きっかけは、私のこの一言だった。 「昨日ね、お父さんから映画のチケット貰ったんだけど、誰か一緒に行かない?」 ーーー映画館へ行こう!ーーー 土曜日ーーー……。
今日の授業が終わってクラスの大部分の生徒が帰ってからも、私は隣の席のサクラちゃん達とついつい話していた。
「あっ、そうだった!」 その会話の途中で、私は声を上げた。 「昨日ね、お父さんから映画のチケット貰ったんだけど、誰か一緒に行かない?」 そう言って、ポケットからチケットを取り出す。 「……って言っても、ペアチケットだから2人しか行けないんだけどね……。」 手に持ったチケットを少しずらすと、それは2枚しか無かった。 「あーーー、この映画ねぇ!私この前見たわよ!」 私の手に持たれたチケットを見て、サクラちゃんが言った。 「そうなんだーっ、良かった?」 「うん!良かったわよーーーっ!!」 そう私達がキャアキャアとはしゃいでいると……。 「ペアチケットか…、じゃあ、オレが貰うよ。」 すっ…、と私の手からチケットが1枚抜き取られた。 「え?」 「サスケ君ーーーっ!!」 私が振り返ると同時に、サクラちゃんが叫ぶ。 そう、そこにいた人物はあのサスケ君だった。 「オレはまだこの映画見てないからな。」 「ぇっと…、はぁ……。」 何が何だか分からないような顔をしていると……。 「あ゛ーーーっ!!サスケってばサスケってば、何やってるんだってばよっ!?」 そこに大声を上げて現れたのはうずまきナルト。 「ぁ?ナルトか……。オレはただと映画を見に行こうとしてるだけだが?」 あからさまに鼻で笑うような顔をして、サスケは言った。 「……ぁの、私まだ何も言ってないんですけど……。」 そんな私の言葉は無視して、2人は何故か火花を散らし始めた。 「サスケがちゃんと〜〜〜っ!?んな訳あるか!オレが行く……っ!!」 サスケのその言葉に、肩を震わせつつ、ナルトは言った。 「はっ、お前がいつも見てるようなアニメ映画じゃないんだぜ。お前が行ったって見てる間に寝るのがオチだろ。」 サスケは、手に持ったチケットをひらひらと揺らしながら言う。 ナルトはその言葉に言い返せないでいた。 「……っでも、お前が行くのは絶対に許せないってばよっ!!」 そう言い放つと、ナルトは素早く印を結び始めた。 「…………っ!?教室で術なんか使っちゃ駄……っ!!」 そうが叫びかけた時……。 ワン……ッ!!
「…………っ!?」
ヒラリ、と何かが飛んで、サスケの手からチケットを抜き取った。 「ヒャッホー!良くやったぜ、赤丸っ!!」 サスケが驚いて後方を見ると、そこにいたのは犬塚キバ。 足元に戻って来た赤丸の口からチケットを取る。 「残念だったな、サスケ。チケットは俺がもらったぜ!」 「なっ、キバ……っ!?」 不覚にもチケットを取られた事で言葉が出ないサスケに対し、驚きの声を上げるナルト。 「って事だから、俺と一緒に行こうぜ、。」 そんな2人を無視して、キバはに話しかける。 「いぇ…、えっと……。」 が言葉に詰まっていると……。 「火遁・豪火球の術……っ!!」 サスケの声がしたと思うと、チケットを持っているキバの手に向かって、炎が伸びた。 「…………っ!?」 間一髪の所で手を引っ込めたキバは、何とか怪我をせずにすんだらしい。 「バッ…、おま、んな事したらチケットが焼けるだろうが……っ!?」 「お前が行くくらいなら、消した方がマシだ。」 冷ややかにそう呟くサスケ。 「ぅあぁぁあ〜〜〜、教室の壁が丸こげだぁ……。イルカ先生に怒られるよぅ〜〜〜。」 先ほどの術で一面真っ黒な壁を見て、は呟いた。 「まったくっ、お前みたいな危険な奴とを一緒にいさせられるかってんだ!」 そう言ったかと思うと、キバは教室を出て行った。 赤丸も後を追う。 「なっ!?逃げる気か……っ!?」 「これも一つの作戦だぜ!」 キバの後を追いながら、叫ぶサスケ。 「ぁ、あっ、待つってばよーーーっ!!」 少し遅れて、ナルトも2人の後を追い、教室を出て行った。 「……何だったのよ……。」 教室に残った私達は、ただただ驚きに口をポカンと開けているだけだった。 「……っ、私、追いかけてくる!」 サクラちゃんが呟いた後、ハッと我に返ったは、そう言い残すと教室を出て行った。
