「明日、どこかに出かけようか?」

先輩にそう言われたのは、ある日突然でした。










誓いの指輪










「え……っ?」
急な出来事に事を飲み込めなかったはすっとんきょうな声を上げた。
「いや、君が何も用事が無かったらでいいんだけど……。明日は久しぶりにクラブも無いことだし……。その…、僕達、付き合い始めてから…デート…とかしたことなかったろう……?」
牛尾は少し恥ずかしそうに頬を染めて言った。
「あ…、ハイ……っ。」
その言葉にも照れてしまって、下を向く。
「クラブがある時はやっぱり野球に夢中になっちゃうから……。その…、良ければ明日は…君のためだけに過ごしたいんだ……。」



十二支高校の野球部は有名です。
私は、その十二支高校野球部の一年マネージャーをやっています。
牛尾先輩は野球部のキャプテン。
当たり前のごとく、野球部の練習は毎日遅くまで続きます。

私達が付き合い始めてから一ヶ月近くが過ぎましたが、毎日の練習のせいで、2人で出かけたりしたことは一度もありませんでした。
私は、野球をしている牛尾先輩を見るのが好きだったし、野球部の仕事も好きだったので、そんなに苦にはならなかったけど、やっぱり先輩からこんな言葉を言ってもらえるのは嬉しい事です。



「はい……っ。明日は…何も無いですよ!一緒に出かけましょう……っ!!」
緊張して声が少し上ずってしまっていた。
「じゃあ、どこが良いかな……?」
そんなににっこり微笑みながら、牛尾は聞いてきた。
「は……?」
本日第二段の間の抜けた声。
「明日は、君が行きたい所に連れて行ってあげるよ。」
ますますにっこりと微笑みながら、牛尾は言う。
「え〜〜っと…、う〜〜〜…んと……。」
は頭を抱えて考えたが、急なことに頭が混乱していて、上手く答えを見つけ出すことが出来ないでいた。
「あ…、いや、そんなに無理に考えなくてもいいんだよ……。……じゃあ、明日は色んな場所を見て歩こうか。」
目の前でうんうんと唸っているを見て、牛尾は助け舟を出してくれた。
「……すみません……。」
自分の頭の回転力の遅さを呪いつつ、は牛尾の優しさを嬉しく思った。








ーーー次の日ーーー

「あっ、すみません……!遅れました……っ!!」
バタバタとが待ち合わせ場所に走ってきたのは、待ち合わせの時間よりも十五分早かった。
「そんなに急がなくてもよかったのに……。待ち合わせの時間にはまだ十五分もあるんだし。」
ぜいぜいと肩で息をするに牛尾は優しく言う。
「え……っ!?じゃ…じゃあ、先輩はいつ頃来たんですか……?」
驚いたようにが聞く。
「僕は、この辺りを少し歩いとこうかと思ったから……。」
ニッコリと微笑む牛尾。
そんな牛尾の笑顔を間近で見たは、顔が赤くなってしまった。
「さて、じゃあ、まずはどこに行こうか?」
の手を取ってエスコートをするように聞いてくる。
の目の前には、色々な店が並んでいた。
かわいい小物店や、雑貨屋、おもちゃ屋、CD店、洋服屋にペットショップ。
それに手作りのアクセサリーの店もあった。
「え〜〜〜っと……。」
しばらく、それらの店を眺めてからが指差したのは、アクセサリーショップだった。
「あそこがいいですっ……!!」
が元気良くそう言うと、牛尾はの手を握り歩き出した。
「何か欲しい物があったら言ってもいいよ。」
アクセサリーショップに入る途中、耳元で牛尾がささやいた。
「…………っ!!そ、そんな事出来ませんよ……!ちゃんとお金は持って来てます……っ!!」
真っ赤になりながら、必死に訴えるを見て、牛尾はクスリ、と笑う。
「そうかい……?僕は何か君に贈りたいんだけどね。」
少し意地悪そうに微笑んで牛尾は言った。
(そんな顔で言うなんて反則だ……っ。)
はそう思ったが、口には出せずにいた。




