「先生ーーーっ!!」
「…………?」
それは、とある日のことだった。










不器用な愛情表現










「なぁに、スバルくん?」
声を掛けられた人物、は振り返った。
はこの島で学校の先生をしている。
声を掛けたのは、その学校で教えている生徒の1人であり、鬼妖怪シルターンの集落・風雷の郷を治める鬼姫ミスミのひとり息子であるスバルだった。
「あのさ!」
息を弾ませ、駆け寄ってきたスバルは目を輝かせて聞いた。
「先生って、今何が一番欲しいっ!?」
「……はい……?」
はその問い掛けに首を傾げた。
「だからぁ、何が欲しい?」
「いえ、そのっ……。」
急かすように繰り返し聞いて来るスバルにおろおろとする。
「急に聞かれても…、今は、特にこれと言って欲しい物は……。」
曖昧に答えると、見る間にスバルは頬を膨らませた。
「何か無いのかよーーー、ナウパの実とか、新しい服とか、アクセサリーとかっ。」
上目遣いに睨んでくるスバルを前に、冷や汗を流す
「ん〜〜〜、ナウパの実と言われても、最近は普通に食べてますし……。服は間に合ってますし、アクセサリーとかは特に付けませんしねぇ……。」
苦笑しながらも、上げられた物を1つずつ消去していく。
「1つも無いのかっ!?別に、欲しい物じゃなくても良いからさ、何か今望んでる事っ!!」
「望んでる事ですか……?」
んーーー、と人差し指を口元に持っていく。
「……そうだ!この前マルルゥに聞いたんですけど、この島には一年に一晩しか咲かないすっごく綺麗な花があるとか。その花を一度見てみたいなぁ、とは思ってますけど……。」
ぽん、と両手を合わせて言うと、スバルは複雑そうな顔をした。
「……それじゃあ、駄目ですか……?」
そんなスバルを見て、は恐る恐る聞いた。
「ん〜〜〜ん、いいよ。ゴメンね、先生。じゃあね!」
そんなをちらと見て、スバルはすぐに走り去ってしまった。
「一体何だったんでしょう……?」
1人残されたは、スバルのその行動を不思議に思っていた。










「ふぅ〜〜〜、ホント、あの先生って欲が無いよな……。」
スバルは、社の階段にどっかりと座って溜息をついた。
「はは…、殿らしいと言うか……。」
その隣に立っているのはキュウマ。
スバルの父、リクトに仕えていたシノビだ。
の彼氏でもある。
「誰のせいでこんな事してると思ってんだよっ!!」
隣でそんなスバルを見て苦笑しているキュウマを見て、怒鳴る。
「そ、そう申されても、自分はスバルさまに頼んだ覚えは……っ!!」
慌てて否定するキュウマ。
「キュウマが先生の手も握れないほどだから、おいらが一肌脱いでやろうとしてるんじゃんかーーー。」
ぷぅ、と頬を膨らませてスバルが言う。
「そ、そんな事を申されても…っ、自分は……。」
すでに顔が赤く染まってきているキュウマを見れば、2人の仲の進展を期待する方が無理なのかもしれない。
それに、今のままでも2人は幸せだろう。
しかし、誰かが後押ししてやらねば、この2人に進展は無さそうなほどなのだ。
ミスミも、やっとキュウマが思い人を見つけたのに、これでは先が思いやられる…、と嘆いているほどだ。
そんなこんなで、スバルが一肌脱いでやろうと決心したわけだが…、出だしから挫いてしまった。
「ま、そういう訳だから、先生にその花でも見せてやるんだな!」
すっくと立つと、スバルはそう言って去って言った。
「ス…スバルさま……。」
1人残されたキュウマはスバルが去っていった方向を、只見つめるだけだった。










「ふんふん〜〜ふん〜ふん〜〜〜♪」
ここはメイトルパの集落、ユクレス村にある妖精の花園。
ルシャナの花の妖精・マルルゥが鼻歌を歌いながら日の光を嬉しそうに浴びている。
と、そこへーーーーー……。