が後を追って校舎を出ると、すでに3人はアカデミーに隣接している森の中に入ったらしいかった。
「あぁ〜〜〜っ、もう!何であの人達は勝手に突っ走るかなぁ……っ!?」 そう言いながら、も木々を蹴って先を急ぐ。 何やら前方で、木々が燃える音やら倒れる音やらその他悲鳴やら…、諸々の恐ろしい音が響いて来る。 「…………。あの人達何してんの……。」 急いで止めなければ、この森が大変な事になりそうだ、と思い、は先を急いだ。
「オイ、キバ!早くそのチケット渡すってばよ!」
一方、から離れ、前方では未だに3人の戦い(?)は続いていた。 「……ハッ、んな事言われて素直に渡す奴がいるかよ!」 先頭をキバと赤丸が進んでいる。 その後を、殺気立ったサスケと、サスケの豪華球の術で少々焦げたナルトが続いている。 「お前らこそ諦めろよな!しつこい男は嫌われるぞっ!!」 ずっと追い駆けられているキバが、少し苛立ちながら後ろを向き、叫んだ。 その瞬間。 その一瞬を、サスケは見逃さなかった。 腰のポーチから一本クナイを取り出し、キバに向けて放つ。 当然、キバはそれをギリギリでかわしたが、クナイに気を取られていたせいで足元への注意が薄れていた。 後ろを向いていた事もあり、木の枝を蹴り損ね、バランスを崩す。 「…………っ!!」 その隙に、サスケは一気に距離を縮め、キバの手からチケットを奪い取った。 「もっと集中力を鍛えておくんだな……っ。」 キバを後方に残しながら、そう言い放ちその場を去るサスケ。 「くっそぉ……!」 悔しそうにサスケを睨むキバ。 これで、と共に映画を見に行ける、と気を緩ませた瞬間ーーーーー……。 「お前こそ、気が緩んでるってばよ……っ!!」 足元に影が落ち、次の瞬間にはナルトに上から押さえ付けられた。 「……何……っ!?」 元から馬鹿にしていたナルトの事。 ライバル相手には全くカウントしていなかった事が祟ったらしい。 キバに気を向けている間に回り込まれたようだった。 「お前、そのチケット渡すってばよ〜〜〜っ!!」 ギリギリと、どこにこんな力があったのかと言うほどの力で、サスケの手を押さえ込む。 「……クッ……!」 不利な体制で押さえ込まれたせいもあり、一瞬サスケの手の力が緩む。 そして、そのチケットはヒラヒラと森の中を落ちて行った。 「あ゛ぁ〜〜〜っ、チケットがぁ……!」 ナルトは大声をあげ、落ちて行くチケットに目をやる。 その瞬間、サスケは思い切り力を込めてナルトに肘鉄を食らわせる。 「…………っ!?」 見事に顎に決まったナルトは、声にならない悲鳴を上げた。 ナルトが痛みに呻いている間にチケットを取りに木を下りようとすると、その視界に何かが走った。 先程、サスケがチケットを奪ったキバだった。 「へっ、やっぱりオレのトコに戻って来たみたいだな!」 してやったり、と言うような笑みを浮かべてサスケにそう言うと、赤丸と共に颯爽と駆けて行く。 「クソ……ッ!!」 あっという間に森の中に姿を消したキバを追い駆けるべく、サスケもまた、地を蹴った。
「ナルト君……っ!?」