店の中は、かわいらしい造りになっていた。
全体的に淡い色で統一されており、所々に、これも手作りかと思われるリースなども飾られていた。
少し小さめの店内には、すでにお客さんがたくさん来ていた。
きっと人気がある店なのだろう。
カップルの姿もちらほらと見られた。
がまず見に行ったのは、指輪のコーナーだった。
トテトテと歩いていって、じーーーっと見つめたままは動かなくなった。
「…………?」
不思議に思い、牛尾はの後ろから覗き込む。
「……っかっわいぃ〜〜〜っ!!」
その途端、は感嘆の言葉を漏らした。
見ると、それは細かい花の模様が彫られた指輪だった。
金色と銀色のタイプがあるようだ。
「かわいいなぁ〜〜〜、いいなっ、コレ!」
そう言って、値札を見たは固まった。
しばらく固まって、急にすっくと立ったと思うと、乾いた笑いをしながら別のコーナーに行った。
どうやら手の届かない金額だったらしい。
一体いくらくらいだろう?、と思い牛尾が値札を見ると…、まぁ、確かに高かった。
これだけ細かく作っているのなら相応の値段なのだろうが、買うのにはちょっと決心がいるかもしれなかった。
を見ると、今度は首飾りを見ていた。
今度も何かいいものを見つけたようだ。
色々と手にとって眺めている。
そんなを愛しそうに牛尾は見つめていた。





店を出たときは、ゆうに三十分は過ぎていた。
は結局、葉っぱを形どったガラス細工が付いている首飾りを一つ買ったようだった。
「あぅ〜〜〜!すみませんっ!!何か、勝手に長々と見ちゃって……っ!!牛尾先輩暇でしたよね……っ!?」
店をでた途端に、は牛尾に頭を下げた。
「何言ってるんだい。言っただろ?今日は君のために過ごしたいって。君が楽しんでくれたら、僕はそれで十分だよ。」
「先輩……。」
「それに…、アクセサリーを嬉しそうに見ている君を見れたのは僕にも嬉しいことだったしね。」
またもや真っ赤に染まる
「本当に、君はかわいいね……。」
そんなを、牛尾は目を細めて見た。
「なっ…、何言ってるんですか……っ!!」
「本当だよ。僕は、君を本当に愛しいと思っているし、君と会えて良かったと思ってる。君が僕を好きになってくれて本当に良かったと思ってる。」
を真っ直ぐに見つめ、の頬に手を添えながら言う牛尾。
その瞳は何だか熱っぽかった。
「せ、先輩!次はあの店に入りましょう……っ!!」
何だか牛尾がいつもと違う気がして、は急いで次の店に入っていった。
(何だろう……。何だか牛尾先輩がいつもと違う……?)
は心の中で、少し不安に思った。





その後は、小物店に行ったり、雑貨屋を覗いたりした。
そして、ゲームセンターに入って遊んだりもした。(牛尾先輩が、ぬいぐるみを取ってくれました。)





「そろそろお昼にしようか?」
しばらくお店を見て回った後で、牛尾がに言った。
「……そうですね。もう1時ですし……。」
久しぶりにこういう所に来たので、ついはしゃいでしまって時間を忘れていた。
「朝歩いてたら、少し向こうに良い感じの店を見つけたんだ。良かったらそこにしないかい……?」
「はい。いいですよ。」
ニッコリと微笑んで、は牛尾の後を付いて行った。
(何だかいつもと違うと思ってたけど…、私の思い違いかな……?)





牛尾先輩が言っていた”いい感じの店”というのは決して大きいとは言えない店だった。
しかし、あちらこちらに店主のこだわりがうかがえる、確かに感じのいい店だった。
”こだわりの店”と言ったところか。
キィ…っと扉を開けると、静かな落ち着いた曲が耳に入ってきた。
キッチンに店主が1人、そして、店の中のテーブルにお客さんが3人程……。
繁盛している、とは言えなさそうだが、店主の顔からも、お客さんの顔からも”満足”している気持ちが伝わってきた。
「あそこに座ろうか。」
そう言って、牛尾は窓際の席を指差した。