「そ、その…、マルルゥ殿……。」
この場所には全くと言って良いほどに似合わない人物が現れた。
「…………?あや?あやや……?ニンニンさんではないですかぁ……っ!!」
声のした方を振り返って、マルルゥは驚きの声を上げた。
マルルゥに声を掛けた人物は、「ニンニンさん」ことキュウマであった。
達一行がこの島に来てから、各集落の交流も深まったが、キュウマがこの場所に来たのは初めてだった。
「どうしたんですかーーー?ニンニンさんがここに来るなんて……。」
キュウマに近付きながら、いつもの明るい声で話しかけるマルルゥに、キュウマは人差し指を立て、声を落とすように示した。
「ぁ…、あの、ですね……。この間、殿にこの島で一年に一晩しか咲かない花の話をしたとか……。」
声を抑えてマルルゥに聞くキュウマ。
「お花……?んん〜〜〜、お花……。……っあぁ!あのお花の事ですねっ!!」
暫く悩んでいたマルルゥだったが、急に思い出したらしく、ポン、と手を叩いた。
「その花の咲く場所と時期を教えて頂きたいのです……っ!!」
これも愛するのため。
彼女が望むなら、その花を見せてあげたい。
その想いから、何故か気持ちが急いでしまう。
「えぇ〜〜〜…と、そのお花ならもうすぐ咲きますよ。」
ケロリ、と言ったマルルゥの言葉にキュウマは少し驚いた。
「なっ…、それでは、その機会を逃したら……っ!!」
「次の年まで待たなければいけませんね〜〜〜。」
アハハ〜〜〜、と笑うマルルゥに、眩暈を覚えるキュウマ。
「……そ、それで…っ、その詳しい時期と場所は……っ!!」
もうすでに、マルルゥを掴み殺す勢いで。
一分一秒でも無駄に出来ないという気持ちで、キュウマは聞いた。
「それがですねぇ〜〜〜、マルルゥも詳しくは知らないですよ。咲く場所も咲く日も、毎年少しずつ違うですし。」
ん〜〜〜、と、考えながら応えるマルルゥに、キュウマは泣きたい気持ちになった。










かくして、この日から、キュウマの夜の見回りが始まった……。
毎日、夜になるとキュウマはミスミやには気付かれないように、最新の注意を払いながら館を出る。
この時ほど、自分がシノビで良かったと思った事は無かったかもしれない。
(と、言っても、ミスミにはとっくにばれていたのだが、本人が傷つくので言わないでおこう。)
この島のどこかーーーーー。
口では簡単に言えるが、この島は結構な広さがある。
マルルゥの言う事では、その花は夜に咲き、綺麗な淡い光を放つのだと言う。
一つ二つ咲くのではなく、広範囲に群生するので、見つけるのはそう難しくはないだろう、との話ではあるが……。
今まで見たことも無く、どこに咲いていたのかも知らないキュウマには、片っ端から探すと言う方法しか無かった。
まずはユクレス村の辺りから始め、徐々に、狭間の領域等にも足を運ぶ。
一晩しか咲かないと言う事なので、少しでも見落としがあったら大変な事になる。
故にキュウマは、毎日一晩で島中を見て回る事となった。










「最近キュウマさん顔色悪いですけど、どうかしたんですか……?」
そんなキュウマの苦労も知らず、ある日はミスミ達と茶を飲みながら言った。
「ぃっ、いえ、その、何でもありませんよ…、殿……っ!!」
キュウマは、茶を吹き出しかけるのを抑えて言った。
「そうじゃ、きっとなんでもあるまい。夜中に一人出歩いたりしているわけでもあるまいし…、のう、キュウマ?」
ニッコリと、それは楽しそうにミスミがキュウマに微笑む。
その瞬間、キュウマは石化したが、出来るだけ冷静を保って笑顔を作った。
「そ…、そうですよね、ミスミさま……っ。」
心の底から楽しそうに微笑むミスミと、何となく口元が引きつっているキュウマを見ながら、は少し小首を傾げた。