が森を進んで行くと、木の下で顎を押さえて蹲っているナルトを見つけた。 「どうしたのっ、何があったの……っ!?」 急いでナルトの元に駆け寄る。 「ぁ、ちゃん……っ!!ぃや、その、あのチケットまたキバに取られちゃったってばよ……。」 シュン、と怒られた子犬のように俯いて、ナルトはそう言った。 「えぇっ!?まだ取り合ってるの……っ!?あんなの唯の映画のチケットなのに……っ!!」 彼らが教室を出てから早30分は経とうかと言うのに。 「まったくもう…、人の話も聞かないで……っ。」 今一本人は彼らが何故にそんなに一生懸命にチケットを取り合うのか分かっていないようだが、自身にも、まだ何か言っていない事があるらしい。 「私は先行って2人探してくるから、ナルト君は気を付けて帰ってね!じゃあね!」 そう言って、は颯爽と駆けて行った。 「……ちゃん……。」 そんなの後姿を、寂しそうな瞳でナルトは見つめていた。
「まったく…、もうあんな物取り合っても意味無いのに……っ。」
今までに無い程に全力で走り、少し息を切らしながら呟く。 広い森の中…、彼等がどちらに行ったのか良くは分からないが、とにかく前に進んで行った。 「でも…、考えたら何で私こんなに必死になって追いかけてるのかなぁ……。放っておけば良いのにな……。」 ふと、そういう考えに辿り着き、走るスピードを緩めかけたその時……。 「…………っ!?」
左手の方で爆音と共に、キバの悲鳴が聞こえた。
「まさか……っ!?」 急いでそちらに駆けて行く。 どうやら、サスケの豪火球の術を食らったらしい。 大きな怪我になっていなければ良いが……。 「サスケ君、キバ君……っ!?」 森の木々を抜けて、サスケとキバの姿を確認した。 「……っ……っ!?」 片手にクナイを持って、キバに襲い掛かろうとしていたサスケは、の声に振り返った。 「……っ大丈夫、キバ君……っ!?」 見ると、サスケの数歩先には、腕を抱えたキバが横たわっていた。 「……ぅあ、、か……っ。」 どうやら、チケットを持っていた腕を火傷したようだ。 を確認すると、苦しそうに名を呼んだ。 「何でこんな事するのよ……っ!?キバ君は友達なんでしょっ!?」 そんなキバに、急いで腰のポーチから薬を取り出しながら近寄る。 特別調合の、火傷に良く効く薬だ。 「これ塗ったら大丈夫だからね……。」 キバの腕を優しく支えて、薬を塗る。 「…………。」 サスケは、の言葉に今まで熱くなっていた頭が冷めてきていた。 ただ、クナイを持つ手を力なく下げて、の後姿を見つめている。 「本当に…、何であんなチケット一枚でここまでするの……?そんな事しても、もう何も意味無いのに……。」 幸い、それ程酷い火傷ではなく、早くに薬を塗ったために痕は残らなさそうだった。 「…………?」 そのの言葉に、サスケは疑問を抱く。 「……それは……っ。」 サスケが、の背中に声を掛けようとしたその時……。 ガサッ……。
「…………っ!?」
後方の茂みから音がした。 驚いてサスケが振り返ると、そこには……。 「ったく…、さっきから何なんだぁ?人が気持ち良く寝てるってのに……。」 欠伸を噛み殺しながらシカマルが立っていた。 「えっ、ぁ、シカマル君……っ。」 その声に、も振り返る。 「せっかく昼寝してたのに、あっちこっちでドッカドカ煩ぇよ……。お蔭で目が覚めちまった。」 と、言いながら、辺りの状況を見る。 「あぁ?お前等何やってたんだ、今まで……?」 倒れているキバや、クナイを持ったサスケ、キバを支える、と異様な雰囲気のその場を不思議に思う。 「…………っ。」 とにかくもう少し近寄ろう、と数歩踏み出すと、足元で何か音がした。 見ると、何かを踏んでいる。 「……何だこりゃ……。」 腰を曲げ、手に取るとそれは映画のチケット。 しかも、少し焦げている。 「あっ、それ……!」 シカマルの手に持たれたチケットを見て、が声を上げる。 「ん?映画のチケットか……。でもこれって『午後1時半まで』って書いてるぜ。しかも今日の。」 シカマルが読み上げた事に、サスケは目を丸くした。 「……っな、何……っ!?」 シカマルに近寄って、そのチケットを奪う。 「…………。」 チケットの注意文を読んで呆然とするサスケ。 「……だから言ったでしょ。