私の彼はとても優しい。 とっても優しいからこそ…、時々もどかしくなる。 ーーー優しくて、やさしくてーーー 「グライド……!」
人の多い休日のネットシティ。
そこをぶらぶらと歩いていると、愛しい彼の姿が目に入り、私はつい駆け出した。 「おや、さん。」 私の声に、彼は嬉しそうに振り返った。 「偶然だね!グライドは…今日はどうしたの?」 そんな彼の横に辿り着き、私は長身の彼の顔を見上げる。 「今はやいと様の言いつけで、新しく出るチップの予約をしに行く所なんですよ。」 私の質問に、彼は穏やかに答える。 「やいとさん、か……。」 綾小路やいと。 彼のオペレーターであり、ガブゴン社社長令嬢。 何度か画面越しには見た事がある。 気の強そうな、でもグライド曰くとても優しい人なんだそうな。 彼はそんなやいとさんをとても大事にしていて、言われた事は大抵何でもしている。 それがナビとして当たり前ではあるけれど……。 「ねぇ、じゃあ予約した後は時間空いてるの?」 私は思考を変えると、つと彼の手を握った。 久しぶりに会えたのだ。 休日のデートをしたいと思っても悪くは無いだろう。 「あ…、その…、その後はまた別の用事がありまして……。」 勝手に期待して嬉しそうな顔をしていたのだろう。 私を見ると、グライドはとても言い辛そうにそう言った。 「……そっ…か……。うぅん、良いの。……でも、付いて行くくらいは良いよね?」 そんなすまなそうにしている彼を見て、私は明るい表情を作った。 「えぇ、それは…さんが大丈夫でしたら……。」 にこりと笑った私を見て、彼もまた微笑んだ。
「やっぱり人多いね〜〜〜。」
ざわざわとざわめくネットシティ。 「それは…、やはり休日ですしね……。」 そんな周囲を見て、グライドは苦笑する。 まるではぐれそうなくらいに多かったから。 繋いでる手に、少しだけ力を込めた。 「…………っ。」 すると、少し驚いた顔をしたグライドは、その後にきゅっと握り返してくれた。 「…………!」 それだけで、私の顔には笑顔が浮かぶんだ。
チップの予約も終え、後は残りの用事を片付けるだけとなり、また違う店に行く途中……。
ショーウィンドウが並ぶショッピング街。 多くのナビの間を縫って進んでいる時……。 「……あ……っ!!」 急に、グライドが声を上げた。 「……どうしたの……っ!?」 がそう聞くよりも早く、グライドはどんどんと進んで行く。 辿り着いた先には……。 「これは……!以前、やいと様が欲しがっていたレアチップ……っ!!」 ショーウィンドウに豪華に飾り付けられた一枚のチップ。 それに見入って、グライドは感激していた。 「早速購入しなければ……っ!!」 そう言うと、颯爽と店に入ろうとする。 「ちょ、待ってよグライド!でも、ここに「非売品」って書いてるよ……っ!?売ってもらえないよ……っ!!」 そんなグライドの腕を、一生懸命に引っ張る。 「分かってますよ、交渉して来るんです!」 しかし、そんなの言葉も聞かずにグライドは店に入って行く。 すでに、目の色は変わっていた。 「……ちょ……!もうっ、グライドの馬鹿!やいとさん馬鹿ーーーっ!!もう知らない……っ!!」 そんな全く自分を相手にしていない態度に、は涙を浮かべながらも消え行くグライドの背中に叫んだ。 「……本当に…、もう知らないんだから……っ。」 ガラス越しに一生懸命交渉している彼を見て、はすっと店を離れた。
「あぁ、良かった!快く売って下さいましたよ、さん!」
数十分後、交渉成功で機嫌良くニコニコしながら出てきたグライドは、店の前にがいない事に気が付いた。 「……あれ…、さん……?」 辺りを見回しても、知らないナビばかり。 彼女を見つける事は出来なかった。 「遅くなったので帰ってしまったのでしょうか……?」 交渉に熱中しすぎて彼女を放っておいたのは確か。 待っておいて、と約束をした訳でも無いが……。 「…………?」 何かが頭を過ぎる。 それは、彼女の悲痛な声のような……。 はっきりしないが、何かを叫んでいたような……。 「もしかして…、またやってしまったのでしょうか……。」 グライドは、額に手を付き、息を吐いた。 自分は毎回、何かやらかしてしまう。 特に、やいと様の事だと自分でも気付かない内に突っ走ってしまう事がある。 それで何度彼女を怒らせた事か……。 「きっと、今回もそれなのでしょうね……。」 彼女も大事だが、自分の主人も大事だ。 そのどちらかを選べと言われても、天秤にかける事は出来ない。 自分にとっては、両方大事で、両方守りたい存在なのだ。 「……今からで、間に合うでしょうか……。」 グライドは、すっと空を見上げると呟いた。 そして、レアチップの事を報告するべく一旦PETへ戻ろうと、来た道を引き返した。