そんな、胃に穴が開きそうな日々が4日間続いたある日ーーーーー……。


「こ、これは……っ。」
その日もいつもと変わらずキュウマが夜、例の花を探していたところ、前方の方に何やら光るものが見えた。
この先には特に何も無かった気が…、そう思い近寄ってみると、そこには何とも美しい花が咲いていた。
「まさか…、これが……。」
今まで想像していたものよりも、はるかに美しいその花に息を呑むキュウマ。
美しく咲き乱れる花々を見て、一瞬時間を忘れていた。
「……っそうだ!殿に見せなければ……っ!!」
そう思い、しゃがみこむ。
沢山ある花の一輪に手を伸ばしーーーーー……。
「…………っ!!」
茎を掴もうとした瞬間、キュウマは堅く目を閉じ、地を蹴った。










コン……コン…コン


「ん……?」
今は真夜中。
誰もが寝静まった時間である。
そんな時間なのに、誰かが戸を叩く音。
一体どうした事かと思い、は寝床から起き上がった。

「どうしたんですか……?」

そう言いながらカラリ、と戸を開けるとーーーーー……。



「キュウマさん……っ!?」



そこにいたのは、珍しく息を切らしているキュウマだった。
「何かあったんですか……っ!?」
「夜分遅く、申し訳ありません、殿……っ。」
キュウマは真剣な顔で言ってくる。
まさか、またこの島に悪い人達が来たのかと思い、体を強張らせる
「少し…、自分と一緒に来て欲しいのです。」
キュウマは、そんなの腕を掴みながらそう言った。
「あ、あの…少し待ってて下さい。準備をしてきますから……っ。」
はそう言うと、一旦戸を閉めた。










サク……サク……サク


先程からずっと、足元の草を掻き分けながら森の中を進んでいる。
キュウマがそれ程急いでいないところを見ると、別に怪しい人物が島に来たとか言う事では無さそうだ、とは思った。
しかし、行き先も何も知らされてはいない上に、こんな真夜中に森に入った事など今まで無かったので、何だか少し怖い気がする。
「ぁ…あの、キュウマさん?一体何処に向かってるんですか……?」
先を進むキュウマの背中に声を掛けてみる。
「申し訳ありません、もう少しで着きますから……。」
しかし、キュウマは振り返りもせずに、そう言うだけだった。
ふぅ、とは一つ息を吐き、キュウマを信じて付いて行くしかないな、と思った。





それから十分ほど進んだ所でーーーーー……。


「あれ……?何だか光が……?」
キュウマの後ろから付いて行っていたの目に、淡い光が見えた。
どうやら開けた場所に出るらしい。
進んでいくと、その光がだんだんと大きくなっていった。



ガサッ……



最後の叢を掻き分け、その場所に出た途端、は息を呑んだ。
「これって……っ!!」
両手で口を覆う。
驚きで言葉が続かない。
殿が見たがっていた花ですよ。」
気が付けば、今まで自分の前を歩いていたキュウマは、横に立ってを見つめていた。
「私…、が……?」
ぽかん、とキュウマを見上げる。
「マルルゥ殿に聞いたのでしょう?この島には一年に一晩しか咲かない花がある、と……。」
キュウマのその言葉を聞いた途端、は目を丸くした。
「じゃ、じゃあ…っ、これがその……っ!!」
は嬉しさの余り混乱して、キュウマの顔と、その花とを交互に見た。
そして、その花の余りの美しさにホゥ、と溜息をついた。
「すごく綺麗です……。こんなに綺麗な花があるなんて……。」
キュウマは、幸せそうに呟くの横顔を見ながら優しく微笑んだ。
「でも…、何でキュウマさんがその事を知ってたんですか……?」
ふと、気になって口にしてみた。
「私がマルルゥに話を聞いてる時は、他に誰もいませんでしたけど……。」
その瞬間、今まで冷静だったキュウマが急にあわてだした。
「いぇ、その、これは…ですねっ。何と言いますか、その…スバルさまが……っ!?」
ついつい、うっかりと口からこぼれた言葉。
その言葉に、はピン、と来た。
「あぁ、そう言えばスバルくんに聞かれましたね。」
そう言って、はニッコリと微笑んだ。
「……すみません……。」
何故か悪いような気がして、キュウマは頭を垂れて謝った。
「何で謝るんです?私は嬉しいですよ。こんなに素敵なものを見れたんですもの。」
そう言い、ニッコリと微笑むに、キュウマの顔は一瞬で赤くなった。
「それに、謝るのは私の方ですよ。最近キュウマさんの顔色が悪かったのは、夜にこの花を探していたからなんですよね。一晩しか咲かない花…、いつ咲くかも分からないのに、探すのは大変だったでしょうね……。」
しょぼん、と俯き言う
「そ、そんなことは無いですよ!自分は、殿に見てもらいたくて探したんですから……っ!!」
キュウマは精一杯、心配かけまいと明るく言った。
「キュウマさん……。」
そんなキュウマを嬉しく思う
「本当は…、見つけてすぐに摘んで帰ろうと思ったんです……。でも、きっとそんな事をしたら貴女は悲しむ。それに、一輪だけ見るよりも、沢山咲いている姿を見るほうが美しいだろうと思って……。」
目線を足元に向かわせながら、キュウマが言う。
「……有り難うございます……。」
はそう言って、未だに俯いているキュウマの手を優しく握った。
キュウマは驚いての顔を見たが、優しく微笑む彼女を見て、彼もまたそっと握り返した。








