派だなぁ〜〜〜っ!!」
そのような内容の会話も聞こえてくる。
その会話が耳に入った瞬間、は頭が真っ白になった。





ダマサレターーーーー……。





私は良い様に騙されただけだったんだ……。
真剣に悩んだ三日間も、本当は意味の無いものだったんだ……。
何も言葉に出せない間、ただ頬から涙がポロポロと落ちて行くばかりだった。

「何でだろうね……?私の方から…、振ったのに……。」
ただ止まらずに、無感動に流れ続ける涙を拭いながら言う。
蛇神は、何があったのか分かったのだろう、何も言わずに、ただを見ていた。
「泣くなんて…おかしいよね……。」
何時までも、止まってくれない涙を手の甲で拭う。
…、何故に来なかった……?」
静かに、蛇神が聞いて来た。
「…………?」
蛇神に顔を向ける。
「何故に、我のクラスに来なくなった……?」
少し、困ったように聞いて来る。
「尊ちゃんに…、迷惑かと思って……。」
「迷惑……?」
蛇神が聞き返す。
「私が、毎日のように尊ちゃんに頼ってばっかだったら…、迷惑かな…って……。尊ちゃん、もう受験生だし……。嫌に思われてるかな…って思って、尊ちゃん離れしようと思ったの……。」
落ち着いて、ゆっくりと一言ずつ話す。
「我から…離れる……?」
蛇神の表情が曇った。
「今まで、ずっと尊ちゃんに頼ってばっかで、自分で何か解決した事って無いから…、私も、自分の力で何とかしなきゃなって……。」
俯いて、静かに話す。



その時、急に蛇神に力強く抱き締められた。



「へ……?…尊ちゃん……?」
「そのような事を言うな……っ!!」
強く、ただ強く抱き締めて言ってくる蛇神。
「何言ってるの……?」
力強く抱き締められて、少し苦しいな、と思いつつ、蛇神の顔を窺う。
「我から離れるなどと、言わないでくれ……っ!!我には、主が…が必要なのだ……っ!!」
普段の蛇神からは想像出来ないほどの、悲しげな声。
その声に、蛇神がどれほどの事を思っているかが込められていた。
「……尊…ちゃん……。」
は、抱き締めてくる蛇神の背中に腕を回した。
「尊ちゃんは、私の事嫌じゃないの……?迷惑じゃないの……?」
ゆっくりと、確認するように聞いて来る。
「そのような事は思ってはいない……。これからも…、我の側にいてはくれぬか……?」
抱き締めていた腕を放し、の顔を窺う。
「良いの……っ!?これからも、尊ちゃんに会いに行って良いの……っ!?」
その言葉に、蛇神は優しく微笑んで答えた。
「……っ本当はね、私、辛かったの……っ!!尊ちゃんに会いに行けなくて、悲しかったの……っ!!毎日、毎日…、会いたくて仕方なかったの……っ!!」
は、蛇神に抱き付きながら言った。
瞳には、涙をためて。
しかし、その涙は先程のものとは違う。
嬉しくて、愛しくて、流した涙である。



私、今気付いたーーーーー……

「あのね…っ、私…尊ちゃんの事、大好き……っ!!」






それからは、いつもの日常に戻った。
前と変わらず、昼休みごとには蛇神の元にやって来る。
しかし、ただ一つ違う点を上げるとしたら、それは、そこにのお弁当もある、と言う事。
あれからは、蛇神のクラスでお昼を食べる事にしたのだ。
今日もまた、蛇神と牛尾とは、楽しそうに笑いながら、昼休みを過ごしている……。








〜〜〜おまけ〜〜〜

後日、あの例の「彼」を含む少年達は、卒塔婆を持った恐ろしい形相の人物に、成仏させられましたとさ。













〜〜〜懺悔文って言うか、もう終身刑〜〜〜

ハム猫・「……いや、もう……。何て言いますか…、謝りようの無いくらいにヘボどりーむ……。」

蛇神・「死を持って償う也……。」

ハム猫・「それが良いですね!……ってぇ、やめて下さい。そんな事。」

蛇神・「しかし、それしかあるまい……。これは、人に送って良い物とは到底思えぬ……。」

ハム猫・「くそ……!何でオイラはこんなに文才無いんだよ……っ!!これのどこが甘めなんだ……っ!?最初のノリで引っ張ろうかと思ったら、お約束のようにダークは内容に……。」

蛇神・「どうにかならぬのか、その頭……。」

ハム猫・「これでも、ギャグ好きなんですよ……っ!?なのに、書いてるうちにシリアス要素が……。」

蛇神・「はぁ……。本当にすまぬ、あゆさ殿……。リクエストに全くと言って良いほどに添えてはおらぬが、こんな物でもよければ、貰ってやって欲しい……。管理人には、後でしっっっかりと言いつけておく也。」

ハム猫・「え……っ!?何か、そこで恐い事言ってる……っ!!」

蛇神・「主は気にするな。どちらにせよ、あと少しで終わる人生よ。」

ハム猫・「(恐……っ!!)本当にすみません、あゆささん……。本気で自分の脳ミソのちっぽけさを呪いました……。しかも、今回で気付けば、蛇神夢ってほとんどヒロイン泣かせてますね……。」

蛇神・「パターン化した夢しか書けぬよになっているからな……。」

ハム猫・「まぁ、こんなサイトのキリ版を踏んでしまったのが運の尽きだったと思って、無視しちゃって下さいね♪」

蛇神・「それでは、あゆさ殿がこれを読んで、怒りに震えていない事を祈る也……。」



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