「うぅ〜〜、グライドの馬鹿ーーー!」
は、狭い路地裏で膝を抱えて蹲っていた。 「いつもいつも「やいと様やいと様」って……っ。デートの時だって関係無しなんだから……っ。私の事はどうでも良いの……っ!?」 涙を目に浮かべ、グチグチとグライドへの不満を口にする。 「……そりゃ…、そんな優しいグライドが好きなんだけど……。」 たまには、主人よりも自分を選んで欲しいと思うのだ。 特別扱いして欲しいと、思うのだ。 「……だって、好きなんだもん……。」 ポツリ、とそう呟いた時ーーーーー……。 「あぁ、やっと見つけましたよ、さん!」
「ぐ、グライド……っ!?」
急に頭上から降って来た声。 大好きな、愛しい、グライドの声だった。 「な、何でここが……っ!?」 零れ落ちる涙を拭う事も忘れ、唐突なグライドの出現に混乱する。 「だって、さんは怒るといつも路地裏に隠れてしまいますから……。」 の言葉に、苦笑するように答えるグライド。 「……そう…だったっけ……。」 そう言えば、過去を思い浮かべてみると、毎回路地裏に隠れ込んでいたような気が……。 「しかし、何で毎回路地裏なんです?」 しゃがみ込んでいるの前にスッと身をかがめ、グライドが聞いてくる。 「……だって…、泣いてる姿なんて人に見られたくないじゃない……っ。」 優しい眼差しを向けてくるグライドに、プイと視線を逸らす。 「さん……。」 そんなに、グライドは優しく手を差し伸べた。 「…………っ!?」 そして、流れ落ちる涙を、指で拭った。 「私は…、あなたをいつも泣かせてばかりですね……。」 そう言って、悲しそうに苦笑する。 「私は…、やいと様もさんもどちらも大事です。どちらかを選ぶ事も出来ません……。それが…、このようなはっきりしない私の態度が…あなたを苦しめているのですよね……?」 切なそうに、グライドが呟く。 「……っグライド……。」 「でも、これだけははっきり言えます。あなたには、私の傍にいて欲しいと思います。傍で微笑んでいて欲しいと思います。あなたが愛しいと、思います……。」 そう言うと、少し、照れ臭そうに微笑んだ。 「やいと様に仕える身として、忠誠心は捨てられませんが…それでも、私の心の中にはあなたへの想いが存在しますよ。」 「…………っ!!」 今までにこんなにはっきりと気持ちを伝えられた事が無かったので、は中々言葉が出なかった。 「……こんな事を言うと、照れてしまいますけどね……っ。」 真っ赤になったを見て、グライドも少し頬を染める。 「さて、それじゃあ行きますか。」 すると、グライドは急に話を変えるかのように、の手を掴んだ。 「……えっ、どこへ……っ!?」 「休日デート、しましょう?」 驚いて目を見開くに、グライドは軽くウィンクをする。 「……ぇえっ!?でも、まだやいとさんの用事があるんじゃ……っ!?」 「それは断って来ました。今日はもうフリーですよ。」 益々混乱するに、グライドは爆弾発言をした。 「……ぇえっ、ぇえぇええ……っ!?」 その発言には驚きの声を上げる。 あのグライドが…、やいとさんに進言するなんて……。 「やいと様は快く許して下さいましたよ。これで少しは…私の想いも分かって下さいましたか?」 苦笑するように、口をパクパクさせるを見る。 「……っうん、うん!嬉しいっ、嬉しいよ、グライド……っ!!」 そんな彼に、は咄嗟に抱き付いていた。 「ぅわ!」 急な事に、グライドはバランスを崩す。 「グライド大好き……っ!!」 涙を流しながらも、ぎゅっと抱きついてくるを見て、グライドは優しく彼女の頭を撫でた。 「えぇ…、私も…あなたの事が大好きです……。」 そして、優しく、微笑んだ。 〜〜〜後書き〜〜〜 ハム猫・「……ぇっ、世にグライドドリを求めている人っているの……っ!?」 グライド・「失礼な!きっと…っ、多分…、一人か二人くらい、は…いるはずですよ……っ!?」 ハム猫・「限りなく曖昧な返答有難う、グライド。」 グライド・「……くっ……。」 ハム猫・「泣くな泣くな。しかし…、何だろう…この他に比べての甘さは……。」 グライド・「他は…特殊な設定が多すぎるんじゃないかと……。と、言うか人選と言うか……。」 ハム猫・「いや、でもグライド株急上昇ですよーーー。彼氏にしたいよーーー。」 グライド・「……あなたは死んでも嫌ですが……。」 ハム猫・「ぅわっ、ショック……っ!!まぁ、兎に角グライドも大好きです!」 グライド・「はぁ……。これを読んで楽しんで頂けた方はいらっしゃるのでしょうか……?」 ハム猫・「まぁ…どうだろう……。興味本位で見た人はいそうだけどね。」 グライド・「うぅ…、それでも、読んで頂けたのなら私は本望です……っ。本当に、ここまで有難う御座いました……!」 |