誰もが寝静まっている夜。

暗い森の中、2人は夜空を照らす満月と、足元を淡い光で包む美しい花々に見守られながら、ずっと、手を握り合っていたーーーーー……。










☆★☆おまけ。☆★☆



「キュウマーーーーッ!!」
遠くから駆けて来るのはスバル。
「どうなされました、スバルさま?」
名前を呼ばれた人物は足を止め、振り返った。
「先生と朝帰りしたって本当か……っ!?」
「ブッ……!!」
唐突な彼の言葉に吹き出すキュウマ。
「だ、誰がそんな事を……っ!!」
「母上。」
顔を真っ赤にして聞いてくるキュウマに、あっさりと返すスバル。
「み、ミスミさまが……っ。」
すでに、空いた口が塞がらない状態である。
「うん。すっごく嬉しそうだったぞ。「とうとうあの2人も大人になったか。子供の顔を見れるのももうすぐかのう。」って言ってた。」
もうすでにキュウマは、耳も首も通り越して全身真っ赤といった方が良いのではないか、と言うような状態である。
頭がショートしているのではないか、と思われるほどに真っ赤だ。
「…………っ!!」
しかし、キュウマは突然スバルを押しのけて走り出した。
「どしたーーっ、キュウマーーーっ!!」
スバルはそんなキュウマをぽかん、と見送った。



『急いでミスミさまの元に行かなければっ。

一体、誰に言いふらされるか分かったもんじゃない!

しかも、殿にまで言われたらーーーーー……っ!!』


そんな事を考え、キュウマは真っ赤な顔を風で鎮めながら、風雷の郷に猛ダッシュして行った。



















〜〜〜後書き〜〜〜

ハム猫・「は〜〜〜い、思うが侭に書いた(強制終了とも言う。)キュウマドリでっす。いかがでしたでしょうか?って言うか、彼ってマイナーなんでしょうか?」

キュウマ・「何だか自分が情けない気がするんですが……。」

ハム猫・「だって、そうじゃん☆シノビのくせして忍んでないキュウマさん。(禁句。)」

キュウマ・「う゛……っ。それはともかくとして、題名が内容と合ってない気が……。」

ハム猫・「そんなのいつもの事さ★最初は「愛の形〜この花を貴女に〜」だったんだけど、クサ過ぎて嫌だったので今のになりました。」

キュウマ・「そ、そうだったんですか……。それにしても、スバルさまと言い、ミスミさまと言い、何だか自分をからかっているような気がするんですが……。」

ハム猫・「そうしなきゃ話が進まないんだよ。それにミスミさまとか動かしやすいし。」

キュウマ・「…………。(溜息)」

ハム猫・「これからもっとキュウマドリを普及させるために書いていきたいと思います〜〜〜。キュウマ良いんだよーーっ、可愛いんだよーーーっ!!」

キュウマ・「か、かか、可愛い……っっ!!?」

ハム猫・「うん。The☆乙女。いえ、十二分にかっこいいですが。とにかく、これを読んで少しでもキュウマを愛しいと思った方がいましたら、レッツ☆ドリームですよ!」

キュウマ・「……そ、それでは、このような拙い文章を読んでくださった方々、有り難うございました。その…、また会えることを楽しみにしていますねっ……。」



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