「僕はミートスパゲティを。」
「あっ、じゃあ私はオムライスを……。」
注文をしてから、外を眺めながら午後はどこに行くかを2人で話していた。
そんな内に、料理は運ばれてきた。
「わぁ、おいしそうですねっ!!」
やってきた料理を見て、すぐには言った。
どうやら、店主はお皿にもこだわっているようで、縁にはきれいな模様が細かく描かれていた。
「じゃあ、いただきまーーーす!」
パクリ、と一口口にする。
「…………っ!!ホントにおいしいっ!!牛尾先輩が”いい店”って思ったのに間違いはありませんでしたねっ!!」
君に喜んでもらえてよかったよ。」
それから、食べ終わるまで、は本当にニコニコと嬉しそうにしていた。





店を出てから、またしばらく他のお店を回った。
ペットショップでケージの中の犬や猫達と遊んだり、本屋で牛尾にお勧めの本を聞いてみたりした。



本当にあっという間に時は過ぎて行った。



「あ〜ぁ、もう夕日が沈んじゃいますね。」
帰り道、とぼとぼと歩きながらが言った。
「今日がもっともっと長く続いたらいいのに……。」
牛尾と2人、夕日が辺りを真っ赤に染めている道を、駅に向かって歩いていた。
「そう言ってもらえて嬉しいね。初めてのデートは成功ってところかな?」
隣で牛尾が嬉しそうに言った。
「……でも、また一緒に来ればいいんだし、遅くなったら君のご両親が心配するだろう?」
「……そう、ですですね……。また、一緒に色んな所行きましょうね!約束ですよっ!!」
は、少し考えてから言った。
「……君……。」
急に牛尾の声が真剣なものに変わった。
「…………?」
どうしたのだろう、と思い、は牛尾を見る。
「今日は…、最後に渡したいものがあるんだ……。」
そう言って、牛尾は上着のポケットから小さな箱を取り出した。
「開けてみてくれないか……?」
「あ、はい……。」
そう言って渡された小さな箱の包み紙を丁寧にはがしていく。
「…………っ!!これって……っ!!」
中に入っていたもの…、それは、最初に入ったアクセサリー店でが欲しがっていた指輪だった。
「え……っ!?あの、でもこれすごく高かったはずじゃあ……っ!?」
手に指輪の入った箱を持っておろおろする
君…、僕が初めて君に僕の気持ちを打ち明けた時のことを覚えているかい……?」
の言葉には返答せず、牛尾は静かに喋り始めた。
「牛尾先輩……?」
(あの時と一緒だ……。何だかいつもと違う……。)
はまた、少し不安を覚えた。
「あの時、僕は君にこう言った。”今までこんな気持ちになった事は無かった。君を見るたびに心が熱くなって、君を見るたびに心が締め付けられるように痛い。誰よりも、何よりも君を大切にする。そして君に寂しい思いはさせない事を誓う。どうか…、僕と付き合ってはくれないだろうか……?”と。……でも、僕は野球部のことばかり気にしていて、あまり君との時間を作っていなかった。君の側にいていなかった。だから…、僕はだんだん不安になって来たんだ……。」
牛尾はを見ていると、辛くて言えないというように、目を閉じていた。
「君を好きな気持ちは今も変わらない。むしろ、付き合い始めてからもっと、ずっと君のことを好きになった。この気持ちは、僕の命をかけても誓える。でも…、君の気持ちがどうなのかは、僕には分からない。そう思うと、不安はどんどん大きくなる。……今の僕は…、君がいないと生きていけないんだ……。」
最後の方の声は、小さくかすれていた。
今では、もう牛尾は地面を向いている。
まるで、自分にのしかかる不安に耐えられないかのように……。





そんな時、牛尾は自分が抱きしめられるのを感じた。
牛尾はゆっくりと目を開ける。
「牛尾先輩……?私も先輩が好きですよ?先輩を愛してます……。もう、1人で不安にならないで下さい……。先輩には私がいます。私は先輩から離れませんよ。……たとえ、先輩が嫌だと言っても…ね……。」
は、クスリ、と笑って言った。
牛尾も、を抱きしめる。
「本当かい……っ。僕は、君を今まで通り、好きでいていいんだね……っ!!」
「当たり前じゃないですか。それに、私は野球をしている牛尾先輩を見るの好きなんですから。今まで、苦に思ったことなんてありませんよ。」
強く、強く抱きしめてくる牛尾の背中をぽんぽん、と優しくたたきながらは言う。
「僕は、もう一度誓いを立てるよ……。今度は、この指輪に誓う。僕は、これからもずっと君を愛し続ける。ずっと、大切にする。ずっと、側にいる。」
牛尾は、を抱きしめていた腕を放し、指輪の箱を持っているの手をしっかりと自分の手で包み込みながら言った。
「たとえ…、君が嫌だと言ってもね……。」
牛尾は、ニコリ、と微笑んだ。
「フフ……ッ。」
そんな牛尾を見て、は少し笑った。
牛尾も笑った。
2人とも、互いに顔を見つめながら、そのまましばらく一緒に笑っていた。