そんな事しても意味が無いって……。」 そんなサスケを横目で見て、が呟いた。 教室を出た時間から考えても、すでに1時半は過ぎてしまっているだろう。 「人の話聞かないから……。はぁ〜、その映画今日で公開終わるのになぁ……。」 後ろから恨めしそうに呟かれ、サスケは凍り付いていた。 かなり、確実に、好感度ダウンだ。 「何だよ、この映画見たかったのかよ?」 そんなサスケなど無視して、シカマルはに話しかける。 「うん……。だって、それ原作は有名な小説なんでしょ?サクラちゃんも良かったって言ってたし……。」 ションボリ、と項垂れて話す。 「んなの、原作読めば良いじゃんかよ。オレは映画見るより本で読んだ方が面白いと思うけどな。」 「でも、私あんまり活字ばっかりの本は読んだ事無いし〜〜〜。」 シカマルの言葉に、渋る。 「あれは違うって。最初はつまんねぇかも知れねぇけど、それさえ我慢したらすぐにその世界に入れちまうぜ。」 唇を尖らせているの顔を見て、シカマルは苦笑した。 「シカマル君って読んだ事あるの?」 は、シカマルの言葉を聞いて顔を上げる。 「ん?あぁ、オヤジが持ってたからな、暇潰しに読んだ事はある。」 その言葉を聞くと、は急に顔を明るくした。 「ねぇっ、じゃあさじゃあさ、その本借りちゃ駄目かなぁ?私も読んでみたいなぁ〜〜〜!」 すく、と立ち上がり、シカマルの周りをくるくると回り始める。 「ねぇねぇ、今からおじさんにお願いに行っても良い?」 少し小首を傾げながらシカマルに尋ねる。 「……っ、ぁ、あぁ、どうせオヤジの本棚に突っ込んであるだろ。勝手に取ってっても気付かねぇって。」 そのの行動に、シカマルが少し頬を赤らめたのをサスケは見逃さなかった。 「やったぁーーー!じゃあ、今からシカマル君家にレッツゴーーーッ!!」 腕を上げて元気にそう言うを見ながら、ここにもライバルがいたと言う事に気付いたサスケ。 「じゃあ、そう言う事だから後よろしくね、サスケ君!責任持って、キバ君を医務室に連れて行ってあげてね♪」 ニッコリと、輝かんばかりの笑顔でそう言われては断れるはずが無いのだが、サスケはシカマルと一緒に去って行くを悲しそうに見つめた。 漁夫の利ーーーこの言葉を噛み締めながら、サスケは気を失ったキバを引きずって、森を後にした……。 〜〜〜後書き〜〜〜 ハム猫・「え゛ぇ〜、まずは楠さんゴメンナサイ。」 シカマル・「初っ端から謝りやがった……。」 ハム猫・「こう言うのは早い者勝ちさ☆(何。)何だかもう、何処が逆ハー?みたいな感じに仕上がってしまいました。しかも、シカマル最後しか出ないし。別人だし。最終的に良い思いしたのってキバっぽいし。(薬塗ってもらっちゃったしね。)因みに、アカデミーの隣に森なんか無いじゃん、って言うツッコミは無しで。」 シカマル・「一体オレは何時から居眠りしてたんだよ……。」 ハム猫・「きっと授業でもサボってたんじゃないんでしょうかね?」 シカマル・「しっかし、本当に夢の欠片も無いよなぁ〜〜〜。」 ハム猫・「そうですね〜〜〜。」 シカマル・「穏やかに返事してんじゃねっつーの。」 ハム猫・「だって、気付いたら殆どがバトル?シーンに……。しかも、中途半端な。」 シカマル・「まぁ、本当に中途半端っつーか……。サスケとかもっと強ェーだろ?」 ハム猫・「そうは思いましたが、サスケ1人勝ちだとサスケオチになってしまいますので。」 シカマル・「しかも、「午後1時半」までの映画チケットって何だよ。」 ハム猫・「そうでもしないとこのネタが成立しないんだいっ!!細かい事は気にするなーーーっ!!」 シカマル・「(細かい事か……?)」 ハム猫・「と、言う感じで本当に夢のなり損ないのような物ですがこんなのでも宜しければ貰ってやって下さい!」 シカマル・「本当にすまねぇな。ま、今度はゆっくり映画見に行こうぜ。」 |