「でも、本当にこんなに高いもの、ありがとうございます……。」
駅に着いて、電車を待っている間には言った。
「いや、本当に僕は何か君にあげたかったんだよ。今まで、何もあげた事はなかったし……。少しは”恋人”の気分ってやつを感じてみたかったしね。」
「…………っ。」
ついつい、牛尾の台詞に照れてしまう
やっぱり、まだ牛尾のこういう台詞には慣れていないようだ。
「……学校にはして行けませんけど、ずっとずっと大切にしますね……っ!!」
はニッコリと微笑んだ。
牛尾の頬が少し赤く染まった気がした。
「あっ、電車が来たようだよ!」
牛尾の言葉に線路を見ると、が乗る電車がホームに向かって走ってきていた。
「あっ、本当だ!じゃあ、牛尾先輩、また明日、ですねっ!」
がベンチから立ち上がり、笑顔で牛尾に手を振った。
それと同時に、電車がホームに到着した。
「それじゃあ……っ!!」
が電車に乗り込もうとした時……。
君、ちょっと待って……っ!!」
牛尾の声がしたので振り返ると、その瞬間、頬にキスをされた。
「…………っ!?」
今まで以上に顔を真っ赤にして、口をパクパクさせている
「初デート記念だよっ。」
牛尾は少し悪戯っぽく笑った。
「じゃあ、また明日ね。」
牛尾がそう言った瞬間、電車の扉は閉まった。
未だに顔が赤いを電車の窓から見ながら、電車が発車していくのをしばらく見送った。





君…、愛しているよ……。」

牛尾は、人の少ないホームで1人、つぶやいた。
















〜〜〜懺悔文〜〜〜

ハム猫・「ハイ!4500番のキリリク、牛尾先輩(白)の甘々ドリームですっ!きくちともかさんに捧げますっ!!」

牛尾・「これのどこが甘々なんだい……?」

ハム猫・「う゛……っ!!……それは言わないで……。これでも頑張ったんだよぅっ!!ネタ何個も考えたんだけど、途中から牛尾先輩が黒っぽくなってきたりとか、周りの人達の方が目立ってきたりとか、甘く無かったりとか……っ!!」

牛尾・「それは言い訳にならないよ。しかも、何ヶ月待たしてるんだい?きくちともかさんに失礼だとは思わないのかい?」

ハム猫・「それも分かってますよっ!!本っっっ当に失礼しましたっ!!こんなに遅くなってしまったのに、こんな品で……。牛尾先輩偽者ですし、もう、文章が稚拙すぎますし……。返品バリオッケーですので……!」

牛尾・「返品とかの問題じゃない気がするけど……。」

ハム猫・「私をこれ以上追い詰めないで下さい……。何分、ドリーム書き始めてまだまだのヒヨッコですので……。思い通りに文章書けません……。」

牛尾・「何だか、店の説明ばっかりだしね……。」

ハム猫・「それは私も思います。何でですかね?」

牛尾・「僕に聞かないでくれ。(ニッコリ)」

ハム猫・「うわ、きっつ。しかし、今回のキリリクで、リクエストを受け付けてドリームを書くことの難しさを知りました。自分で思いついたのを好きに書くのとは違いますもんね。」

牛尾・「これからも、頑張って精進していくんだよ。」

ハム猫・「ハ〜〜〜イ。分っかりました〜〜〜。」

牛尾・「では、本当にこんなドリームになってしまって申し訳ない……。良ければ、これからもここに来てくれると嬉しいよ。」



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